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A硝子F工場臨時従業員更新拒絶仮処分申請控訴事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- A硝子F工場臨時従業員更新拒絶仮処分申請控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 昭和55年(ネ)第1003号
- 当事者
- その他債権者 個人11名B〜L
その他債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1983年09月20日
- 判決決定区分
- 債務者敗訴部分取消・債権者申請棄却
- 事件の概要
- 第1審債務者(債務者)は我が国最大の板ガラス等の製造販売を目的とする会社であり、第1審債権者(債権者)らは、債務者船橋工場で、3ヶ月ごとの労働契約更新により、主としてテレビバルブ製造に従事していた有期又は季節工である。
債務者は、不況を打開するため、債権者らを含む有期工、季節工130余名を昭和50年2月から3月にかけて雇止めした。これに対し債権者らは、本件労働契約は当初から期間の定めのない契約であったから、本件雇止めは整理解雇に当たるところ、債務者は解雇回避の努力も、債権者らに了解を求めるための努力もせず、安易に解雇したものであって、権利濫用として無効であるとして、従業員たる地位にあることの確認と賃金の支払いを求めて仮処分を申請した。
第1審では、債務者船橋工場の管球部門が極度の業績不振に陥っていることから、本件雇止めを含む不況対策を講じたことは不合理といえないこと、債権者らに対し配置転換等の措置をとらなかったことはやむを得なかったこと、雇止め対象者に慰労金の支給や就職斡旋などの配慮していることを認めたが、個別判断として、債権者Aに対してのみ、失職により被る生活上の不利益が著しく大きかったとして、解雇無効と判断した。
そこで、A以外の債権者は原判決を不服として控訴する一方、債務者は原判決のAについての個別判断を不服としてそれぞれ控訴した。 - 主文
- 1 原判決中、第1審債務者敗訴部分を取り消す。
2 第1審債権者Aの申請を却下する。
3 第1審債権者らの本件控訴をいずれも棄却する。
4 申請費用は、第1、第2審とも第1審債権者らの負担とする。 - 判決要旨
- 第1審債権者(債権者)らは、契約期間が3ヶ月と明示された労働契約を締結していること、債権者ら臨時工の多くの者が比較的単純で熟練を要しない代替性のある業務に就くことが予定されていたこと、採用時の賃金が本工のそれより高額であり、更新されても労働契約満了の際には満期慰労金が支給されていること、採用対象者の年齢層が本工より高年齢にまで及び、採用手続きが簡略であることが窺われることからすれば、第1審債務者(債務者)と債権者らとの労働契約(本件労働契約)は、短期の有期契約であることが明らかである。そして、債務者船橋工場の臨時工は、本工と同じ業務に従事する者もあったが、平常の単純反復作業に従事する者が多く、相当数の労働契約更新の事例があり、その各更新の前後を通じて就労形態に特段の変化はなく、契約回数に応じて基本日額を増額する措置がとられ、雇用期間が1年を超えると10日間の年次有給休暇が与えられ、その他本工と同じように社会保険への加入や通勤定期券の支給などの措置がとられていた。しかし、本件労働契約が結果的に反覆更新されたとしても、そのことにより期間の定めのないものに当然に転化するいわれはなく、また、1回目の更新以後の時点において、本件労働契約を期間の定めのないものにする旨の当事者間の明示又は黙示の合意がなされたとの疎明はないから、本件労働契約が本件雇止め当時、期間の定めのないものに転化していたとの債権者らの主張は理由がない。
しかして、本件労働契約は、債務者において、特に更新をしない旨の意思表示をしない限り、従前と同様の労働契約をある程度反復・継続して締結することが見込まれていた法律関係とみるべきであるから、債権者らを本件労働契約期間の満了によって雇止めをする場合、その雇止めが権利の濫用又は信義則違反によって無効となるときは、期間満了後においても従前の労働契約が更新されたと同様の法律関係が存続するものと解される。もっとも、本件労働契約の雇止めの効力を判断するに当たっては、終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している本工を解雇する場合とは自ずから差異があるべきことは当然であり、これら臨時工の雇止めには、企業の維持、運営上の必要性をも勘案すべきであり、本件のような余剰人員整理のための雇止めについては、使用者に相当広範囲の自由が認められるというべきである。
債権者らは、本件労働契約における短期の定めは、民法90条、労働基準法3条に違反して無効であると主張するが、期間の定めのある労働契約を締結することは労働基準法14条に違反しない限り適法であり、本件労働契約が反社会的、反人権的なものと認めるに足りる疎明は何らないのみならず、本件労働契約も臨時工の採用、処遇の方策に則ったそれ自体合理性のあるものであり、短期的収入を望む労働者の需要に応ずる役割をも果たしていたものと認められるので、本件労働契約における短期の定めを違法とみることは到底できない。そして、短期の定めは短期的収入を目的とする労働者にとっても有益である上に、採用時に本工と臨時工とは同時に募集され、応募者は原則としていずれをも選択し得るのであり、臨時工の場合は採用手続きが簡単で身元保証人を立てる必要がないことを考え併せれば、雇い止めにつき、本工に対する解雇基準よりも緩やかな運用のなされることが許容されるものというべきである。
本件雇止めは、不況時における雇用量の調整を図り、企業の健全な運営を維持するため、比較的簡易な手続きで短期の期間を定めて雇用されていた臨時工のうち、更新回数の少ない者を選んでなされたものであるから、右雇止めに不合理、不相当な点は見出し難く、使用者に許される裁量の範囲を逸脱したものとは認め難い。したがって、債務者に権利の濫用或いは信義則違反があったとみることはできず、他に本件雇止めを無効とすべき事由についての疎明はない。
ところで、債権者Aは、本件雇止め当時、年齢30歳で妻と子供2人を扶養していたが、他の債権者らはいずれも独身者であったことが一応認められ、一般に妻子を扶養している者は独身者に比べ雇用関係が存しなくなることによって受ける不利益の大きいことは容易に推認されるところであるが、本件雇止めは企業の健全な維持、運営の必要上、130名に及ぶ大量の人員整理のためになされたものであり、しかも短期の有期契約者につき更新回数の少ない勤続2年以内の者を一律に雇止めの対象としたもので、その選定の基準自体は何ら合理性・相当性を欠くものとは認められないから、その基準に該当する債権者Aについて右のような個別的、主観的事情が存するとしても、そのことにより、同人に対する雇止めが社会通念上明白に相当性を欠くものということはできない。原判決が、債権者Aにつき、債務者からの収入に対する依存度は高く、失職することにより被る生活上の不利益が著しく大きいとしてその雇止めを無効とした点は失当である。 - 適用法規・条文
- 02:民法90条,
07:労働基準法3条,14条 - 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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千葉地裁 - 昭和50年(ヨ)第89号 | 一部認容・一部却下(控訴) | 1980年04月09日 |
東京高裁−昭和55年(ネ)第1003号 | 債務者敗訴部分取消・債権者申請棄却 |