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整形外科医院保育士解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 整形外科医院保育士解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成17年(ヨ)第10087号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2006年03月06日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、リウマチ科整形外科を経営する者であり、債権者は、平成17年8月30日に面接を受け、同年10月2日からデイケアサービスのスタッフとして勤務し始めた女性である。債権者は、同年11月末までは医院のリハビリ助手として勤務するとともに、デイケアサービスの開業準備にとりかかった。
同年10月17日にクリニックと保育園が開業し、債務者は同年11月26日、債権者に対し給与の7割を支払うとともに、支給合計額に全額の26万円と記載された給与支払明細書を交付しようとしたが、債権者は受領を拒否した。債権者は同年12月1日からデイケア部門で勤務し、同月8日、11月分の給与全額の支払いを受けた。
同月10日のクリスマス会の後、債務者はスタッフ7名を集め、デイケア、保育園とも同日をもって閉鎖し、7名に対し即日解雇を言い渡した。そして、債務者は同月22日に債権者らに対し12月分の給与を支払い、同月29日に解雇予告手当を支払った。
これに対し、債権者は、本件解雇の無効確認と賃金の支払いを求めて仮処分命令の申立てを行った。 - 主文
- 判決要旨
- 1 人員削減の必要性
デイケア等を直ちに閉鎖しなければならない経営状況にあることを裏付ける客観的な書証等は何ら提出されていない。そもそも、デイケア等の開業直後は、利用者が初年度に見込んだ平均利用者数に達しないことは容易に予測できることであり、経営者はそれを見こんで運転資金等を準備するのが通常であるから、開業当初の利用者が初年度に見込んだ平均利用者数に達しないことから直ちに人員削減の必要性を肯定することは困難である。
債務者は、確かに従業員に対し、資金がないとして11月分の給与を翌月8日に支払っていることは認められるものの、その際もデイケア等を閉鎖する可能性について何ら言及していないし、本件解雇当日においても、保育園の入所児童を増やすために、クリスマス会を開催するなどしていたことが認められることからして、デイケア開始後僅か5日で急遽デイケア等を閉鎖しなければならない緊急の客観的状況の変化も認め難い。しかも、債務者はデイケア等を閉鎖した後もクリニックの営業を継続して患者数も増加し、そのため、債務者は18年度に入ると、新たにリハビリスタッフ、看護師や医療事務担当者の求人を行っていることや、債務者は現在も外車に乗って通勤していることが認められることを併せ考慮すると、債務者においては、経営上、本件解雇の時点で直ちにデイケア等を閉鎖して、従事していた債権者ら従業員全員を解雇しなければならない緊急性はなかったというべきである。
2 解雇回避努力について
債権者は、かつて公立の養護学校において期限付き講師として音楽教員を務め、児童に対し音楽療法を行っていたところ、債務者から求人を受け、同学校を退職した翌日に債務者に主としてデイケアスタッフとして期間の定めがなく採用されたことが認められるのであり、そのような経緯に鑑みれば、債務者においてデイケア等を閉鎖することは債権者の解雇につながる以上、債務者において、デイケア等を閉鎖するのがやむを得ない状況になったとしても、それを理由に債権者を解雇するに当たっては、債務者において債権者らの解雇を回避する努力を尽くしたと評価できる場合でなければならないというべきである。
しかし、前記の事実に照らせば、債務者において債権者の解雇を回避するためにクリニックへの配転等を検討すべきであったにもかかわらず、デイケア等の閉鎖を表明すると同時に解雇しているのであり、債務者が解雇回避努力義務を尽くしたとは到底いい難い。
3 手続きの相当性
債務者においては、債権者ら従業員全員を直ちに解雇しなければならない緊急性はなかったというべきであるから、債権者らの解雇を避けるためにも、デイケア等の閉鎖を決定する前に、債権者ら従業員に対して十分に事情を説明した上で、同人らと十分に協議すべきであった。そうすれば、デイケア等の閉鎖の主要な理由である利用者不足の問題についても、債権者ら従業員としても、解雇を回避するため、一層利用者の勧誘等の努力を行ったであろうことは容易に推測できたのであるから、デイケア等を閉鎖する必要がなくなった可能性も否定できない。ところが債務者は、債権者ら従業員に対し、デイケア等の閉鎖を表明する前には、その必要性について何らの説明を行っておらず、デイケア等の閉鎖及び本件解雇に関し、債権者ら従業員と誠実に交渉したとは到底評価できない。
以上に述べた事情を総合考慮すれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することはできず、無効であるといわなければならず、本件申立てにおける被保全権利は一応認めることができる。
4 保全の必要性
債権者は、債務者から平成17年11月分の給与として同年12月8日に所得税を控除された24万9590円が支給されているが、それ以外に生計を同じくする配偶者から約32万円の収入があること、債権者は同居の家族の生計費等の支出が1ヶ月約52万円程度である旨の家計収支表を提出していることなどが一応認められること等を考慮すれば、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためには平成18年3月から毎月20万円の仮払の必要性を認めるのが相当である。
なお、債権者の雇用契約上の地位の保全を求める申立て、本決定時以前及び本案の第1審言渡し以降の金員の仮払いを求める部分及び前記金額を超える金員の仮払いを求める部分については、これを認めなければならない保全の必要性の疎明がない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例914号90頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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