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総合商社賃金等男女差別控訴事件

事件の分類
賃金・昇格
事件名
総合商社賃金等男女差別控訴事件
事件番号
東京高裁 - 平成15年(ネ)第6078号
当事者
控訴人 個人6名A、B、C、D、E、F
被控訴人 株式会社
業種
卸売・小売業・飲食店
判決・決定
判決
判決決定年月日
2008年01月31日
判決決定区分
控訴一部認容・一部却下・一部棄却
事件の概要
 被控訴人(第1審被告)は、昭和42年にK社及びG社が合併してできた総合商社であり、控訴人(第1審原告)らは、K社、G社又は被控訴人らに採用され、本件訴訟当時被控訴人に雇用されていた女性である(控訴人D及び同Eは社員、同A、同B、同C及び同Fは定年退職者)。

 被控訴人は、昭和60年1月、職掌別人事制度を導入し、社員を「一般職」「事務職」「特務職」に区分し、従前A体系(男性に適用される賃金体系)適用の参与、主事以上の者は管理職に、主事補以下の者は一般職に、従前B体系(女性に適用される賃金体系)適用の女性社員の全ては事務職に、従前C体系適用の男性傭員は特務職に、それぞれ位置づけた。被控訴人はこれと併せて職掌転換制度を設け、一定の資格を有する者に、事務職から一般職へ、一般職から事務職への転換を認めた。

 被控訴人は、平成9年4月に新人事制度を導入し、職掌を「総合職掌」「特定総合職掌」「一般職掌」「事務職掌」「専任職掌」に再編し、職掌転換制度も変更した。新人事制度導入以前事務1級であった控訴人B、同C、同D及び同Eは、同制度導入により新事務1級に格付けされた。なお新事務1級は、定年まで勤務したとしても、入社5年の27歳の新一般1級の賃金に達することはなかった。

 控訴人らは、(1)控訴人らと同期の一般職の男性社員との間に賃金格差があるのは違法な男女差別によるものである、(2)被控訴人は、定年を57歳から60歳に延長するのと併せて55歳に達した事務職を専任職に転換させて賃金を引き下げたが、これは違法な年齢及び男女差別である、(3)被控訴人は、平成9年4月から55歳に達した社員の調整給及び付加金を引き下げたが、これは違法な年齢及び男女差別であると主張して、(1)一般職標準体系表の適用を受けることの確認、(2)これが適用された場合の標準報酬(月例賃金、一時金)及び退職金の差額の支払い(3)定年延長に伴う55歳からの月例賃金引き下げについての差額の支払い、(4)55歳からの調整給及び付加給引き下げについての差額の支払い、(5)慰謝料及び弁護士費用の支払い等、控訴人Aに対し5724万6780円、同Bに対し7351万8995円、同Cに対し8546万3635円、同Dに対し7760万2095円、同Eに対し6695万1515円、同Fに対し2327万1990円をそれぞれ請求した。
 第1審では、控訴人らが入社した当時は、女性の勤続期間が短い等から男女のコース別採用・処遇が不合理な差別とはいえないこと、改正前の均等法は男女で差別的取扱いをしないことを努力義務に止めていること、均等法改正前に実施された新転換制度は、その内容も合理的であること等から、控訴人らの請求をすべて棄却した。そこで、控訴人らはこの判決を不服として控訴した。
主文
1(1)原判決中、控訴人D、同Eが、同控訴人らと被控訴人との間で、同控訴人らが被控訴人の給与規定に基づく一般標準本俸表の適用を受ける雇用関係上の地位にあることの確認を求める請求に関する部分を取り消す。

(2)上記確認請求にかかる訴えをいずれも却下する。

2 控訴人A、同C、同D、同Eの控訴及び控訴人C、同D、同Eの当審における請求の拡張に基づき、原判決中、同控訴人らの金銭請求に関する部分を次のとおり変更する。

(1)被控訴人は、以下の各控訴人らに対し、以下の金員を支払え。

ア 控訴人Aに対し、842万7000円及び内630万円については平成7年7月20日から、内180万円については平成9年1月31日から、内32万7000円については平成9年2月8日から、各支払済みまで年5分の割合による金員。

イ 同Cに対し、2355万0200円及び内880万円については平成7年7月20日から、内200万円については平成9年3月20日から、内230万円については平成11年2月20日から、内250万円については平成13年3月20日から、内160万円については平成14年7月20日から、内120万円については平成15年7月20日から、内430万円については平成19年3月1日から、内85万0200円については平成19年3月8日から、各支払済みまで年5分の割合による金員。

ウ 同Dに対し、2260万円及び内870万円については平成7年7月20日から、内200万円については平成9年3月20日から、内230万円については平成11年2月20日から、内250万円については平成平成13年3月20日から、内160万円については平成14年7月20日から、内120万円については平成15年7月20日から、内430万円については平成19年3月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員。

エ 同Eに対し、1800万円及び内410万円については平成7年7月20日から、内200万円については平成9年3月20日から、内230万円については平成11年2月20日から、内250万円については平成13年3月20日から、内160万円については平成14年7月20日から、内120万円については平成15年7月20日から、内430万円については平成19年3月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員。

(2)上記控訴人ら4名のその余の請求及び控訴人C、同D、同Eの当審における拡張請求中その余の請求をいずれも棄却する。

3 控訴人B、同Fの控訴及び控訴人Bの当審における拡張請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、控訴人B、同Fと被控訴人との間では、第1、2審を通じ、被控訴人に生じた費用の3分の1と同控訴人らに生じた費用は同控訴人らの負担とし、その余の控訴人らと被控訴人との間では、第1、2審を通じ、被控訴人に生じた費用の3分の2と同控訴人らに生じた費用の全部を4分し、その3を同控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
5 この判決は、2項(1)に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 控訴人D及び同Eは、被控訴人との間で、給与規定に基づく一般職標準本俸表の適用を受ける雇用関係上の地位にあることの確認を原審以来求めているが、職掌の再編を前提とすると、上記2名が求める「被控訴人の給与規定に基づく一般職標準本俸表」は現在存在しないから、既に存在しない雇用関係上の地位にあることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くもので不適法であって、この請求に関する訴えを却下すべきものである。

2 差別の有無及び違法性

 K社では、見習社員を経て社員となる従業員の賃金体系と準社員を経て社員となる従業員の賃金体系とは異なっており、前者の適用を受けるのはほとんど男性であり、後者の適用を受けるのは全て女性であった。一方、G社では、社員の賃金体系と準社員の賃金体系とは異なっており、前者の適用を受けるのは全て男性であり、後者の適用を受けるのは全て女性であった。両社が合併した後の被控訴人では、見習い社員から社員に昇格した従業員の賃金体系と、準社員から社員に資格変更された従業員の賃金体系とは異なっており、前者であるA体系の適用を受けるのはほとんど男性であり、後者であるB体系の適用を受けるのはすべて女性であった。K社に入社した控訴人A及び同D、G社に入社した同B及び同C並びに合併後に被控訴人に入社した同E及び同Fは、いずれもB体系の適用を受けた。

 被控訴人においては、少なくとも合併以降は、男性(A体系)の賃金が女性(B体系)の賃金に比べて優遇され、男女間の格差が拡大したこと、昭和48年以降はその格差、比率はほぼ固定したこと、女性(B体系)の賃金を男性(C体系―特務職)の賃金と比較すると、昭和45年時点では両者の賃金はほぼ同額、昭和48年時点でC体系の賃金がB体系の賃金より約10%以上高くなり、昭和60年時点ではその格差が拡大し、平成7年時点でもその比率はほぼ同じであり、旧均等法施行後も、改正均等法施行後も、被控訴人において、男女間(一般職と事務職との間)の賃金格差は縮小することはなかったものと認められる。以上のとおり、控訴人らの請求する期間中、被控訴人において、ほとんどすべての男性従業員(一般職)に適用される賃金体系とすべて女性である従業員(事務職)に適用される賃金体系とは異なっており、両者の間には相当な格差がある。

 上記賃金格差が生じた背景には、当時、女性の勤続年数が一般的に短期であり、そのようなことも関連して、民間企業において女性は一般的に補助的な業務を担当することが多く、民間企業も女性に対しそのような役割しか期待しないことが多かったという事実が存在し、合併前のK社及びG社においては、男女別で異なった募集・採用方法を採り、男性社員の多くは中心業務である成約業務を中心とする職務を担当し、勤務地も限定しないものとし、女性社員については、主に成約以後の履行を中心とする業務、庶務に従事する者として処遇し、また勤務地を限定し、賃金についても男女別の賃金体系に基づいて定められていた。そして、合併後の被控訴人において、以上のような男女間の採用、処遇が続き、成約事務を重視する企業風土等において男性重視の方針がとられたことなども手伝って、男女間の賃金格差は更に拡大していったものと認められる。

 被控訴人は、総合商社であり、業者と業者をつなぐ契約を成立させること、すなわち成約業務が中止的業務であるといえ、そこにおいては交渉力、語学力、豊富な商品知識等が要求されるから、一般的にみて、困難度の高い業務ということができる。しかし、履行業務の遂行においても、専門知識、一定の交渉力が必要な場合が多く、語学力が要求されることもあり、このような履行業務を確実に行うことが利益の確保につながり、取引先の信用を維持するために不可欠である。事務職は、個人としてノルマを課されてはいなかったが、課、その部署に課されたノルマを実現するためには、事務職の履行業務が適切に行われることが必要であり、事務職の管理職、一般職への協力が不可欠である。被控訴人において、男女間で、成約業務か履行業務かとの大まかな区別があったことは否定できないが、一般職(男性)のしていた業務を事務職(女性)が引き継いだり、その逆が行われたりすることもあり、職務の分担は流動的な要素も多い。

 被控訴人は、成約業務を中心とする比較的困難度の高いと考えた業務を一般職(男性)に、比較的困難度の低いと考えたそれ以外の業務(履行業務、庶務業務)を事務職(女性)にそれぞれ従事させてきたが、女性の勤続年数の長期化・高学歴化、それに伴う女性の能力の向上、職務の多様化、専門家、OA化などから、次第に両者の境目が明らかでなくなり、女性が成約業務の分野で活躍することが以前より目立って多くなってきたものである。

このような変化を踏まえると、少なくとも控訴人らが本訴請求の対象としている期間においては、基幹的業務と定型的・補助的業務と明確かつ截然と区別することは困難であり、両者の差異は相対的なものというべきである。

 格差の合理性について判断するには、男女間の賃金格差の程度、女性社員が実際に行った仕事の内容、専門性の程度、その成果、男女間の賃金格差を規制する法律の状況、一般企業・国民間における男女差別、男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることについての意識の変化など、様々な諸要素を総合勘案して判断することが必要である。

 ア 昭和59年12月まで(職掌別人事制度導入前)

 K社、G社及び被控訴人での男性社員、女性社員の募集・採用条件、配置・異動状況のほか、男女の研修体系が異なっていたこと、男性社員と女性社員とでは積む経験、知識も自ずから異なると考えられること、控訴人らが入社当時の女性の平均勤続年数は短かったことを併せ考えると、被控訴人は効率的な労務管理を行うため、男女別に異なった募集、採用方法をとっていたものと認められる。したがって、K社、G社及び被控訴人は、男女の性による違いを前提に男女をコース別に採用し、その上でそのコースに従い、男性社員には主に困難度の高い業務を担当させ、勤務地も限定しないものとし、女性社員は主に困難度の低い業務に従事させ、勤務地を限定することとしたものと認めるのが相当である。そして、その結果、被控訴人においては、入社後の賃金についても、その決定方法、内容が男女のコース別に行われていたもので、それに伴い、賃金格差も生じていたということができる。

 被控訴人は、控訴人らの入社当時、男女をコース別に採用、処遇していたもので、このような仕方は性によって採用、処遇を異にするものであるから、法の下の平等を定め、性による差別を禁止した憲法14条の趣旨に反するものである。もっとも、憲法14条は、私人相互の関係を直接規律することを予定したものではなく、民法90条のような私的自治に対する一般的制限規定の適用を介して間接的に適用があるに止まると解するのが相当であるところ、性による差別待遇の禁止は、民法90条の公序をなしていると解されるから、その差別が合理的根拠のない不合理なものであって公序に反する場合に違法となるというべきである。

 控訴人らが入社した当時、性による差別を禁じた実体法の規定としては労働基準法4条があり、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」と定めている。また同法3条は「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定めている。同条は、「賃金、労働時間その他の労働条件」に関する差別的取扱を禁止するもので、募集、採用は労働条件に含まれないと解するから、被控訴人のとった男女のコース別採用、処遇が、直接同条に違反するものとはいえない。また、同条は性による賃金差別を禁止しているに止まるから、採用、配置、昇進などの違いによる賃金の違いは、同条に直接違反するものではない。

 控訴人らが入社した当時、女性に対し男性と均等な機会を与えなかったことについては、

(1)労働基準法3条の定める労働条件ではなく、同法4条に直接違反するともいえないこと、(2)募集、採用、昇進についての男女の差別的取扱をしないことを使用者に義務付ける法律はもとより、使用者の努力義務とする法律すら存在しなかったこと、(3)企業には労働者の採用について広汎な自由があることからすれば、従業員の募集・採用について男女に均等な機会を与えなかったからといって、公序良俗に反するとまではいえないこと、(4)時期を遡るほど、困難度の高い業務は男性が、困難度の低い業務は女性が、それぞれ中心になって行っていたと認められ、男女のコース別採用・処遇と男女それぞれが担当する職務内容の実体は概ね合致していたものと推察でき、後の時期になると女性でも勤続期間が長く、専門的知識を身に付けた者が出てくるものの、昭和58年当時でも、女性の約半数が5年以内に、約90%が10年以内に退職している実情に照らせば、前記賃金格差にはそれなりの合理性が認められることから、公序良俗に反したり、不法行為が成立するものとは認められない。

イ 昭和60年1月(職掌別人事制度を新設した時期)以降平成9年3月(新人事制度導入直前の時期)まで

 控訴人らが損害賠償を請求する期間の始期とする平成4年4月1日の時点において、入社以来34年11ヶ月勤続していた控訴人A、27年勤続していた同C、26年勤続していた同Dの関係では、同控訴人らの職務内容に照らし、職務内容や困難度に同質性があると推認される当時の一般職1級中の若年者である30歳程度の男性との間にすら賃金についての相当な格差があったことに合理的な理由が認められず、性による違いによって生じたものと推認され、上記3名らについて男女の差によって賃金を差別する被控訴人の措置は、労働基準法4条、雇用関係についての私法秩序に反する違法な行為であり、その違法行為は平成4年4月から、控訴人Aについては退職した平成9年1月まで、同C及び同Dについては、同年3月まで継続したものであり、被控訴人にはその様な違法行為をするについて少なくとも過失があったものというべきである。また、控訴人Eの関係では、同人の職務内容、成果、専門性の程度等を斟酌すれば、被控訴人の措置は違法な行為と評価することができ、その後違法行為が継続しているというべきである。

 すなわち、上記期間の一般職の給与体系及び事務職の給与体系は、職掌別人事制度導入前の男女のコース別のA体系(男性)及びB体系(女性)が基本的に維持されたものであり、上記のような賃金格差は、A体系、B体系の賃金格差をそのまま引き継いだものであるところ、既に昭和50年代から女性でも勤続年数が長く、経験を積み専門知識を身に付けた者が出て来ており、男性の行う職務と女性の行う職務が重なる場合があったところ、長期勤続の女性社員の中には一部成約業務を担当していた者や履行業務であっても専門知識や一定程度の交渉力、語学力により重要な仕事を行っているものが相当数おり、A、C、D、Eの4名もその中に含まれていたものであって、そうするとこのような女性社員に関しては、一般職の給与体系と事務職の給与体系の間の格差の合理性を基礎付ける事実は、平成4年4月1日(控訴人Eの関係では、勤続15年を経た平成7年4月1日)の時点で既に失われていたものである。

 被控訴人は、男性社員と女性社員とで職務内容が異なることを明らかにして採用したわけではないが、少なくとも勤務地については男女を区別しているということができる。すなわち、一般職と事務職では、転居を伴う勤務地の異動(海外勤務を含む)があるか否かという差異があった。しかし、事務職の勤務地が限定されていることは、一般職と事務職の給与体系の前記のような格差を合理化する根拠とはならない。また、事務職の女性は定年まで勤務しても、入社5年で27歳の一般職の賃金に達することはないことを考えると、前記のような給与の格差に合理性がないことは明らかである。職掌別人事制度の導入と併せて旧転換制度が設けられたが、その運用実績は転換の要件が厳しく、転換後の格付けも低いもので、給与の格差を実質的に是正するものとは認められない。

 被控訴人と同種の九大商社の平成元年3月の時点において、被控訴人と同様男女別の賃疑格差が存在し、被控訴人より男女間の格差の率が大きい商社も少なくないが、そのことをもって上記の判断を左右することはできない。

 平成4年4月1日の時点で、控訴人Bは、28年6月勤務していたが、不法行為の正否が問題となる同日以降、同人の担当は秘書業務、定時的業務などで、専門性が必要な職務を担当していない。また、平成4年3月までに同人が行っていた仕事は主に履行業務であり、一定の専門知識が必要であったとしても、専門知識、交渉力等により重要な仕事を行っていたとはいえないから、控訴人Bの関係では、前記のような給与の格差を違法ということはできない。控訴人Fは、平成4年4月1日時点において10年勤続で、退職時点で14年3ヶ月勤続であり、同人の勤続年数、この間の担当職務内容に照らし、給与の格差を違法ということはできない。

ウ 平成9年4月(新人事制度導入)以降今日まで

 男女間の配置、昇進などを規制する法律自体は、平成9年4月時点で、昭和61年時点と基本的に変化はなかったが、旧均等法の施行から10年以上の長い期間が経過し、雇用の分野における男女差別の撤廃の必要性等についての意識が、一般企業・国民間においてかなり変化してきていることが十分に推認でき、更に平成9年6月18日に配置及び昇進に関する男女平等取扱を使用者の法的義務とした改正均等法が成立し、平成11年4月1日に施行されることとなる経緯を見ると、被控訴人が行った新人事制度の導入は、上記法律改正作業の経過も意識した上で行われたものと推認できる。

 新人事制度が導入された平成9年4月1日時点において、入社以来32年勤続の控訴人C、31年勤続の同D、17年勤続の同Eの関係では、同控訴人らの職務内容に照らし、同人らの賃金と男性新一般1級の賃金との間にすら大きな格差があったことに合理的な理由は認められず、性の違いによって生じたものと推認され、上記3名の控訴人らについて男女の性の違いによって賃金を差別するこのような状態を形成、維持した被控訴人の措置は、労働基準法4条、雇用関係についての私法秩序に反する違法な行為であり、被控訴人にはそのような違法行為をするについて少なくとも過失があるものというべきである。

 新人事制度には、新転換制度が伴っており、これは本部長の推薦を要しない等旧転換制度に比べると改良された点はあるが、TOEIC600点以上等が転換の要件となっているところ、男性の一般職、管理職の中でこれを受験していない者が多く、受験しても600点に達しないもあり、このような点で転換のチャンスが広い制度とは到底認められず、また女性の能力活用の観点を含め、転換を目指す労働者の努力を支援する配慮をした制度とも到底認められない。

3 差額賃金等相当損害金の請求権

 控訴人A、同C、同Dとの関係では平成4年4月1日以降、同Eとの関係では平成7年4月1日以降、平成9年3月31日(同Aについてはその退職の日)まで、同人らの賃金と旧一般1級の30歳の男性社員の賃金との間にすら大きな格差があり、この格差には正当な理由がなく不法行為が成立するところ、格差による差額を的確に認定することはできない。しかしながら、上記控訴人らに差額相当の損害が発生したことは明らかであるので、民事訴訟法248条の精神に鑑み、各控訴人につき、月例賃金及び夏冬の一時金を併せて年額120万円の限度の損害額を認定するのが相当である。

 控訴人C、同D、同Eの関係では、平成9年4月1日以降、平成19年2月末日まで(同Cについては退職まで)、新一般1級の同年齢の男性社員の賃金との間にすら大きな格差があり、この格差には正当な理由がなく不法行為が成立するところ、格差による差額を的確に認定することはできない。しかしながら、上記控訴人らに差額相当の損害が発生したことは明らかであるので、民事訴訟法248条の精神に鑑み、各控訴人につき、月例賃金及び夏冬の一時金を併せて年額120万円の限度の損害額を認定するのが相当である。

4 慰謝料及び弁護士費用
 控訴人A、同C、同D、同Eら4名は、被控訴人が行った違法な男女差別の不法行為により精神的な苦痛を被ったと認められ、被控訴人は同控訴人らに対し、同人らが被った精神的な損害について慰謝料を支払うべきである。そして、被控訴人が行った男女差別の態様、不法行為の期間、各控訴人らが受けた個別的な被害その他本件記録に顕れた一切の事情を総合考慮して、慰謝料の額としては、控訴人Aが120万円、同Cが180万円、同Dが180万円、同Eが140万円をもって相当と認める。また、弁護士費用としては、控訴人Aについては110万円、同Cについては300万円、同Dについては290万円、同Eについては230万円と認めるのが相当である。
適用法規・条文
01:憲法、02:民法709条、03:民事訴訟法248条、07:労働基準法4条、
収録文献(出典)
労働判例959号85頁
その他特記事項