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豊中市不動産事業協同組合女性事務局長暴行解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
豊中市不動産事業協同組合女性事務局長暴行解雇事件
事件番号
大阪地裁 - 平成18年(ワ)第816号
当事者
原告個人1名

被告豊中市不動産事業協同組合
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2007年08月30日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、組合員のために不動産流通センターの設置及び維持管理等を目的とする事業協同組合であり、原告は、平成13年9月、被告の事務職員として雇用され、平成17年5月に事務局長に昇進した女性である。

 平成17年6月当時、原告の外B、C、Dの3名(いずれも女性)が事務職員として勤務していたところ、同月11日、原告が自席付近でCと業務に関し話し合っていた際、Bが原告に対して総務部長が欠席する旨伝えたところ、原告は「会話に口を挟むな」と大声で怒鳴った。Bが「気分が悪いので帰ります」などと言うと、原告は手でBの肩を1回突いて自席に戻った後、Bに対し「お前なんか二度と来るな。顔なんか見たくもない。帰れ帰れ。目の前をウロウロしやがって」などと大声で怒鳴り続けた。Bが「本音を吐いたわね」などと言うと、原告はBに向かって走り込み、Bの右大腿部を蹴った。

 本事件当日、総務部長は原告に対し、自宅待機を命じ、原告は翌日理事長に対し謝罪の意向を伝えた。被告理事会は、同月17日、臨時執行部会で決議された原告の諭旨免職処分を承認する旨決議し、被告は同月21日、原告に対し同月30日までに退職届の提出を求める通知書を送付した。同月27日に、原告がBに対する暴行を否定し、解雇理由の郵送を求める通知書を送付して、同月30日までに退職届を提出しなかったことから、被告は同年7月4日付通知書により、原告を懲戒解雇することを伝えた。
 これに対し原告は、主位的には懲戒解雇の無効を理由として労働契約上の地位の確認と解雇後の賃金を、予備的請求として解雇予告手当及び付加金並びに時間外賃金の支払いを請求した。
主文
1 被告は、原告に対し、64万5080円及びこれに対する平成17年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は、原告に対し、36万3992円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 原告のその余の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、これを5分し、その4を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件解雇の効力の有無

 原告は被告の事務局長として、他の職員に対し、その人格を尊重し、誠意をもって指導すべき立場にあったのにもかかわらず、勤務時間中に事務所内で、事務職員Bに対し、手で肩を1回突くという暴行を加え。侮辱的な内容を大声で怒鳴り続けた上、Bに向かって走り込み、その身体に蹴り掛かるという暴行を加え、これらの暴行によってBに加療7日間を要する右大腿部及び右肩打撲の傷害を与えた。

 本件原告の言動は、就業規則における懲戒事由である「素行不良、及び性的な言動など風紀秩序を乱したとき」「金銭の横領その他刑法に触れるような行為をしたとき」に該当するものである。そして、本事件における原告の言動、Bの被害状況、原告の当時の職責、本件事件までの原告の同僚に対する言動、本事件後の被告に対する言動等に照らすと、原告が、被告の事務職員として3年以上精勤して、職務熱心で、事務処理能力が高いと評価されていたこと、本事件までに懲戒処分を受けていないことなどを考慮しても、原告に対して諭旨退職の懲戒処分をしたことが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くものとは認められない。

 原告は、本件解雇に当たり、弁明の機会が与えられなかった旨主張するが、理事長及び総務部長が、本事件当日、原告から事情聴取したこと、原告がBに暴力を振るった旨認めていること、本事件の翌日原告が電話で理事長に謝罪したことが認められることからすれば、被告が原告に弁明の機会を設けなかったとは認められない。そして、本件解雇に関する手続きにおいて、他に本件解雇の効力に影響を及ぼすような瑕疵があったとは認められないから、本件解雇は解雇権の濫用に当たらず、有効である。

2 解雇予告手当請求及びこれに対する付加請求の成否等

 本件解雇の事由は、職場の秩序に反する重大な非違行為であり、労働基準法20条による保護を与える必要がないものというべきであり、同条1項但書の「労働者の責に帰すべき事由」に当たる。労働基準法20条3項、19条2項は、同法20条1項但書の場合、解雇事由について行政官庁の認定を受けなければならないと定め、被告の就業規則では、懲戒解雇について、所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは、予告手当を支給しないと定めるところ、本件解雇の事由について行政官庁の認定がされていないことが認められる。しかし、行政官庁の認定は、事実確認的な性質のものと解されるから、この認定を受けていなくても、解雇が「労働者の責めに帰すべき事由」に基づくものと認められる場合には、使用者は解雇予告手当の支払義務を負わないというべきである。したがって、原告の解雇予告手当請求は理由がない。

3 時間外等賃金請求の成否

 原告のタイムカードの打刻時刻は、午後6時前後ないし午後8時前後に及ぶものが相当見られ、原告は職務熱心で、事務処理能力が高いと評価されており、他の事務職員より遅く残って業務に従事することが多かったこと等が認められる。被告は、(1)事務職員に対し、行事の場合を除き、時間外労働を命じていないこと、(2)原告は恣意的に事務所内にいたに過ぎないことを主張するが、事務職員が、行事の際以外にも午後5時以降に事務所に残って業務に従事することがあり、理事長、総務部長は事務職員の就労状況を詳細には把握していなかったことが認められ、原告が午後5時以降に事務所に残って業務に従事していたとの認定を妨げる的確な証拠はない。以上によれば、原告の労働時間は、時間外等賃金の計算上、タイムカードにおける出勤時間から所定休憩時間1時間を引いて算定するのが相当である。

 法定労働時間(1日8時間)の範囲内での残業(1日7時間を超える時間)は、労働基準法の割増賃金の対象とならないこと、被告の職員給与規定は、支給額を具体的に定めていないことに照らすと、この法定労働時間内の残業にかかる1時間当たりの賃金額は、算定基礎となる賃金額(割増前のもの)とするのが相当である。原告の時間外労働、休日労働について算定すると、合計額は64万5080円となる。
 労働基準法114条に基づき、法定時間外勤務手当及び休日勤務手当の合計と同額の付加金の支払いを命じるのが相当であるが、平成16年4月分にかかる部分は、2年間の除斥期間が経過しているので、付加金の支払いを命じる金額は、平成16年5月分ないし平成17年6月分の法定時間外勤務手当及び休日勤務手当を合計した36万3992円となる。
適用法規・条文
07:労働基準法19条、20条、37条、114条、
収録文献(出典)
労働判例957号65頁
その他特記事項
本件は控訴された。