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N大学外国人教師雇止事件

事件の分類
解雇
事件名
N大学外国人教師雇止事件
事件番号
名古屋地裁 - 平成16年(行ウ)第32号
当事者
原告個人1名

被告国立大学法人N大学
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2005年10月28日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 原告は、平成6年4月から国立N大学に勤務していた外国国籍の教師である。

 原告に送付された外国人教師の選考のための覚書には、地位は外国人教師であり、教授会で認められれば客員教授としての称号が与えられること、勤務期間は2年とすることなどが記載されていた。また、同覚書には、原告の採用に当たっては公募ではなく招聘人事の形式が採られたことが記載され、平成6年4月以降、平成16年3月31日まで、毎年1年契約で契約書が作成されて雇用が継続されていた。

 平成16年4月1日より、従来の国立大学が独立行政法人となったことから、N大学は国立大学法人N大学(被告)となったが、平成14年度に始まった国家的プロジェクトである「21世紀CenterOfExcellence(21世紀COE)プログラムのための任期付き教員の枠を確保するために外国人教師枠を利用することとし、これに先立つ平成15年7月、N大学のC教授は原告に対し、雇用関係は平成17年3月31日で終了する旨告げ、平成16年4月にはN大学を承継した被告は原告との間で平成17年3月31日までの1年間の雇用契約を締結して、その後の契約を更新しなかった。
 原告は、(1)国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づいてN大学の外国人教員として任用されたこと、(2)原告の身分は、平成16年4月1日に被告との間の労働契約上の地位として承継されたこと、(3)被告はN大学の地位を承継したので、原告を解雇するためには合理的な理由が必要であるところ、かかる合理的な理由はないことを主張し、予備的には、第一にN大学との間で期間の定めのある雇用契約を締結したが更新によって期間の定めのない契約になったとし、第二にその雇用契約が期間の定めのあるものであっても、その地位が労働契約上の地位として被告に承継されたから、被告が原告を解雇するためには合理的な理由が必要であるところ、かかる理由を欠くとし、第三に、仮に原告と被告との間で期間の定めのある雇用契約が新たに締結されたとしても、原告には更新に対する期待権が生じていたから、被告が原告を雇止めするには合理的な理由が必要であるところ、かかる理由を欠くとして、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
判決要旨
1 原告は外国人教員として国に任用されたか

 本件雇用契約書の「雇用」との文言のほか、給与等の勤務条件について契約によって定められていることに照らせば、N大学総長と原告との間で作成された契約書に基づく契約とは、国家公務員法2条7項所定の外国人教師としての雇用契約(公法上の契約)であると認められる。原告は、N大学の外国人教員として国に任用されたと主張するが、N大学より招聘期間は平成6年4月1日から2年間であること、2年の任期満了後においては、相互の合意により1年ごとに契約を更新することができる旨手紙で伝えられていることが認められ、その手紙の内容は各国立大学長宛て事務次官通知「外国人教師の取扱いについて」に沿うものであることが認められるから、原告がN大学の外国人教員として国に任用されたものと認めることはできない。

2 原告がN大学と締結した雇用契約は期間の定めのないものになったか

 原告の雇用契約書には雇用期間を1年とすることが明記されていたこと、雇用期間の満了時に契約を更新する際には、その都度新たに雇用期間を1年とする契約書が作成されたこと、平成14年4月に作成された契約書において職務内容が改められたこと、俸給月額及び調整手当が、平成13年4月に作成された契約書において従前より増額され、平成15年4月に作成された契約書において減額されたことが認められる上、雇用契約の更新においては、毎年10月末か11月頃に次年度のカリキュラムを考える際に、C教授と原告が協議した上、教授会において決定したものであり、原告は契約書を注意深く読んでからサインをしたことがあったことが認められる。以上の事実によれば、契約更新の都度、具体的勤務条件について協議の上契約書が作成され、契約更新の際に職務内容、給与額が変更になったことがあるのであるから、原告とN大学総長との間の契約が、更新により平成6年4月から平成16年3月31日まで継続したからといって、期間の定めのない雇用契約に転化したものと認めることはできない。

3 原告がN大学との間で締結した期間の定めのある雇用契約上の関係が被告に承継されたか

 C教授から原告に送付された教授会での説明メモには、平成16年度はN大学が独立行政法人化することに伴い外国人教師の任用は経過措置となり、平成16年度も原告を雇用するが、その雇用は平成17年3月31日までとし更新は行わない旨の記載があること、N大学副総長は原告の代理人に対し、原告について平成16年度は雇用契約を更新し、当該契約期間満了をもって雇用契約を終了させる旨知らせていることに照らせば、C教授、教授会及び副総長はいずれも、被告が設立される平成16年4月以降も、N大学総長と原告との間で締結された雇用契約が被告と原告との間で更新されるものと認識していたと認められる。しかし、原告が外国人教員として国に任用されたものではなく、外国人教師として雇用されたものである以上、N大学総長と原告との間の雇用契約を被告が当然に承継することはないと解される。そうすると、被告と原告との間の平成16年4月以降も雇用契約は、N大学総長と原告との間の雇用契約(公法上の契約)が更新されたものということはできず、被告と原告との間で平成17年3月31日までの期間の定めのある雇用契約(私法上の契約)が改めて締結されたものといわざるを得ない。

4 原告と被告との間の期間の定めのある雇用契約を被告が打ち切ることができるか

 原告とN大学総長との間で締結された雇用契約は、平成6年4月以降9回の更新により、平成16年3月31日までの10年間継続してきたものであること、その間に原告が従事していた職務は臨時的な職務ではなく恒常的に存在する職務であると認められること、外国人教師の中には、雇用契約が5年間を超えて更新されないものと明示されていた者がいたが、原告の場合には相互の合意により1年ごとに契約を更新できるとされ、更新継続期間の限定はされていなかったこと、外国人教師の中には20年以上にわたって雇用契約の更新継続がされていた者がいたこと、C教授、教授会及びN大学副総長のいずれもが、平成16年4月以降も被告と原告との間で雇用契約が更新されるものと認識していたこと、原告と被告との間で締結した雇用契約による職務は、N大学総長との間の雇用契約による職務と同内容のものと認められることに照らせば、平成16年4月以降の被告と原告との間の雇用契約は平成17年3月31日までであり、それ以後の雇用契約の更新はないことが原告にあらかじめ伝えられていたことを考慮してもなお、原告としては雇用契約についてある程度の継続を期待する合理的理由があったものといわざるを得ない。したがって、被告が原告との間の雇用契約の更新を拒絶する場合、解雇に関する法理が類推され、その更新拒絶には合理的な理由が必要であると解される。ただし、原告と被告との間の雇用契約が有期契約である以上、その更新拒絶の基準は、期間の定めのない従業員を解雇する基準よりは緩やかなものであると解するのが相当である。

 平成14年度の21世紀COEプログラムは、言語学の手法をとっていることから、英語文化圏の先端部門の人的資源を必要とすると考えられ、また、日本人研究者と共同研究し、成果を海外に伝える外国人研究者が必要と考えられたこと、そのため研究科として外国人の人文学専攻教員を1名採用する支援策を打ち出したが、原告は専門分野が異なる上、そのような教員に要求される行政上の各種義務を果たすことができるような日本語能力を有していなかったこと、被告総務企画部が作成した21世紀COEプログラムの研究支援者実施要領では、研究員は研究遂行に必要な能力を有する研究者とする旨定められていること、そこで被告の外国人教師枠を上記外国人人文学専攻教員に振り替えることが考えられたこと、これを受けC教授は、平成15年7月、原告に対し、原告とN大学との間の雇用契約は終了するが、終了時期については1年以上の余裕があるようにするため、平成17年3月31日とする旨告げたこと、これは教授会としての見解であったことが認められる。そして、N大学から独立行政法人となった被告は、原告との間で平成16年4月1日に期間を1年とする雇用契約を締結し、平成17年3月31日をもってその更新を拒絶したものであるが、その更新拒絶の理由は、教授会があらかじめ原告に伝えていた理由と同じであったと認められる。
 そうすると、被告のした更新拒絶には、有期雇用契約の更新を拒絶できる客観的に合理的な理由が存したというべきである。また、原告は、英米文学にとって枢要な存在である旨主張するが、研究科としては外国人の人文学専攻教員の採用を必要としたのであるから、英米文学研究室における原告の存在価値のみで、原告との雇用契約の更新拒絶の合理性が否定されるものではない。以上によれば、原告と被告との間の雇用契約は、定められた雇用期間の満了により終了していると認められる。
適用法規・条文
国家公務員法2条7項
収録文献(出典)
その他特記事項