判例データベース
M社化学物質過敏症控訴事件
- 事件の分類
- 職業性疾病
- 事件名
- M社化学物質過敏症控訴事件
- 事件番号
- 大阪高裁 − 平成18年(ネ)第1657号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2007年01月24日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(確定)
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審被告)に雇用される控訴人(第1審原告)は、新社屋移転後の平成12年5月から、吐き気、頭痛、喉の痛み等を感じるようになり、化学物質過敏症と診断された。控訴人は、同年8月、労働基準監督署長に対し労災保険の請求をしたところ、平成17年10月に同署長から、後遺障害等級12級12号で症状固定されたと認定され、治療費、休業補償、障害補償の支給を受けた。控訴人は、新社屋のホルムアルデヒドなどの有害化学物質により化学物質過敏症などに罹患したこと、被控訴人に安全配慮義務があったことを主張し、被控訴人に対し1520万円余の損害賠償を請求した。
第1審では、控訴人は新社屋移転により化学物質過敏症に罹患したことは認定したが、当時の状況から見て、被控訴人が化学物質過敏症等に罹患することまで認識することは不可能ないし著しく困難であったと判断し、控訴人の請求を棄却したため、控訴人はこれを不服として控訴したものである。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- (1)当裁判所も、控訴人が被控訴人の新社屋移転を契機として、化学物質過敏症に罹患したものと認められるものの、この点について、被控訴人に控訴人に対する安全配慮義務違反は認められないものと判断する。その理由は、(2)の通り付加するほか、原判決の判断と同じである。
(2)控訴人は、当審において、厚生省生活衛生局長が平成12年6月に各知事等に対し、ホルムアルデヒドの室内濃度指針値やその標準的測定方法の通達を出しているから、ホルムアルデヒドの危険性が客観的に明らかになっていたと言えること、被控訴人は営業上の理由から、化学物質の危険性を十分に認識していたこと、控訴人は被控訴人に対し、新社屋移転後、体調が悪いことを繰り返し訴え、またマスクをしながら仕事をしていたし、他の従業員にも新社屋の建材の臭いを指摘したり、体調の不良を訴えていた者がいたことを総合すれば、被控訴人は、控訴人が化学物質過敏症に罹患する危険性を十分認識できたのであり、医師から新社屋の空気清浄の必要性の指摘を受けた後も、窓を開ける等の簡単な対策さえとらなかった被控訴人には安全配慮義務違反が認められると主張する。
この点についての当裁判所の判断は原判決説示と同じであるが、付言すれば、控訴人以外の従業員では悪臭や喉の痛みを訴えた者が数人いたが、これらの者も暫くすると症状が軽快し、控訴人ほど深刻な症状を発症した者はいなかったこと、被控訴人の新社屋におけるホルムアルデヒド濃度は、一般健康労働者にとっては症状が出るほどの曝露濃度ではなかったと認められること、控訴人の診断をした医師の中にもシックハウス症候群又は化学物質過敏症が広く知られていたとは認められないことからすれば、被控訴人において、ホルムアルデヒドについて対策をとるべき安全配慮義務に違反したとまで認めることはできない。また、被控訴人において、控訴人の主張する窓を開ける等の換気によって、控訴人の症状がより軽度に留まったことを認めるに足りる証拠はない。 - 適用法規・条文
- 民法
- 収録文献(出典)
- 労働判例952号77頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 − 平成15年(ワ)第3841号 | 棄却(控訴) | 2006年05月15日 |
大阪高裁 − 平成18年(ネ)第1657号 | 控訴棄却(確定) | 2007年01月24日 |