判例データベース
高等学校女教師隔離等控訴事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 高等学校女教師隔離等控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成4年(ネ)第2279号、東京高裁 − 平成4年(ネ)第4319号
- 当事者
- 控訴人(附帯被控訴人) 学校法人
被控訴人(附帯控訴人) 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1993年11月12日
- 判決決定区分
- 控訴棄却、附帯控訴一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)は、控訴人(附帯被控訴人・第1審被告)の設置する高校の専任教師であるが、昭和51年、同53年の2回にわたり産休を取ったことから、校長や副校長から、産休を6週間も取ったこと、権利を主張するばかりで恭順さがないことなどと指摘され、勤務態度が悪いとして、執拗に始末書の提出を求められた。被控訴人が始末書の提出を拒否していたところ、控訴人は昭和55年4月から被控訴人をクラス担任、授業その他一切の業務を行わせないこととした。昭和56年度からは、被控訴人の席を職員室内で隔離し、昭和57年3月には、他の教職員との暴力沙汰を避けるなどの理由で、被控訴人を別室(第三職員室)に隔離した上、更に昭和61年8月には被控訴人に対し自宅研修を命じた。
被控訴人は、控訴人の行った一連の行為は、被控訴人が組合員であることを理由とする不当労働行為であること、業務命令権の範囲を逸脱する違法な命令であることを理由として、被告に対して1000万円の慰藉料を請求した。
第1審では、控訴人の被控訴人に対する一連の行為は不当労働行為に当たるとして、控訴人に対し400万円の慰謝料の支払いを命じたところ、控訴人はこれを不服として控訴するとともに、被控訴人も慰謝料の額を不服として附帯控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
一 控訴人は、被控訴人に対し、600万円及び内金500万円に対する昭和61年10月5日から、内金100万円に対する平成2年4月13日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 被控訴人のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じて3分し、その2を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決第2項一は仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 控訴人が被控訴人の教師としての適格性に欠ける根拠として主張する事実のうち、補講の割当に関してみると、被控訴人が事前に主任の承認を受けずに他の教師に割り当てたことは事実だが、被控訴人は割り当てた2時間分のうち1時間分は養護教諭としての仕事を行っていることなどを考えると、これを重大視することは相当でない。次にボードの書き直しについてみると、緊急の必要性は認め難く、校長の指示があいまいであったことなどから、被控訴人に特に責められるべき原因は存せず、かえって校長の指示が時期的にあるいは内容的に適切であったか否かにつき疑問を差し挟む余地があったといわざるを得ないところ、全体として見て被控訴人には業務命令に逆らったと評すべきところはなかったというべきである。また生徒の不祥事につき被控訴人が始末書を提出しなかった点については、この種の不祥事にについて必ずしも担任の教師が始末書を提出することが慣行化していたとまでは認め難く、被控訴人が始末書を提出しなかったのはボードの書き直しの件で執拗に始末書の提出を求められ、これを拒否してきた経緯から躊躇したものと推察され、ある程度まで無理からぬことであったということができる。更に、教室で座って授業したことについて校長から叱責された際の対応、今後は休まないと言いながら1日休んだことについて始末書を求められた際の対応など、被控訴人の言動については素直さに欠け、反抗的と受け取られる態度が見られるものの、この原因は、ボードの書き直しに端を発し、学園側が相当感情的で執拗な対応をしたことにあり、被控訴人の態度はこれに反発したことによるものと窺われ、やむを得ない一面があるとともに、これらのこと自体は仕事上で起こることがあり得る行き違い程度のものであって、全体からみれば軽微な事柄であったということができる。
控訴人が被控訴人に対し、仕事外し、職員室内隔離、第三職員室隔離、自宅研修という過酷な処遇を行い、更に賃金等の差別をしてきた原因については、被控訴人が2度にわたって産休を取ったこと及びその後の態度が気にくわないという多分に感情的な校長の嫌悪感に端を発し、その後些細なことについての行き違いから、控訴人側が感情に走った言動に出て、執拗とも思える始末書の提出を被控訴人に要求し続け、これに被控訴人が応じなかったため依怙地になったことにあると認められるのであって、その経過において、被控訴人のとった態度にも反省すべき点がなかったわけではないが、この点を考慮しても、控訴人の行った言動あるいは業務命令等を正当づける理由とはならず、その行為は業務命令権の濫用として違法、無効であることは明らかであって、控訴人の責任は極めて重大である。そして、被控訴人に対する控訴人の措置は、見せしめともいえるほどに次々にエスカレートし、13年間の長きにわたって被控訴人の職務を一切奪った上、その間に職場復帰のための機会等も与えずに放置し、しかも、今後も職場復帰も解雇も全く考えておらず、このままの状態で退職を待つという態度に終始しているのであって、見方によっては懲戒解雇以上に過酷な処遇といわざるを得ない。そして、このような控訴人の行為により、被控訴人は、長年何らの仕事も与えられずに、職員室内で1日中机の前に座っていることを強制されたり、他の教職員からも隔絶されてきたばかりでなく、自宅研修の名目で職場からも完全に排除され、かつ賃金も昭和54年度のまま据え置かれ、一時金は一切支給されず、物心両面にわたって重大な不利益を受けてきたものであり、被控訴人の被った精神的苦痛は誠に甚大であると認められる。
右の各違法行為は、控訴人の設置する学園の校長又は副校長によって行われたものであるから、控訴人は、民法709条、715条、710条に基づき、その不法行為によって被控訴人が被った損害を賠償すべき義務があるところ、被控訴人の精神的苦痛を慰謝すべき賠償額は、本件一連の措置を一体の不法行為として全体的に評価・算定すべきであり、控訴人の責任の重大さに鑑みると、金600万円をもって相当とする。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条、710条、715条,
- 収録文献(出典)
- 判例時報1484号135頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 昭和61年(ワ)第11559号 | 一部認容・一部棄却 | 1992年06月11日 |
東京高裁 − 平成4年(ネ)第2279号、東京高裁 − 平成4年(ネ)第4319号 | 控訴棄却、附帯控訴一部認容・一部棄却 | 1993年11月12日 |