判例データベース

社会福祉法人レントゲン技師事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
社会福祉法人レントゲン技師事件
事件番号
東京地裁 − 平成6年(ワ)第19033号
当事者
原告 個人1名
被告 個人1名
被告 社会福祉法人N協会
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1995年05月16日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告法人は、総合的な福祉サービスの提供を目的とし、被告病院を経営する社会福祉法人であり、被告は平成2年4月からレントゲン技師として被告病院に勤務し、平成5年3月31日の定年退職後、引き続き嘱託として被告病院に勤務していた者である。一方原告(昭和38年生)は、脳性小児麻痺による体幹機能傷害のため、両上肢、両下肢に麻痺がある女性である。

 原告は、治療及び集中訓練を行うため、平成6年2月7日、被告病院に入院した。同年3月18日、原告はレントゲン室に入ったところ、被告は原告をレントゲン台に寝かせた後、ショーツの下に手を入れて性器付近に触れ、更にトレーナーの下から手を入れて胸を触り、付き添いの看護婦を退室させた上で、約30分にわたり性器に触り、膣に指を入れ、胸を触るなどの行為を繰り返した。
 原告は、被告の行為は、両上肢及び両下肢に麻痺があるため抵抗することが不可能な原告に対する卑劣極まる猥褻行為であり、原告は被告の行為によって膣内に傷害を受けたほか、癒すことのできない精神的打撃を受けたとして、被告及び被告法人に対し、慰謝料1000万円、弁護士費用100万円を請求した。一方、被告らは猥褻行為の事実を否定して争った。
主文
1 被告らは原告に対し、連帯して金300万円及びこれに対する平成6年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
4 この判決の第1項は、仮に執行することができる。
判決要旨
 本件においては、被告によって撮影室に内側から鍵がかけられた事実が認められ、密室性が極めて顕著であったといえる。被告は、猥褻行為をしようとするなら、レントゲン撮影の途中で介助のために看護婦を呼ぶはずはないと主張するが、被告は介助のために必要な看護婦をあえて退出させたものであり、後に同看護婦を呼び戻したのは、斜位像の撮影が介助なしでは不可能であったためである。また被告は、原告が真にいかがわしい行為をされたのであれば、看護婦がレントゲン室に戻ったとき、直接その場において、又は病棟に戻るまでの間にその内容を看護婦に伝えなかったことは疑問であると主張する。しかし、重度の身体障害により入院中の原告が、レントゲン技師から猥褻行為をされた場合、羞恥心や屈辱感で、たやすく人にこれを訴えられないことは、医療従事者である被告自身が良く承知しているはずである。にもかかわらず、原告の羞恥心や屈辱感を逆手に取るような主張をするということは、医療従事者として常識を逸した行為というほかない。

 以上のとおり、被告が原告主張のような猥褻行為に及んだことが認められるのであり、この事実を否定する被告本人の供述は信用することができない。したがって、被告は原告に対し、右不法行為により原告が被った損害を賠償する責任がある。

被告法人は、本件事件発生当時、被告の使用者であったものであり、本件猥褻行為は被告の職務に関連して行われたことが明らかであるから、被告法人は原告に対し、被告の不法行為によって原告に生じた損害を賠償する責任がある。被告による猥褻行為は、通常の医療関係者には理解し難い被告の性癖に基づくものと考えられるが、被告法人が平成6年4月11日付けの書面によって初めて原告の主張を知ったのであるとしても、その後もレントゲン撮影の介助に当たった看護婦から事情を聴いたのみで、その他の職員に情報の提供を求める努力をした様子がなく、再発防止の対策を検討した形跡も認められない。被告法人が被告の素行に関心を払っていれば、その後何らかの対処をし得たはずであり、被告法人がその使用者責任を争う余地はない。
原告は被告による不法行為により、性的自由を侵害されたものであり、これによる原告の屈辱感及び恐怖感は極めて大きいものといえる。原告は、その障害の故に、将来にわたって医療機関に対して信頼を寄せ、援助を受けていかなければならない者であるが、そのような原告が、現に治療及び介護を受けている医療機関内において本件不法行為を受け、それによって医療機関に対する信頼を裏切られたのであり、これによる原告の精神的苦痛は重大である。原告の右精神的苦痛並びに被告が原告の主張を頑強に否定したため、原告としては本件訴訟を提起せざるを得なくなり、弁護士費用を要することとなったこと、及び弁護士費用の相当額等を考慮すると、被告らが原告に対して支払うべき慰謝料の額は、300万円をもって相当と認める。
適用法規・条文
02:民法709条,715条,
収録文献(出典)
判例タイムズ876号295頁
その他特記事項
本件は控訴された。