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N航空FA配転拒否控訴事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- N航空FA配転拒否控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成18年(ネ)第2785号
- 当事者
- 控訴人 個人5名A、B、C、D、E
被控訴人 N航空 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2008年03月27日
- 判決決定区分
- 変更(控訴一部認容・一部棄却)(上告)
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審被告)は国際航空事業を営む株式会社であり、控訴人(第1審原告)らは本件配転当時、いずれも被控訴人のフライトアテンダント(FA)業務に従事していた。
被控訴人は、業績が悪化し、FAが余剰になったとして、控訴人らを地上職に配転したところ、控訴人らは、FAは高度の専門性・特殊性があり、労働契約上FAに限定する合意がなされていること、本件配転によってFAとしての能力を発揮、向上させる機会を失ったほか、種々の手当を受けることができなくなった等の不利益を受けたことを主張して、FAの地位にあることの確認と、精神的損害に対する慰謝料各100万円の支払いを請求した。
第1審では、業績が悪化した被控訴人にとって本件配転は業務上の必要性があったこと、控訴人らの不利益は通常甘受すべき程度を著しく超えるものではないこと、その他不法な動機・目的をもってなされたものとは認められないことを挙げて、本件配転命令を権利濫用とする控訴人らの主張を斥けたことから、控訴人らはその取消しを求めて控訴した。 - 主文
- 1 原判決を次ぎのとおり変更する。
(1)控訴人らと被控訴人との間で、控訴人らが被控訴人の客室乗務員(フライトアテンダント)の地位にあることを確認する。
(2)被控訴人は、控訴人B、同Dに対し、それぞれ100万円及びこれに対する平成15年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人は、控訴人A、同C、同Eに対し、それぞれ80万円及びこれに対する平成15年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)控訴人A、同C、同Eのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
3 この判決は、第1項(2)、(3)に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件配転命令は配転命令権の濫用に当たるか
本件配転命令当時、被控訴人は経営状態が思わしくなく、コスト削減のための方策の一つとして、人件費の節約、被控訴人内における余剰労働力の適正配置などを行う一般的な業務上の必要性があったことは肯定できる。しかし、一般論を離れて具体的に本件配転命令の必要性についてみると、まず東京ベースFAが15名余剰であり、これを削減するという案の根拠は、コンピューターソフトによって試算したものとされているが、その証拠はなく、前提とされる条件や数値も不明である等、その結果の信頼性は薄いといわざるを得ない。更に、被控訴人が主張するFAの人員の余剰発生の原因はQIFSRが乗務する便をゼロから週28便にする一方で、FAの乗務する便を週62便から週55便に減らしたことによるもので、その意味では、被控訴人の主張する余剰は、被控訴人自身が平成14年4月頃以降短期間に作り出したものである。
被控訴人がQIFSRが乗務する便を急増させ、FAの乗務する便を減らしたのは、QIFSRがFAに比べて給与等が低いので経済的・効率的であることによるもので、それなりの理由はあるが、FAの乗務する便は従前程度とし、純増の便をQIFSRの乗務とするような案が具体的に検討された形跡はない。本件配転命令を実施することで、被控訴人の人件費は一定の削減が見込まれ、その程度は決して少額ではないが、被控訴人の企業規模からすれば、本件配転を実施して人件費削減を断行しなければ、経営が危機に瀕するあるいは経営上実質上相当な影響があるとは認められない。
本件配置転換により控訴人らの受け取る基本給には変動がないが、地上職では得られないFA特有の収入であるインセンティブ・ペイ、深夜勤務手当、免税販売手数料、宅配サービス手数料を得ることができなくなり、それらの手当は概ね月数万円であり、無視できない経済的不利益を受けたものである。また、本件配置転換により、控訴人らは誇りをもって精勤してきたFAの仕事から外されて精神的な苦痛を受けたもので、その精神的苦痛は大きい。
本件労使確認書は労働協約であり、その第3項はFAの職位確保に関する努力義務を定めたものであって、法的拘束力を持つものではないが、信義則上、可能な限り遵守されるべきことは当然であり、その協約と矛盾するような行為を行うことは許されないというべきである。被控訴人が努力義務を負うということは、客室乗務員について他の職種に配転させることが直ちに合意の違反となり、被控訴人がそれに対応する法的責任を負うものではなく、また客室乗務員がFAの職位を失うことのないように具体的な努力をしたにもかかわらずそれが達成できなかったとしても、義務違反となるものではないが、他方、努力義務の対象とされた事項を達成するために具体的な努力をしないこと、努力義務の対象とされた事項を達成するために障害となる事項を自ら作出すること、又は努力義務の対象とされた事項が達成されない状態を維持、強化する行為をしたこと、そしてそれらの結果、努力義務の対象とされた事項が達成されない場合には、合意された努力義務の違反があったものとして、不法行為が問題になる場合には違法性の判断要素となり、権利の濫用が問題になる場合には義務違反者に不利な事情として法的評価の要素となるものというべきである。本件配転命令によって、被控訴人が控訴人らとの関係で、本件労使確認書第3項の努力義務を達成できなくなった原因は、本件労使確認書締結の頃から、日本人FA、QIFSRが乗務する便数が増えたのに、それ以上にQIFSRが乗務する便数を急増させ、QIFSRの人員も増やす一方でFAの乗務する便を減らしたことにあり、被控訴人の行為は、努力義務の対象となる事項を達成することの障害となる事実を自ら作出し、その後もその状態を積極的に維持したもので、本件労使確認書第3項の努力義務に反するものであった。被控訴人は、支社組合から、書面において被控訴人の今回の一連の対応は本件労使確認書の条項に抵触するとの指摘を受けたにもかかわらず、本件配転命令の決定・実施に当たり、本件労使確認書の努力義務を考慮して具体的な努力をしたと評価できることをしたとは認められない。この点も本件労使確認書第3項の努力義務に違反するもので、被控訴人の以上のような態度は、労働協約を締結した当事者間の信義則に違反するものといえる。本件労使確認書は、被控訴人の経営不振が続く中で締結されたものであるのに、それから11ヶ月後に本件配転命令がされたことも労働協約を締結した当事者間の信義則に違反するものといえる。
被控訴人が本件配転命令の問題を控訴人らFAに対して明らかにしてから実施されるまでの間に3週間強しかなく、更に控訴人らを含むFAからすれば、被控訴人から提示された長期会社都合休職制度を利用した場合、期間終了後FAとしての職場復帰が可能か否かなど制度の重要な部分が不明であり、自己の職務に関する選択・決断をするには余りにも時間が短かった。以上のようなことなど、本件配転命令実施に際し行われた団体交渉、文書による説明において、被控訴人の控訴人らを含むFA、支社組合に対する交渉態度は、誠実性に欠けると評価することができる。そうすると、被控訴人は、就業規則及び労働協約に基づき、業務上の必要に応じ、その裁量により控訴人らの個別的同意を得ずに業務内容の変更を伴う配転を命じる権限を有することを十分に参酌しても、以上のような本件の諸事情を総合考慮すると、本件配転命令については、被控訴人の有する配転を命じる権限を濫用したと評価すべき特段の事情が認められるというべきであり、被控訴人が行った本件配転命令は権利の濫用に当たり無効である。
2 本件配転命令は不当労働行為に当たるか
本件配転命令は業務上の必要性に基づくものと認められること、人員整理に際し、先任順位の低い従業員からその対象とするという人選基準が定められていることが認められることに照らせば、先任順位の低い者から選定するとした本件配転命令の人選基準には合理性が認められる。そうであれば、本件配転命令は主として不当労働行為の意思に基づくものであるとはいえない。
3 慰謝料請求権の有無、額
本件不法行為により、控訴人らは、それぞれ精神的な苦痛を受けたものと認められ、特に控訴人B、同Dは、平成13年8月20日に配転命令を受け、FAから地上職勤務に異動となり、その後本件労使確認書による合意に従って平成14年10月3日にFAに復帰したが、それから約5ヶ月後に再び本件配転命令による異動を命じられたもので、その受けた精神的苦痛は他の3名の控訴人らよりも大きいものと推認できる。
以上のような事実を総合すると、被控訴人の行った本件配転命令は控訴人らとの関係で、本件労使確認書による合意を含む雇用関係の私法秩序に反し違法であり、かつ、少なくとも過失があると認められ、不法行為が成立する。控訴人らの各損害額は、上記不法行為の性質、各控訴人らが受けた損害の性質、程度、その他本件記録に顕れた一切の事情を考慮して、控訴人B、同Dは各100万円、その余の控訴人らは各80万円と認める。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条,
- 収録文献(出典)
- 判例時報2000号133頁、労働判例959号頁
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
千葉地裁 − 平成15年(ワ)第1354号 | 棄却(控訴) | 2006年04月27日 |
東京高裁 − 平成18年(ネ)第2785号 | 変更(控訴一部認容・一部棄却)(上告) | 2008年03月27日 |