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K社嘱託社員雇止事件

事件の分類
解雇
事件名
K社嘱託社員雇止事件
事件番号
東京地裁 − 昭和57年(ヨ)第33号
当事者
その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1987年12月18日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は電気機械器具等の製造販売を業とする会社であり、債権者(昭和20年生)は昭和49年1月、債務者に雇用された者であって、聴覚障害2級の認定を受けているものである。

 債権者は、昭和48年暮に債務者の面接を受け、人事課長は債権者に対し、身分は雇用期間を1年とする準社員のフルタイマーであること、基本給は5万5000円であること、試用期間が終わり本採用になったら休暇が5日取れること等を説明し、債権者は了解した旨を示した。債権者は昭和49年1月8日に初出勤し、試用期間満了後同年5月20日に本採用通知書の交付を受けた。

 債務者において、当初は契約更新手続きがルーズに行われていたが、債務者は昭和54年に労務管理の適正化を図り、債権者・債務者間で、新たに昭和54年2月8日、期間を同年1月8日ないし昭和55年1月7日とする臨時員雇用契約を書面をもって締結し、更に昭和55年1月8日、同56年1月8日に、それぞれ期間を1年間とする臨時員契約の更新契約を書面により締結した。債務者は更に昭和58年1月7日までの1年間の臨時員契約を締結しようとしたところ、債権者は期間の定めのない正社員であることを主張し、臨時員契約の締結を拒否したため、債権者・債務者間の雇用契約は、昭和57年1月7日をもって終了した。
債権者は、試用期間満了により、正社員としての地位を取得したこと、それが認められないとしても「嘱託等就業規則」の規定により、債権者・債務者間の労働契約は期間の定めのないものになったこと、それが認められないとしても、期間満了の時点で明示の更新がなされず、債務者は債権者が従来通り労務に服していることを知りつつ異議を述べなかったから、民法の規定により期間定めのない契約に転化したことを主張し、正当な解雇事由がない限り雇止めの意思表示は無効であるところ、債務者の雇止めの意思表示は正当事由を欠き無効であるとして、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 債権者の申請をいずれも却下する。
2 申請費用は債権者の負担とする。
判決要旨
 債務者では、臨時員として採用された者について、本採用通知書を発行することは希であり、社員バッジは原則として正社員のみに交付されるものであるのに、債権者は昭和49年5月にバッジの交付を受けていること、入社後昭和54年2月までの間、債権者・債務者間において、明示的に臨時員契約の更新が為されていなかったこと等の事情を認めることができるが、債務者において臨時員に本採用通知書を発行し、社員バッジを交付した例は債権者以外にもないわけではなく、特に債権者については発奮を促すという会社側の配慮により交付されたこと、債務者においては、昭和53年半ば頃までは臨時員についての契約に関する方式、書類等の整備が充分なされておらず、契約の締結においても取扱いが一貫せず、更新についてもルーズにされていた事実が認められるから、本採用通知書やバッジの交付の事実をもって、債権者が正社員として採用された根拠になるとは必ずしも解し難いのみならず、かえって債務者においては労働協約に基づきユニオンショップ制度を採用し、一部例外を除き正社員で非組合員という者は存在しないところ、債権者は入社以来組合員となったことは1度もない上、債権者の位置づけは実際の職務上でも各種社内文書の上でも一貫して「準社員」として取り扱われていたことが明らかである。

 以上によれば、債権者、債務者間の昭和49年1月1日付け雇用契約は正社員契約ではなく、期間を1年とする臨時員契約であったと認めるのが相当である。

 民法627条、629条によると、期間を定めた雇用契約において、期間満了後になお労働者が労務に服している場合、使用者がこれに異議を述べないときは黙示の更新があったものと推定され、以後、期間の定めのない雇用契約として存続すると解されているところ、本件において、債権者・債務者間で1年の雇用契約期間満了時に明示的な契約更新がなされなかったことは前認定のとおりである。しかしながら、債務者において、債権者が右期間満了後も一貫して臨時員としての処遇を受けていたことは前認定のとおりであり、債務者における臨時員の雇用期間は1年と定められており、就業規則上「期間の定めのない臨時員」の存在は予定されていないから、債権者と債務者の臨時員契約は、期間(1年)の点をも含めて黙示的に更新されたものと認めるのが相当である。

 債権者は右各契約は公序良俗に反し、あるいは心裡留保により無効であり、若しくは強迫による意思表示である旨主張する。しかしながら、債務者においては、昭和53年半ば頃より、契約、更新手続きがルーズにされていた臨時員についても、一律に各契約期間毎に契約書をもって明確化し、その間の勤務評定も書面でするよう取扱いが改められたものであり、その結果、契約書を交わすようになった臨時員は債権者以外にも7名存する上、債権者自身臨時員として採用され、昭和54年2月当時も臨時員としての処遇を受けていたのであり、債務者としてはその地位を確認する意味で書面による契約を求めたにすぎず、民法の規定により臨時員について期間の定めのないものが現出するとは考えていなかったことが認められるのであり、このような事情を勘案すれば、債務者の発言が強迫に該当し、あるいは契約が公序良俗に反するものとは認め難い。

 期間の定めのある労働契約を反復継続したからといって、そのこと故に、それが期間の定めのない雇用契約に当然に転化するとは考え難い。もっとも、当該期間の定めのある労働契約の締結、更新が解雇法理を免れるため脱法的に利用されたと認められる場合には別異に解する余地がないではなく、また当該労働契約が、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったと解され、かつ、それが期間満了ごとに当然更新を重ねて、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存続していたといえるような場合には、使用者からのいわゆる雇止めの意思表示について解雇に関する法理を適用するのが相当と解される。

 しかして、本件において、債権者・債務者の臨時員契約の締結、更新が脱法的意図のもとになされたと認めるに足りる疎明はなく、また債務者において、臨時員契約を更新する意図のもと、債権者との最終の臨時員契約の契約期間満了前から、次期以降の臨時員契約更新の申込みを債権者に示唆したのにもかかわらず、債権者の方で正社員として扱うよう要求して右更新の申込みをなさなかったものであって、債務者が更新を拒絶したわけではなかったことが認められ、そうである以上、本件においては、いわゆる雇止めにかかわる解雇法理の適用の問題は生じ得ないものといわざるを得ない。
 以上のとおり、本件では、債権者が期間の定めのない被用者たる地位を取得したとは認められず、また臨時員たる地位も、昭和57年1月7日をもって、契約期間満了により喪失したことになる。
適用法規・条文
02:民法627条,629条,
収録文献(出典)
労働判例513号60頁
その他特記事項