判例データベース

S区BOP事務局長雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
S区BOP事務局長雇止事件
事件番号
東京地裁 - 平成18年(ワ)第24650号
当事者
原告 個人1名
被告 S区
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2007年10月26日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 原告は、平成14年4月1日、BOP(BaseofPlaying)=(被告子供部及び被告教育委員会が主管し、放課後における小学生の健全育成を図ることを目的として、平成7年度から実施している事業)嘱託員の事務局長に就任した者である。

 被告は、原告との1年契約を3回更新した後、平成18年2月27日、原告に対し、次の理由から、3月31日の期間満了をもって雇用終了となる旨の雇用終了予告通知書を交付し、雇用更新しない旨通告した。

(1)原告への不満、不信を理由として複数の非常勤職員が退職したこと。

(2)複数の保護者、職員らから、意見聴取なく事業計画、勤務体制を決めるなどの実態があること、子供への接し方に公平性を欠く面があること、学童クラブ父母等からの話合いの申入れ等に対し誠意ある対応が見られないこと等の不信が寄せられ、関係者との間に良好なコミュニケーション、信頼関係が図れず、管理運営上の混乱を招いていること。

(3)児童館長からの再三の申入れ、教育委員会による2度にわたる改善の指導にもかかわらず、保護者、職員との関係改善が図られていないこと。

(4)教育委員会が、児童の参加が多い月曜日は勤務するよう指導したにもかかわらず、毎週月曜日に有給休暇を取得していること。
 これに対し原告は、BOP事務局長の任用は3回更新され、期間の定めのない雇用契約に転化しているか、更新について合理的な期待を有するから、更新拒絶に当たっては解雇の法理が類推適用されるべきところ、本件には解雇事由がないから本件雇止めは無効であるとして、被告の嘱託員としての地位の確認等を求めた。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 地方公共団体の嘱託員で任用期間の定めのあるものの職に任用された者は、任用期間の満了後に再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできない。もっとも、任命権者が、当該嘱託員に対して、任用期間満了後も任用を続けることを確約ないし保障するなど、任用期間満了後も任用を継続すると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたというような特別な事情がある場合には、当該嘱託員は、そのような誤った期待を抱いたことによる損害につき国家賠償法に基づく賠償を請求することができる余地があるとされる。

 これを本件についてみるに、当初のBOP嘱託員雇用条件明示書兼承諾書には、雇用期間が「平成14年4月1日から平成15年3月31日まで」とあり、「ただし、上記期間の勤務実態を考慮の上、雇用期間を最高4回(年度を単位)まで更新することができる。」とあること、その後の3回の更新の際の書面にも雇用期間が各1年で、上記と同様の記載があることが認められるものの、これ以外に被告から更新の確約や保証を原告に対してなしたような事情は認められない。

 原告被告間の関係は公法上の任用関係であることからすると、そもそも当該勤務関係が実質的に期限の定めのない雇用関係に変化することはあり得ず、解雇権濫用法理の類推適用の余地はないものといわなければならない。また、仮に私法上の契約法理に照らしたとしても、原告と被告の契約は任用期間が1年毎のものであり、被告において更新手続きをその都度していないなど当該更新手続きが形骸化していたとか、過去3回にわたる更新で期限の定めのない契約と同様の実態になっていたなどの事情が認められるわけでもなく、次回となる4回目の更新を確約するなどの言動が被告に見られるわけでもないから、原告には4回目の更新につき更新の合理的期待が生じていたものとみることができない。その他、被告側おいて原告に対する関係で今回の契約期間満了後も契約が継続されると期待することが無理からぬものと見られる行為をしたというような特別の事情は見当たらない。
 上記のとおり、そもそも被告である地方公共団体の非常勤職員として公法上の勤務関係にあることからして、原告には任用更新の合理的期待が生じる余地はないのであるから、被告が4回目の任用更新をしなかった事情にまで立ち入って判断する必要はないものといわなければならない。したがって、原告の被告に対する請求には理由がない。
適用法規・条文
地方公務員法3条3項
収録文献(出典)
平成20年版労働判例命令要旨集64頁
その他特記事項