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A大学講師解雇無効確認等仮処分申請事件

事件の分類
解雇
事件名
A大学講師解雇無効確認等仮処分申請事件
事件番号
旭川地裁 − 昭和53年(ヨ)第49号
当事者
原告 個人1名
被告 学校法人A大学
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1978年12月26日
判決決定区分
棄却
事件の概要
債権者は、債務者から昭和51年4月1日、嘱託期間を昭和53年3月31日までとして債務者の教員及び債務者経営のA大学の嘱託専任講師に任命された者であるところ、債務者は、本件契約は昭和53年3月31日限りで終了したとして、翌日以降において債権者が教員たる地位を有することを否定した。

 債権者は、期間を2年と定めた本件契約は、労働基準法14条に抵触し、1年を超える期間は無効であり、それ以後期間の定めのない雇用契約になったこと、債務者経済学部長は2年後には債権者を専任教員にする旨言明したこと、債務者大学経済学部教員で任期が昭和53年3月31日までとされていた嘱託専任講師は債権者を含め5名であるが、そのうち継続勤務の意思を表明している債権者以外の者3名は全員契約更新されたこと、多くの学生が債権者のゼミナールを希望する等債権者の継続雇用に対する学内の期待が大きかったことなどを挙げ、債権者が債務者の教員たる地位があることを仮に定めるとともに、賃金の支払いを求めて仮処分を申請した。
 これに対し債務者は、本件契約は大学に週2日間出講して講義を行うのみで、その余の時間は何ら拘束を受けないから、使用従属関係はなく労働基準法の適用を受けないこと、仮に同法の適用を受けるとしても、本件契約は一定の事業の完了に必要な期間を定めたものに該当すること、仮に本件契約が同法14条に抵触し、1年経過後期間の定めのないものになったとしても、債権者に対し契約を更新しない旨通知した日の翌日から起算して30日経過した同年4月6日に解雇の効力が生じたとして争った。
主文
1 債権者の申請を却下する。
2 申請費用は債権者の負担とする。
判決要旨
債権者が、労働基準法8条12号所定の教育及び研究を行う者であることは明らかであるところ、債権者は毎週定められた日に、定められた時間講義を担当し、出勤簿への捺印等も義務付けられていたことが認められ、この事実によれば、債権者は少なくとも講義とう債務者の業務を遂行している間、その指揮下に置かれており、したがって債務者に使用されていたというべく、債権者が同法9条にいう労働者に該当することは明らかであるから、本件契約は同法2章に定める労働契約というべきである。ところで、1年を超える期間を定めた労働契約は、労働基準法14条、13条により、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、期間が1年に短縮されるが、その期間満了後労働者が引き続き労務に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、民法629条1項により黙示の更新がされ、以後期間の定めのない契約として継続されるものと解すべきである。

 債務者は、本件契約は日本経済史を担当する専任教員が得られるまでの期間、2年間を予定して暫定的・一時的に締結されたもので、一定の事業の完了に必要な期間を定めたものに該当する旨主張するが、日本経済史の講義が2年間で完了する事業といえないことは明らかであるから、右主張は失当であり、本件契約の期間は1年に短縮されたものというべきである。そして、債権者が本件契約締結後1年間を経過した昭和52年4月1日以降も引き続き債務者の労務に従事し、債務者がこれを知りながら異議を述べなかったのであるから、本件契約は同日以降、期間の定めのないものとして更新されたというべきである。

 債権者は、昭和53年3月6日に行われた本件解雇の意思表示は、労働基準法20条所定の予告期間を置かないものであるから無効であると主張するが、使用者が同条所定の予告期間を置かず労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としての効力は生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過したときに解雇の効力が生ずるものと解すべきところ、本件において債務者が債権者を同月31日限りで解雇することに固執する趣旨であったとは認められないから、右の理由のみで解雇の意思表示が無効であるということはできない。

 債権者において、昭和53年度以降も引き続き嘱託専任講師としての地位を保有し得るものと期待したであろうことは否定できないが、一方嘱託専任教員制度自体、いわば臨時的な雇用体制であって、嘱託専任教員は本来的意味の専任教員とは異なるものであることはもとより、専任教員となるためには公募による採用以外に途はなく、嘱託専任教員から昇格することは予定されておらず、雇用期間2年の定めにしても債権者が了承した上で嘱託専任講師に就任したものであり、債権者が嘱託専任教員に任ぜられた主な理由も、日本経済史を担当する専任教員が昭和53年度に新たに採用されたことによって失われており、更に同年度において債権者が専門とする人類学を開講しないことに決定したものであり、これら事実を総合すると、債務者が債権者を解雇したことには一応合理的な理由があるものというべく、これをもって信義則違反又は権利の濫用であるとは断じ得ない。
 以上の通りであるから、債権者は昭和53年4月6日までは債務者の教員たる地位を有していたが、その後はその地位を有しないというべきである。
適用法規・条文
07:労働基準法9条、13条、14条、20条,02:民法629条,
収録文献(出典)
労働関係民事判例集29―5・6957頁
その他特記事項
控訴審判決(札幌高裁昭和53年(ネ)401号 1981年7月16日労働関係民事判例集323・4502頁)では、原審と同一の理由により、控訴を棄却した。