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英会話学校講師雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
英会話学校講師雇止事件
事件番号
東京地裁 − 平成17年(ヨ)第21065号
当事者
その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2005年07月29日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、外国語教室の経営等を目的とする株式会社であり、債権者は、平成5年10月に債務者に雇用期間1年の契約で採用され、以後契約更新を繰り返しながら英語会話講師として就労してきた者である。

 債務者の就業規則には、債務者が設定したカリキュラム及びスケジュールに基づき、債務者の指示に従ってレッスンを行わなければならないこと、講師は所属長の指示に従わなければならないこと等が定められていたところ、債権者は、債務者指定のテキストを使用せず、生徒カルテにも絵・漫画等不適切な記載をするなどし、生徒からも深刻なクレームがあったとして、債務者は平成16年9月21日、債権者に対し、雇用契約期間の切れる同年10月23日以降契約更新を行わない(本件雇止め)旨意思表示をした。
これに対し債権者は、英語会話講師として約11年間の経験を活かし、創意工夫に溢れた授業を行っており、生徒の評判も非常に良好であること、債務者の指摘に対し改めるべき点は改めるなど真摯に対応してきたことを主張し、本件雇用契約は約11年間継続され、解雇に関する法理が類推適用されるべきところ、本件雇止めには合理的な理由はなく、手続きも適正を欠いていることから無効であるとして、講師としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 本件申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。
判決要旨
 債権者は、採用時、債務者から原則として1年間で契約が終了するとの説明はなかったこと、債務者における給与体系や有給休暇の制度は契約更新を前提とし、現に債権者はこれまで10回契約を更新しているから、本件雇止めには解雇に関する法理が類推適用される旨主張する。しかしながら、契約書にはその期間が明記される一方で、契約の自動更新については何も記載がないこと、雇用を継続する場合には新たに契約書が作成されていたこと、債務者も採用時に債権者に対し1年毎の更新が必要である旨説明していること等に照らすと、本件雇用契約が10回更新され、約11年間にわたり継続されてきたとしても、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となったということはできないし、これによって、直ちに雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性があるということも困難である。

 仮に解雇に関する法理を類推適用する余地があるとしても、債権者は、業務に関し、債務者の方針・指揮命令等に従うべきであり、また生徒カルテについても、その記載方法がマニュアルにおいて指示され、これが正確・適切に記載されていることが講師の評価項目の一つとされているのに、債権者はこれらの指揮命令等に反し、独自の方法で授業を行ったほか、生徒カルテにも、絵や漫画、意味不明のコメント、債務者に対する批判を記載し、再三の注意指導にもかかわらず、これを改めなかったことが認められる。

 確かに、債権者の考案した教授方法を支持する生徒や同僚講師等は少なからず存在し、債務者においても、債権者の能力自体は高く評価していたことが窺われるのであるが、その一方で、債権者のテキストの不使用やその教授方法、授業中の態度について、多数の生徒から苦情が寄せられていたことも否定はできないし、そもそも債務者の業務として授業を行う以上、その方針・指示に従い均質な授業を行うべきであることは当然であるところ、債権者は平成13年11月頃から繰り返し注意指導を受けながら、結局これに応じなかったのであって、これは本件雇用契約等に反するものといわざるを得ない。

 債権者は、生徒カルテの記載が不適切とはいえないと主張するが、生徒カルテの記載は、債権者のみならず他の講師もこれに基づいて指導を行うということであるから、少なくとも、他の講師においてもその意味を理解し得るものであることが要求されるというべきである。債権者の記載した生徒カルテの中には、生徒の評価に係るものがないわけではないが、大部分は意味不明なものであるし、生徒の習得状況を示す記載として適切なものとはいえない。
 その他、債権者が許可を受けずにレッスンルームにポスターを掲示したこと、講師用教材に下品な言葉を記載したことなどをも考慮すると、本件雇止めには、本件就業規則の法的規範性について判断するまでもなく合理的な理由があり、社会通念上相当というべきであって、その手続等についても、これを無効とするような事情は認められない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報1914号43頁
その他特記事項