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K社福岡支社臨時雇用者雇止事件

事件の分類
解雇
事件名
K社福岡支社臨時雇用者雇止事件
事件番号
福岡地裁 - 昭和56年(ワ)第992号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1986年08月27日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、書籍等の出版・販売を目的とする株式会社であり、原告は、新聞求人広告「男子臨時社員 期間1〜2年」を見て昭和52年1月25日に被告福岡支社の臨時雇用者として採用された者である。採用に当たって原告は、「昭和52年1月26日から同年4月25日までの3ヶ月、期間満了までに会社・本人の両者に異議がない場合は更に3ヶ月を限り延長する。ただし契約期間は1年を限度とする」旨記載された就労承諾書に署名押印して提出した。
 被告は、原告との雇用契約を3ヶ月ごとに3回更新した後、1年を経過した昭和53年1月25日以降の契約更新をしなかった。これに対し原告は、(1)採用面接の際被告は「少なくとも2年間は雇う」、「確認書の署名・捺印は形式的なものである」旨述べたこと、(2)臨時雇用者に関する内規には契約1年以上の臨時雇用者に関する特別内規が付いていたこと、(3)原告の業務は倉庫管理業務等恒常的な業務であることなどから、本件雇用契約は、実質的には少なくとも3回目の更新を経たときまでには期間の定めのないものとして成立したと主張した。更に原告は、仮に本件雇用契約に期間の定めがあったとしても、臨時雇用制度の目的は賃金の上昇を制限するとともに、自由な解雇権を留保しようとするもので、臨時雇用制度に籍口して臨時労働者の労働三権を侵害し、憲法28条、労働基準法3条等に違反し、公序良俗に違反するものであって無効であると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 被告が臨時雇用制度を設けた趣旨・目的とその運用の実態、原告雇入れの経緯、被告福岡支社における原告以外の臨時雇用者の雇用状況、殊に被告において臨時雇用制度に関する内規改正後同支社においてその厳格な運用がなされるようになった昭和49年以降に原告が臨時雇用者として同支社に採用されたという事実、新聞広告記載の「期間=1年〜2年」「臨時雇用者」なる文言、採用時の契約書の文言、内規の記載、確認書の文言等諸般の事情を総合勘案すると、本件雇用契約は期間の定めのある契約であって、1年を限度として3ヶ月ごとの期間延長が予定されているものと解するのが相当である。そして契約当時、原告の意思も右の通りであることは、右趣旨の記載がある就労承諾書に署名捺印して提出したことからも明らかである。

 原告は、被告の臨時雇用者の雇用実態によれば本件雇用契約は期間の定めのない契約だと主張する。しかしながら、被告は昭和41年に臨時雇用者の長期継続雇用の実態を変えるために内規を改正し、本社においては直ちにその通り運用を始めていること、昭和49年には各支社へ内規の厳格な運用を指示し、確認書も提出させるようにしていること、この結果福岡支社においては1年を経過した後再契約する場合も一旦退職餞別金を支払っていること等の事実によれば、昭和49年以降被告の臨時雇用者の期間の定めが有名無実化したものであったと評価することはできない。

 原告は、仮に本件雇用契約に当初は期間の定めがあったとしても、3ヶ月の期間を3回更新したことにより期間の定めの無いものに転化したとも主張するが、単に更新を繰り返すのみで期間の定めがある契約が直ちに期間の定めのないものに転化することはなく、当事者双方に期間の定めを形式的なものにする旨の意思ないし期待等がある場合に初めて期間の定めのない契約又はこれと実質的に異ならない状態の契約への転化の可能性が生じる余地があると解されるところ、本件においては当初から契約の継続は1年と予定されていたのであり、これによっては何の期待も生じないというべきである。

 原告は、被告におけるこのような臨時雇用者制度はそれ自体公序良俗に反して無効である旨主張もする。確かに一般に臨時雇用者制度が採用されるのは、そもそも担当業務が一時的・季節的であったり、景気変動による需給に合わせて雇用量の調整を計ったりする必要がある等の場合が多いのに対し、被告における臨時雇用者の業務は季節的・一時的なものではなく右場合に該当しない。しかしながら、業務の内容が季節的・一時的なものではないにせよ、あくまでもそれは補助業務に過ぎないのであって、これにつき短期雇用制度を設けることが不合理、不適当ともいえず、また一般的に雇用契約の期間を定めることは、その期間が1年以下である限り寧ろ当事者の自由であって、労働基準法その他の法律上も短期の有期雇用契約を締結すること自体何ら禁じられていないところであるから、これが専ら法の定める労働条件を潜脱する等の目的で用いられたような場合にのみ公序良俗違反となる余地があるというべきである。そして本件臨時雇用者制度についてみると、被告の意図は賃金抑制にあるけれども、臨時雇用者の担当業務は単純作業で経験により能率向上が望めない補助業務に限られており、このような業務についてのみ一般の社員採用と異なる手続により臨時雇用者として採用することは、企業経営上の合理的必要性に基づくといい得べく、逆に労働者の立場からみても短期の職場の供給源として一応の合理性が認められるのである。以上の次第で、本件臨時雇用者制度を公序良俗違反ということはできない。
 以上明らかなとおり、本件雇用契約は期間の定めのあるものであり、昭和53年1月25日限り契約期間の満了によって終了している。
適用法規・条文
07:労働基準法14条、
収録文献(出典)
労働判例480号6頁
その他特記事項