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N短大非常勤講師雇止控訴事件

事件の分類
解雇
事件名
N短大非常勤講師雇止控訴事件
事件番号
名古屋高裁 - 平成15年(ネ)第245号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2003年12月26日
判決決定区分
控訴棄却
事件の概要
 控訴人(第1審原告)は、昭和53年10月以降、被控訴人(第1審被告)の経営する短期大学保育科において、非常勤講師としてピアノの実技指導を行ってきた女性である。

 被控訴人は、大学設置基準の改正等に伴うカリキュラム改革により非常勤講師3名が余剰人員となったこと、控訴人らの授業方法に問題があったこと等から、平成10年度以降、控訴人ら3名の委嘱を停止した。これに対し控訴人ら3名は、非常勤講師は授業の主要な部分を担ってきたこと、本件労働契約は本件委嘱停止までに期限の定めのない契約に転化したか、実質的にこれと同じ状態になったこと、仮にそうでないとしても、控訴人らが委嘱継続を期待することに合理性があることから、本件委嘱停止は解雇権の濫用として無効であるとして、非常勤講師としての地位の確認及び賃金の支払い並びに各自に対し200万円の慰謝料の支払いを請求した。
 第1審では、本件委嘱停止には解雇権の濫用法理の適用は認められないとして、控訴人ら3名の請求を退けたことから、控訴人のみがこれを不服として控訴したものである。
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
 本件労働契約は当初から委嘱期間を昭和53年10月1日より同54年3月31日と明確に定めて締結され、その後も一貫して1年以内の委嘱期間を明定して更新されているのであるから、その契約が期間の定めのない労働契約に転化したものということはできない。期間の定めのある労働契約でも、いずれかからの格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと認められる場合には、当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものとして、いわゆる雇止めの効力を判断するのに解雇に関する法理を類推すべきもといえる。

 本件労働契約が19回も更新されて20年近く存続してきていることや、授業内容の点では非常勤講師と専任教員との間に特段の差異がないことからすれば、本件労働契約の雇止めの効力を判断するのに解雇に関する法理を類推すべき素地が全くないというわけではない。しかしながら、本件短大における非常勤講師の委嘱は、1年毎に学科会議で実質的に審議され、教授会等の議を経て更新するという手続きが履践されており、毎年委嘱期間が明記された契約書が委嘱更新の内定した非常勤講師に送付され、当該非常勤講師がこれに押印して返送されるということが繰り返されているのであって、被控訴人学園と非常勤講師の労働契約が1学年の間の授業の委嘱という共通認識の下に更新されていたことは明らかであり、当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものとすることはできない。

 本件労働契約の更新においては、被控訴人学園において永続的な労働契約の存続を期待させるような節があったとはいえず、本件短大の非常勤講師は原則として担当科目の授業を行うことだけが職務内容であり、兼職について何の制約もなく届出さえ必要とされていないことからすれば、その労使関係はさほど密着したものともいえず、本件労働契約において、控訴人が雇用関係の継続を期待することの合理性は余り高くないといわざるを得ない。しかしながら、本件労働契約は更新が19回も繰り返されて20年近くも存続してきており、本件保育科の他の音楽の非常勤講師の多くも同様に長期間にわたって雇用が存続されていることからすれば、本件の場合にも、雇止めには相応の理由を要するものと考えるのが相当である。ただ、本件労働契約における雇用継続の期待を保護する必要性は、期間の定めのない契約に転化したり、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合と比べ、薄いものといわざるを得ないことからすれば、雇止めの理由にそれ程強いものが要求されるのではなく、一応の相当性が認められれば足りるものというべきである。

 短期大学の設置基準の大幅な簡素化により、カリキュラムが従来より相当柔軟に編成できるようになったことから、被控訴人学園はカリキュラム改革を行い、平成10年度から音楽1は2名の専任教授と7名の非常勤講師で賄えることになり、学科会議において音楽1担当の非常勤講師3名の減員が確定し、控訴人を含む3名について、指導方法が穏当でないなどとして過半数の不信任投票がなされ、教授会等の議を経て上記3名の委嘱停止が決定された。本件カリキュラム改革は、平成3年の短期大学設置基準の改正等といった社会状況を背景とする教育改革動向に基づき計画されたものであって、大学の専権事項の範囲に属するものであり、その授業内容の編成や授業時間の設定、担当教員数や受講学生数にも一定の合理性が認められるから、これら以外に委嘱停止となる非常勤講師を生じさせないようなカリキュラム編成の方策が仮にあったとしても、なおその相当性が失われるものではない。また、控訴人が減員の対象に上がった理由については、教授らの控訴人に対する問題認識の前提となった事実関係に必ずしも真実性を確認できない部分があるにしても、控訴人を含む3人の非常勤講師に対する不信任投票がなされた学科会議が開催された平成9年12月当時控訴人と本件保育科の専任教員との間に教育方針をめぐる意見の食い違いが生じていたことは否定できない。そして、他に減員の対象となる非常勤講師がいなかったことも併せ考えれば、雇用継続の期待を保護する必要性の比較的薄い本件労働契約においては、このような理由でも一応の相当性は認められるものというべきである。
 以上のとおりであるから、本件委嘱停止は有効であり、本件労働契約は平成10年3月31日をもって終了したものといえる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
その他特記事項