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A社船橋工場臨時従業員更新拒絶仮処分申請事件

事件の分類
解雇
事件名
A社船橋工場臨時従業員更新拒絶仮処分申請事件
事件番号
千葉地裁 - 昭和50年(ヨ)第89号
当事者
その他債権者 個人12名 A〜L
その他債務者 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1980年04月09日
判決決定区分
一部認容・一部却下(控訴)
事件の概要
 債務者は、我が国最大の板ガラス・テレビガラスバルブ等の製造販売を目的とする株式会社であり、債権者らは昭和48年4月から同49年8月までの間に、債務者船橋工場に主としてテレビバルブ製造に従事するため3ヶ月の有期又は季節工として雇用された従業員であって、3ヶ月ごとに労働契約の締結を繰り返していた。
 債務者は、石油ショック後の不況によりカラーテレビの需要が減退し、それに伴い船橋工場の主力製品であるテレビ管球の需要も著しく低下したことから、これを打開するため、本工・臨時工の新規採用中止、時間外就業の縮減、余剰人員の他工場等への転勤、管理職数の減少、管理職の賃金カット、本工の業務休などを実施したものの、なお余剰人員が残るとして、債権者らを含む有期工、季節工130余名を昭和50年2月から3月にかけて雇止めした。これに対し債権者らは、面接の際の担当者の「3ヶ月以上は勤めてもらいたい」「1年以上勤めれば有給休暇が出る」などの発言からみて、債権者らと債務者の間の労働契約は当初から期間の定めのない契約であったこと、そうである以上本件雇止めは整理解雇に当たるところ、債務者は配置転換、一時帰休、希望退職者の募集等の努力を何一つせず、債権者らに了解を求めるための努力もせず、画一的かつ安易な基準により解雇をしたものであって、本件雇止めは信義則に反し、権利濫用として無効であるとして、債権者らが従業員たる地位にあることの確認と賃金の支払いを求めて仮処分を申請した。
主文
1 債権者Aが債務者に対し昭和49年10月15日以後3ヶ月ごとに債務者による更新拒絶がない限り期間の定めを3ヶ月とする労働契約が更新される労働契約上の権利を有することを仮に定める。

2 債務者は債権者Aに対し、金6万9161円および昭和50年5月以降第1審本案判決言渡に至るまで毎月28日限り1ヶ月金13万8323円の割合による金員を支払え。

3 債権者Aのその余の申請およびその余の債権者らの申請をいずれも却下する。
4 申請費用中、債権者Aと債務者との間に生じた分は債務者の負担とし、その余の債権者らと債務者との間に生じた分は同債権者らの負担とする。
判決要旨
1 債権者らと債務者との間の労働契約

 労働契約の締結に当たり、何よりも契約期間が3ヶ月と明示されていること、短期的に観察する限り本工より高額の初任月給が支給され、期間満了の際には更新であっても退職金的性格を有する満期慰労金が支給されていることに照らせば、臨時工契約は基本的には短期の有期契約としての性格を有することは明らかである。しかし他面において、債務者も契約更新回数に応じ基本日額を増額する措置をとり、雇用期間が1年以上になると年間10日間の有給休暇が与えられ、各種社会保険加入の措置がとられていた等の取扱いをなしており、本工と同じ業務に従事する臨時工もあり、更新手続きは形式的なものに留まっていたことなどの事実からみれば、臨時工契約が制度的にも運用面でも継続的性格をも有していたことは否定し得ない。

 このようにみると、船橋工場における臨時工契約は、基本的には3ヶ月の有期労働契約であるが、3ヶ月を経過した時点で債務者が更新拒絶(雇止め)の意思表示をしない限り、労働契約の締結が反覆継続されることが当初から予定されていた法律関係であるということができ、雇止めに関しては、(1)労働基準法20条所定の手続を履行することが必要であり、(2)それが不当労働行為意図、思想信条による差別意図実現のためになされたり、(3)社会観念上明白に不当な理由のもとになされた場合には、その雇止めの意思表示は無効なものと解するのが相当である。但し、雇止めに当たり、使用者は本人の勤務成績のほか企業運営の必要性を広く勘案してその要否を決定することができると解すべきであるが、もとよりこのように使用者側に雇止めにつき幅広い裁量を認めても、それは使用者の恣意を許すものではなく、労働者側の事情、特に家庭状況、補償措置、更新回数等を勘案してその効力を検討しなければならない。臨時工契約は基本的には短期的有期契約としての性格を有するものであるから、これに更新継続を認めたとしても、その雇止めにつき、本工契約における解雇基準により緩やかな運用になってもやむを得ないものであり、両者間にこのような差異があるからといって、臨時工契約を民法90条、労働基準法3条により無効であるということはできない。

2 本件雇止めの効力

 船橋工場では、人員の余剰が判明したので、昭和50年1月に至り、整理人員、整理対象を検討した結果、勤続年数が短い昭和48年1月以降雇い入れた臨時工約130名の雇止めを決定したほか、昭和49年9月頃から時間外就業を縮減し、翌年から成績不良の臨時工との契約を取りやめ、本工の業務休を1人5日の割合で実施し、係長以上に対し10%前後の賃金カットを行い、工場機構を統廃合して簡素化を図るなどした。以上の各事実からすると、昭和49年12月ないし翌50年初頭にかけて、債務者の管球部門では、ブラウン管の受注が減少して赤字が累積し、従来通りの体制で就業を継続するならば、同部門の業績不振に一層の拍車をかけることは明らかな状況下にあったということができるのであり、債務者としても、かかる事態を回避するため、余剰人員を更に削減した上で、130名を整理対象者としたものであることが一応認められる。本件雇止め当時、債務者は全社的にみれば黒字経営ではあるが、その黒字も極度の業績不振の管球部門が要因となって漸次減少傾向にあること等から、債務者が先ず管球部門内において業績回復を図ることとして、本件雇止めを含む各種の不況対策を講じたとしても、これをもって不合理なものということはできない。

 本件雇止めに当たり、債務者は希望退職者を募集しなかったが、希望退職者募集が常に整理解雇実施のための有効要件とは解せられない。また、債務者は臨時工に対しては配置転換の措置をとらなかったが、船橋工場の有期工、季節工はバルブの生産に従事させるため同工場限りで採用されたものであったから、債務者が債権者らを含む臨時工につき配置転換の措置をとらなかったのもやむを得なかったと認めることができる。

 債務者は、整理対象者を勤続年数が通算2年以内の臨時工に限定したが、一般的には勤続年数の長短は次期更新に対する期待感及び収入に対する生活依存度に比例するものであること等に照らし、一応相当なものということができる。また、債務者は雇止めによる債権者らの経済的不利益を少しでも回避するため、それぞれの期間満了時に所定の満期慰労金を支給したほか、更新しないことを前提にして1月又は半月間の短期の特別な労働契約を締結し契約満了時に満期慰労金を支給し、雇止め対象者全員に満期慰労金に加えて一時金5万円、帰郷旅費を支給したこと、希望者には就職斡旋にも努め、一部の者はこれにより再就職をしたことが認められ、これらの補償措置も一応の評価を得る内容ということができる。しかし、これらの措置はいずれも一律であり、労働者側の個別事情を顧みていない点において合理性を欠く面を有することは否定し得ないところである。したがって、昭和48年1月以降に雇用された臨時工であっても、労働者側の個別事情(主として家庭事情)を勘案した場合に雇止めを不当とする場合にはその者に対する雇止めは無効とすべきである。

3 個別判断

 債権者Aは本件雇止め当時更新回数2回、勤続期間9ヶ月余ではあったが、年齢30歳で妻と子供2人を抱えていたことが認められるから、債務者からの収入に対する依存度は高く、失職することにより被る生活上の不利益は著しく大きかったものと推認することができる。しかるに、債務者がこの点に思いを致さず他の者と全く同じ基準で対象者として選択して雇止めの意思表示をしたことは、社会観念上明白に相当性を欠くものといわざるを得ないから、右意思表示は権利の濫用として無効である。これに対し、他の債権者らについては雇止めを無効ならしめるような個別事情を見出すことができない。
 以上、債権者Aと債務者との間には、3ヶ月ごとに債務者による更新拒絶の意思表示がなされない限り期間の定めを3ヶ月とする労働契約が更新されるという法律関係がなお有効に存続しているというべきである。
適用法規・条文
02:民法90条、
収録文献(出典)
その他特記事項
本件は控訴された。