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K市水道局職員いじめ自殺控訴事件【うつ病・自殺】
- 事件の分類
- うつ病・自殺
- 事件名
- K市水道局職員いじめ自殺控訴事件【うつ病・自殺】
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成14年(ネ)第4033号
- 当事者
- 控訴人・被控訴人(第1審原告) 個人2名A、B
被控訴人・控訴人(第1審被告) K市 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年03月25日
- 判決決定区分
- 各控訴棄却(確定)
- 事件の概要
- 第1審原告(原告)らの長男であるM(昭和42年生)は、昭和63年に第1審被告(被告)K市に任用されて水道局に配属され、平成7年5月に同局工業用水課に配置された。
同課の課長E、係長F、主査Gは、Mに対し猥雑な話や肥満をからかうなど、様々ないじめを行い、その結果Mは心因反応、精神分裂病の診断を受け、欠勤しがちになった。平成8年4月に、Mは以前在籍した資材課へ異動したが、症状は回復せず、自殺未遂を何回か繰り返した後、平成9年3月4日に遺書を遺して自宅で首を吊って自殺した。原告らは、Mの自殺は、職場におけるいじめが原因であるとして、E、F、G及び被告K市に対し、それぞれ6462万0819円の損害賠償を支払うよう要求した。
第1審では、被告K市は安全配慮義務違反により国家賠償法に基づく責任があるとしつつMの自殺については本人の資質ないし心因的要因も加わったとして、過失相殺により7割を減額し、原告らそれぞれに対し、1062万9708円の支払いを命じた。しかし、被告Eら3名については、その職務を行うについて、故意又は過失によって他人に損害を与えた場合には、公務員個人はその責を負わないとして、その損害賠償責任を否定した。
この判決に対し、被告K市は、Mの自殺について安全配慮義務違反はないと主張する一方、原告らは7割の過失相殺は相当でないとして、共に控訴した。 - 主文
- 本件各控訴をいずれも棄却する。
控訴費用中、第1審原告らの控訴によって生じたものは同原告らの負担とし、第1審被告の控訴によって生じたものは同被告の負担とする。 - 判決要旨
- 当裁判所も、第1審原告らの請求は原審が認容した限度で理由があり、その余の請求は理由がないので棄却すべきものと判断する。
Mの病名は心因反応又は精神分裂病とするのが妥当と思われるが、精神分裂病はICD-10による分類のF2に当たるから、Mに対するいじめと精神分裂病の発症・自殺との間には事実的因果関係が認められる。この点につき被告は、精神分裂病は内因性の精神疾患であり、何らかの出来事によって発症するものではないから、いじめとMの精神分裂病の発症との間には事実的因果関係がない旨主張する。しかしながら、被告が引用する「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断について」(平成11年9月14日付け労働基準局長通達)においても、業務の強い心理的負荷(職場における人間関係から生ずるトラブル等通常の心理的負荷を大きく超えるもの)により精神障害(ICD-10の分類によるもの)を発病する場合があるものとされ、業務による心理的負荷によってこれらの精神的障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思い止まる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し、原則として業務起因性が認められるものとされているのであって、上記主張を採用することができない。もっとも、健常者であればそれほど心理的負荷を感じない他人の言動であっても、精神分裂病の素因を有する者にとっては強い心理的負荷となり、心因反応ないし精神分裂病の発病・自殺という重大な結果を生じる場合があり、この場合に、加害者側が被害者側に生じた損害の全額を賠償すべきものとするのは公平を失すると考えられるが、その点は過失相殺の規定を類推適用して賠償額の調整を図るべきである。
また被告は、職員の言動によってMに精神分裂病等が発症することは予見不可能であったから、仮にいじめがあったとしても、その行為とMの自殺との間には相当因果関係がない旨主張するが、Eら3名の言動がMに対するいじめ(不法行為)であり、その行為とMの心因反応ないし精神分裂病の発症・自殺との間に事実的因果関係が認められる以上、不法行為と損害(Mの死亡)との間に相当因果関係があるというべきである。 - 適用法規・条文
- 04:国家賠償法1条1項,
02:民法722条2項, - 収録文献(出典)
- 労働判例849号87頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
横浜地裁川崎支部 - 平成10年(ワ)第275号 | 一部認容・一部棄却 | 2002年06月27日 |
東京高裁 − 平成14年(ネ)第4033号 | 各控訴棄却(確定) | 2003年03月25日 |