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社会保険事務所相談員任用不更新事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 社会保険事務所相談員任用不更新事件
- 事件番号
- 徳島地裁 - 平成18年(ワ)第437号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 国 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2008年01月11日
- 判決決定区分
- 棄却(確定)
- 事件の概要
- 原告は、昭和63年2月1日からT県に採用され、社会保険事務所において、社会保険適用事務員として勤務するようになった女性である。
原告は、同年4月1日から平成18年3月31日まで、1年間の任用更新を繰り返し、社会保険適用事務員ないし社会保険相談員として勤務を続けた。原告は、被告(任用の主体は、平成12年4月1日以降が被告)から、任用更新時において、任用期間が1年間(当初の任用は2ヶ月間)である旨明示された人事異動通知書の交付を受けた。
原告は、平成18年2月16日、社会保険事務所総務課長から、同年4月1日以降の任用更新をしない(雇止め)旨通告されたところ、雇用契約が継続していることの確認を求めて本訴を提起した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件不更新の適否及び地位確認・賃金請求の可否
社会保険相談員の任用期間は、国の会計年度に合わせて、1会計年度以内の期間とされ、再任を妨げないものとされている。
原告は、社会保険事務所に勤務していた際、一般職の国家公務員の地位にあり、非常勤職員に区分されるものであったと認められる。そして、常勤職員あるいは非常勤職員であるとを問わず、国家公務員としての勤務関係を成立させる「任用」は、国家公務員法及び人事院規則に則って行われる公法上の行為であること、国家公務員の勤務条件等については国家公務員法及び人事院規則において定められており、当事者間の合意によって任意に変更できないことなどを考慮すれば、本件勤務関係の法的性質については、私法上の雇用関係とは本質的に異なる公法上のものであることは明らかというべきである。
本件勤務関係については、その法的性質が私法上の雇用関係とは本質的に異なる公法上のものであることに照らし、そもそも解雇に関する法理を適用する余地はない。更に、人事院規則8-12(職員の任免)において、任期を定めて採用された職員についてその任期が満了した場合、その任用が更新されないときは当然退職する旨定められるとともに、関係法規中、当該職員に国に対する任用更新等の請求権を付与する旨の規定は存在しない。よって、原告については、任期を定めて採用され、平成18年4月1日以降の任用更新がなかったのであるから、同年3月31日の経過をもって退職して、当然にその地位が消滅したものというべきである。
2 期待権侵害等に基づく慰謝料請求の可否について
任用権者が、非常勤職員に対して、任用予定期間満了後も任用を続けることを確約ないし保障するなど、その期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたというような特別の事情がある場合には、職員がそのような誤った期待を抱いたことによる損害につき、国家賠償法に基づく賠償を求める余地があり得ると解するのが相当である。
原告は、採用された当時の庶務課長から、期限付きの雇用であるが、健康を害したり、自分から辞めると言わない限り、辞めてもらうことはない旨説明を受けたと供述しているところ、平成17年3月31日以前にあっては、T県内の社会保険適用事務員又は社会保険相談員の中で、業務不良を原因として任用更新を受けられなかった者が存在しなかったことなど、ある程度継続的な任用状況があったことは否定できない。しかし、上記庶務課長がそのような説明をするに至った経緯等が明らかでなく、また、少なくとも近時においては、社会保険適用事務員又は社会保険相談員に関する採用時や任用更新時の説明として、長期雇用を窺わせるような内容は含まれていないことなどからすれば、庶務課長が原告の供述通りの発言をしたものと直ちに認めることはできない。また、仮にこのような発言があったとしても、これを原告個人に対して将来にわたる長期雇用を確約する趣旨のものに理解することは困難といわざるを得ない。
なお、本件勤務関係については、(1)原告が18年間社会保険事務所で勤務し、18回に及ぶ任用更新を受けていること、(2)平成17年3月31日以前にあっては、県内の社会保険適用事務員あるいは社会保険相談員の中で、業務不良を原因として任用更新を受けられなかった者が存在しなかったこと、(3)有効期間を発行日より5年間とする身分証明書の交付を受けたことがあること、(4)初期の頃には任用更新の際に履歴書の提出を求められることもなく、その提出が求められるようになった後においても、任用更新に係る事実の記載を求められなかったこと、(5)原告は全勤務期間を通じて2回の出産休暇を取得し、いずれも期間途中の勤務復帰があったことなどの事情が認められる。
しかし、(3)ないし(5)は長期の任用を前提とするものとはいえず、原告に交付された人事異動通知書には必ず任用期間が明示されており、原告がその内容を了知しているとみられる上、社会保険適用事務員又は社会保険相談員の職務は比較的短時間の研修等により職務上必要な知識を習得することが可能であり、勤務の性質上、専門性や継続性が不可欠とはいえないのであって、結局、上記(1)ないし(5)の事情を含め、本件に現れた一切の事情を考慮しても、任用権者において、期間満了後も任用が継続すると期待することが無理からぬものとみられるような特別な事情があったとまでは認められない。したがって、原告が任用更新に対する期待を抱いていたとしても、法律上保護されるものではないというべきである。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例961号91頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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