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電信電話会社配転無効確認等請求控訴事件

事件の分類
配置転換
事件名
電信電話会社配転無効確認等請求控訴事件
事件番号
東京高裁 - 平成19年(ネ)第4448号
当事者
控訴人 個人8名 A~H
被控訴人 電信電話会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2008年08月28日
判決決定区分
一部却下・一部棄却
事件の概要
 被控訴人(第1審被告)は、東日本地域における電気通信業務を行う株式会社であり、控訴人(第1審原告)らは、電電公社に採用され、その後経営形態の変更により被控訴人に雇用されている従業員であって、いずれも電気通信産業労働組合(電通労組)の組合員である。

  被控訴人は、構造改革の一環として雇用形態の変更を行うこととし、(1)繰延型(51歳以上の社員が被控訴人を退職して子会社に再雇用され、最大65歳まで雇用される、(2)一時金型(雇用形態は(1)と同様で、被控訴人退職時に一時金を受給する)、(3)60歳満了型(被控訴人及びグループ会社で定年まで勤務し、全国転勤、業績給となる)の3形態を社員に提示して選択を求めたところ、控訴人らはいずれも選択しなかったことから、(4)を選択したものとみなし、控訴人らを首都圏に配置転換させた。

  これに対し控訴人らは、労働契約上勤務地は採用された地方局管内に限定されているところ、本件配転についてはいずれも本人の同意がないこと、本件配転命令は国際条約や法律に反すること、控訴人らへの報復として行ったもので権利濫用に当たること、控訴人らは単身赴任等により家庭生活上重大な不利益を受けること等を主張し、本件配転命令の無効確認と、控訴人ら各人につき300万円の慰謝料を請求した。
  第1審では、被控訴人の行った構造改革の一環としての雇用形態の変更には合理性が認められるとして、控訴人らの主張をいずれも理由がないとして棄却したことから、控訴人らがこれを不服として控訴したものである。
主文
1 原判決中、控訴人Fに関する部分を次のとおり変更する。

(1) 同控訴人の確認請求に係る訴えを却下する。

(2) 同控訴人のその余の請求を棄却する。

(3) 同控訴人に関する訴訟費用は、第1、2審とも同控訴人の負担とする。

2 控訴人Fを除くその余の控訴人らの控訴を棄却する。
3 前項に係る控訴費用は前項の控訴人らの負担とする。
判決要旨
 およそ職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。そこで、職業生活の場においては、個人の人格的価値の尊重が要請されるが、他方、その要請には、今日の職業活動が有機的連帯によって成り立つ社会の下では社会的相互関連性からの制約が内在的に存在するというべきであり、労働契約、就業規則、労働協約によって人事権に関する事項を定めるならば、尚更それらにつき自由な意思による制約が認められるのは当然であって、そこにおいて個人の人格的価値の尊重の要請とのバランスが図られるのである。被控訴人と控訴人らとの間の労働契約には勤務場所や職種を限定する旨の合意は認められないところ、被控訴人らは業務上必要があるときに控訴人の個別的合意なしに勤務場所を決定し、これに配置換えを命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである。もっとも、配置換え特に転居を伴う転勤には、一般に労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないので、被控訴人の転勤命令権を無制約に行使することができるのではない。具体的には、本件命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは控訴人らに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど特段の事情の存する場合には、被控訴人の転勤命令権が濫用になるというべきである。そして業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働者の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる点が認められる限りは、業務上の必要性を肯定すべきであり、また、上記業務上の必要性の判断において何が企業の合理的運営に寄与するかは、「労働力配置の効率化及び企業運営の円滑化等の見地からやむを得ない措置」といえるか否かによるものといわざるを得ない。

  これを本件についてみるに、被控訴人を取り巻く経営環境の変化と収益低下の中では、本件改革の実施はやむを得ないというべきであり、しかも、本件改革は、社員の圧倒的多数から組織されるMTT労組がその実施を承諾し、かつ控訴人ら以外の圧倒的多数の中高年齢層の社員が賃金の少なからぬ減額をもたらす退職・再雇用型を選択してOS子会社に転籍し、賃金減額の不利益を甘受していたのに、満了型を選択して被控訴人に留まった控訴人らを地元のOS子会社に出向させるというのでは、不公平感を醸成しかねないものであった。そして、そもそも上記のような被控訴人の経営環境の変化自体が被控訴人において制御不可能な事情であった上、その変化は好転を望めない構造的なものであった。

  以上のほかに、控訴人らは合理的な人選基準に依拠して人選されたことなどの事情に鑑みれば、本件命令はやむを得ない措置であったというべきである。結局、本件命令には業務上の必要性が優に存したものということができ、他の不当な動機・目的をもってされたものと評することはできず、また、控訴人らに与える不利益は通常甘受すべき程度の転勤に伴う不利益に留まるというべきであるから、本件命令は職務命令権の濫用に当たらないと解するのが相当である。

 控訴人らは、本件改革の必要性はNTTグループ連結決算を基準にしなければならないとか、被控訴人自身も巨額の内部留保をしているから、本件命令には業務上の必要性がなかったと主張するが、被控訴人がNTTグループの一員であるからといって、その経営は自らの責任で行うことを当然のこととすることに鑑みれば、本件改革の必要性はNTTグループの連結決算を基準としなければならないという控訴人らの主張自体失当である。そして、平成11年度に比し平成12年度及び平成13年度において経常利益が激減し業績に翳りが出てきたのであるから、本件命令には業務上の必要性がなかったとの控訴人らの主張は短絡的思考にすぎ、失当である。

  また、控訴人らは、本件命令が退職・再雇用選択を強制する手段として実施されたなど不当な動機・目的をもってされたと主張するが、控訴人らは自主的判断で雇用形態等の選択をし、被控訴人との従来の雇用関係が継続したものであるから、そこに強制手段があったとは認められない。また、控訴人らは当審において控訴人各自に個別の不利益を主張するが、いずれも基本的に原審以来の繰り返し主張に当たるから、既に判断説示したとおりであって、中には単身赴任や遠隔地異動の者がいるが、それも一般的に生じ得る範囲の不利益に留まるというべきである。
  控訴人Fは、平成19年3月31日をもって定年退職したから、同人が求める労働義務がないことの確認を求める部分は訴えの利益を欠くものであり、不適法な訴えというべきであるから、同部分に係る原判決はこれを取り消して同部分に係る訴えを却下すべきである。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報2014号10頁
その他特記事項