判例データベース
託児所経営会社雇用拒絶損害賠償請求控訴事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 託児所経営会社雇用拒絶損害賠償請求控訴事件
- 事件番号
- 大阪高裁
- 当事者
- 控訴人 有限会社
被控訴人 個人2名A、B - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年03月06日
- 判決決定区分
- 変更(一部認容・一部棄却)
- 事件の概要
- 控訴人(第1審被告)は、フランチャイズ方式で園長を募集する方式で託児所を経営する有限会社であり、平成11年4月からのY社からの保育業務委託を見込み、保育ルームのトレーナーとして被控訴人(第1審原告)らを勧誘した。被控訴人らは、同年3月27日に雇入通知書等を受け、園長会議でトレーナーとしての紹介を受けたが、控訴人はY社から業務委託を拒絶されたことから、被控訴人らに対し雇用ができなくなった旨告知した。これに対し被控訴人らは、既に雇用契約は成立しているから本件告知は解雇に当たるところ、これは解雇権の濫用として不法行為又は債務不履行に当たるとして、1年間相当の賃金、解雇予告手当、慰謝料、弁護士費用合わせて各382万円を請求した。
第1審では、被控訴人Aについては、雇入通知書交付の時点で雇用契約が成立しており、就労前であってもこれを解消する旨の意思表示は解雇に当たるとした上で、控訴人は解雇回避努力を真剣に行わなかったことから解雇権の濫用に当たるとして、解雇予告手当24万円、慰謝料50万円及び弁護士費用7万円の支払いを命じた。また、被控訴人Bについては、未だ雇用契約は成立していないが、雇用契約の申込みを一方的に撤回したことは不法行為に当たるとして、慰謝料30万円及び弁護士費用3万円の支払いを命じた。 - 主文
- 判決要旨
- 本件被控訴人Aの解雇は、予定していたY社の保育所における業務を控訴人が委託を受けることができなくなったという客観的な事実を理由とするものであり、被控訴人Aもそこを職場とすることを予定して雇用契約を結んだものであるから、やむを得ないものであって、権利の濫用や信義則に違反するとはいえない。
控訴人は、被控訴人Aに対する解雇をするに当たり30日以上前にその予告をしたとは認められない。したがって、その解雇通知は即時解雇としての効力を生じないが、特段の事情がない限り、通知後労働基準法20条1項所定の30日の期間を経過したときに解雇の効力を生じるものである。したがって、被控訴人Aに対し労働基準法所定の付加金請求権はともかく、同法20条1項に基づく30日分以上の平均賃金相当の解雇予告手当の支払請求権が生じるわけではないが、被控訴人Aは本件解雇の生ずるまでの期間の賃金請求をなすことができる。以上によると、被控訴人Aの控訴人に対する解雇予告手当の支払請求は理由がなく棄却を免れないが、被控訴人Aは控訴人に対し、平成11年4月6日からの1ヶ月分の賃金24万円の支払を求めることができる。
雇用契約の性質上、労務に服する被控訴人らが控訴人と雇用契約を結ぼうとする場合は、勤務先があるときはこれを解約し、また転職予定があってもこれを断念しなければならない。雇用によって被用者が得る賃金は生活の糧であることが通常であることにも鑑みると、控訴人は被控訴人らの信頼に応えて、自らが示した雇用条件をもって被控訴人らの雇用を実現し雇用を続けることができるよう配慮すべき信義則上の注意義務があったというべきである。また、副次的には被控訴人らが控訴人を信頼したことによって発生することのある損害を抑止するために、雇用の実現、継続に関係する客観的な事情を説明する義務もあったということができる。ところが、控訴人は、Y社との保育業務の委託契約の折衝当初からこれが成立するものと誤って判断し、その上その折衝経過及び内容を被控訴人らに説明することなく、業務委託契約の成立があるものとして被控訴人らとの雇用契約を勧誘した結果、被控訴人Aについては契約を締結させたものの就労する機会もなく失職させ、被控訴人Bについては雇用契約を締結することなく失職させた。以上の控訴人の一連の行為は、全体としてこれをみると、被控訴人らが雇用の場を得て賃金を得ることができた法的地位を違法に侵害した不法行為に当たるものというべきである。したがって、控訴人は民法709条、44条1項により、これと相当因果関係にある被控訴人らの損害を賠償する義務がある。
被控訴人Aの再就職の状況や通常再就職に要する期間(数ヶ月単位)、雇用保険法における一般被保険者の求職者給付中の基本手当の受給資格としての最低被保険者期間が6ヶ月であることに鑑みると、被控訴人Aが控訴人の不法行為によって控訴人から賃金を得ることができなかった期間のうち、その5ヶ月分(被控訴人Aは前示のとおり平成11年4月分の賃金の支払いを受けることができるから、これと合わせて6ヶ月分となる)を不法行為と相当因果関係に立つと認めるのが相当である。損害額は月額24万円に5ヶ月をかけて得られる120万円である。
被控訴人Bについては、平成11年6月から現実に職を失ったことを考慮し、4ヶ月分(被控訴人Bは他社から平成11年4月及び5月分の賃金を受けており、これと合わせて6ヶ月分となる)を不法行為と相当因果関係に立つ損害と認める。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条、44条1項、413条、536条2項
07:労働基準法12条、20条 - 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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大阪地裁 − 平成11年(ワ)第9555号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2000年06月30日 |
大阪高裁 | 変更(一部認容・一部棄却) | 2001年03月06日 |