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P社アルバイト雇止事件

事件の分類
解雇
事件名
P社アルバイト雇止事件
事件番号
東京地裁 - 平成18年(ワ)第13361号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2007年10月01日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(確定)
事件の概要
 被告は、労働者派遣事業、電話受信発信事務、帳簿伝票類の仕訳及びそれに伴う事務処理等を目的とする会社であり、O電気社との間で業務請負契約を締結し、同社の事業場において被用者を就業させていた。一方原告は、平成16年8月1日、被告に「短期アルバイター」として雇用された者であり、同年9月30日までO社の事業場において電源アダプタ交換連絡業務に従事し、同年10月から平成17年4月まで光ファイバーサービス電話案内業務に、同年5月から同年6月26日まで、データ処理業務等にそれぞれ従事していた。原告は、勤務部署が変わる都度、被告に対し労働条件を明示した雇用契約書を交付するよう求めたが、被告はこれを交付せず、労働条件通知書には1週間の所定労働時間が40時間を超えることはないと記載されているにもかかわらず、原告の勤務は午前9時から午後11時にも及ぶことがあったが、時間外手当が支払われず、原告がその支払いを求めても、被告は雇用ではなく業務委託であるから支払う必要がないと回答した。そこで原告は労働基準監督署に相談し、同署から支払う必要がある旨の回答を得て更に支払いを請求した結果、被告から平成17年3月15日に時間外手当が支払われた。原告は被告に対し雇用保険についても加入を求めたが、被告はこれに応じなかった。

 同年5月25日、原告は時間外手当を受け取るために被告本社に出向き、労働条件を明示した雇用契約書の交付を求めたが、被告担当者はこれを拒否し、原告の勤務を停止する旨述べたため、解雇ならば1ヶ月前の予告が必要である旨原告が述べたところ、被告担当者は6月26日をもって原告の勤務を終了させる旨通告した。
 原告は、被告との雇用契約は、平成16年10月以降は期間の定めのない契約になっていたから、本件雇用関係の終了は解雇であるところ、本件解雇には合理性がなく無効であるとして被告の従業員としての地位の確認と賃金を請求するとともに、違法な解雇により精神的損害を受けたとして慰謝料を請求した。また原告は、予備的に、被告の手続き懈怠により雇用保険の基本手当を受給できなかったことによる損害賠償を請求した。
主文
判決要旨
1 本件雇用契約は期間の定めのない雇用契約か、日々雇用か

 被告の主な業務は、発注企業から一定の業務処理を請け負い、その業務を遂行するため、自己が雇用する労働者を発注企業の事業場において自己の指揮命令下に労働させる、いわゆる業務処理請負と解される。このことからすれば、被告は発注企業との間の請負契約の有無、日々の業務量に合わせて雇用調整等を行う必要があるため、これを容易に行うことのできる登録制のアルバイターを日々雇用で雇っているものと認められ、原告との間の雇用契約も日々雇用と認められる。 原告は、本件雇用契約は、当初2ヶ月間の有期アルバイトであったところ、平成16年10月以降期間の定めのない雇用契約になったと主張する。確かに、原告の労働条件通知書の身分蘭には「日々アルバイター」ではなく「短期アルバイター」に○が付されており、被告は原告の勤務シフトの管理を全く行っておらず、被告の主張する雇用の更新手続きは全く行われていない。また、原告は平成16年10月から約9ヶ月間にわたって、1週間に5、6日勤務しており、勤務期間は合計で約11ヶ月に及んでいる。しかしながら、これら事実を考慮しても、日々雇用、あるいは日々雇用でないとしても、長くても短期のアルバイトと認めるべきもので、期間の定めのない、長期にわたることを予定する雇用契約と認めるには至らないというべきである。

2 本件雇止めの適法性

 期間の定めのある雇用契約は、期間満了により終了するのを原則とするが、(1)雇用契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていれば、更新拒絶には解雇に関する法理が類推される。また、(2)期間の定めない契約と実質的に異ならない状態になっていたとまではいえないものであっても、雇用関係の継続がある程度期待されていたものは、同様に解雇に関する法理が類推される。 本件では、もともとの契約が日々雇用のアルバイトであり、前記(1)(2)のように解雇に関する法理を類推すべきものとはならない。しかし、原告はフルタイムで1週間に5、6日勤務して生活を支え、契約更新手続きも特に行われずに更新を重ねて、勤務期間は有期アルバイトの期間を含めれば11ヶ月に及んでいることを考えると、日々の経過により当然に雇用契約が終了するものとは解し難い。この種の雇用契約における雇用調節の必要性を考慮するとしても、契約の終了には当該契約の性質に見合った合理的な事由を必要とすると解すべきである。 本件雇止めは、原告がいわゆるうるさ型の人物であることから、被告の担当者がその対応に手を焼いたことを原因の1つとするものであるという疑いを否定できず、合理性に欠けるものというべきである。しかしながら、契約自体が日々雇用のアルバイトである以上、本件通知から口頭弁論終結時まで既に2年近くを経過し、原告も現在は他所でアルバイトをしていることを考えると、雇止めが無効であることによって雇用契約がなお存続していることになると考えるのは相当でない。雇用契約はその後の期間経過により終了したものとして、雇止めが合理性を欠くことに対する手当は別途考慮されるべきである。上記合理性を欠く雇止めもしくはこの点に関する被告の不適切な対応により、原告が精神的損害を受けたことが認められ、この精神的損害を慰謝するには、本件雇用契約の性質、事実の経過その他一切の事情を考慮すれば、20万円をもって相当と認める。

3 雇用保険に関する原告の損害

 原告は離職前2月の各月において、同一の事業主に18日以上雇用されているので、雇用保険法6条、42条にいう適用除外者には該当しないと考えられる。原告が退職後、公共職業安定所で相談したことを受けて、同所が被告に対し原告が雇用保険の適用対象になると思われる旨説明したのに被告がこれを受け容れず、最終的に雇用保険の手続きがとられなかった事実が認められる。そうすると、被告が故意又は過失により、雇用保険加入の手続きを懈怠するという不法行為を行い、これにより原告が本来適用となるはずの雇用保険の基本手当の支給を受けられなかったという損害を被ったものというべきである。 雇用保険法22条1項3号により、原告が基本手当の支給を受けられた期間は90日となり、基本手当の支給分は68万3100円と認められる。
適用法規・条文
02:民法709条、雇用保険法6条、22条1項、42条
収録文献(出典)
労働判例953号84頁
その他特記事項