判例データベース
電信電話会社北海道支店心筋虚血死上告事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 電信電話会社北海道支店心筋虚血死上告事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 当事者
- 上告人 東日本電信電話株式会社
被上告人 個人2名 A、B - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2008年03月27日
- 判決決定区分
- 原判決破棄(控訴認容)差戻し
- 事件の概要
- K(昭和18年生)は、上告人(第1審被告、第2審控訴人)の構造改革の一環としての勤務形態、処遇体系の選択に当たって、((1)繰延型(被告を退職の上新会社に採用し、賃金を15~30%低下させて65歳まで雇用継続可能)、(2)一時金型(雇用形態は(1)と同じで、被告退職時に一時金支給)、(3)60歳満了型(被告で継続雇用し、全国転勤・業績主義徹底)のいずれかを選択させたところ、Kは(3)を選択した。そこで、上告人はKを法人部門に異動させ、平成14年4月から6月まで、2ヶ月余に及ぶ宿泊研修を受講させた。
Kは札幌での研修中、休日に旭川の自宅に帰ったところ、同年6月9日、先祖の墓の前で死亡しているのが発見された。Kの妻である被上告人(第1審原告、第2審被控訴人)A及びKの子である同Bは、Kは心臓に基礎疾患を有しているところ、平成13年以降時間外労働が顕著になり、雇用形態・処遇体系の選択で精神的負荷が過大になった上、長期にわたる本件研修に参加したことによって急性心筋虚血症を発症して死亡したのであるから、Kの死亡と業務との間には因果関係があり、上告人には安全配慮義務違反ないし使用者としての不法行為があったとして、上告人に対し、逸失利益、慰謝料等総額7175万円を請求した。
第1審では、被告(上告人)の不法行為責任を認め、被告に対し総額6628万円の支払いを認めたことから、被告はこれを不服として控訴したが、第2審においても控訴が棄却されたことから、控訴人(上告人)がこれを不服として上告したものである。 - 主文
- 原判決を破棄する。
本件を札幌高等裁判所に差し戻す。 - 判決要旨
- 第1審判決は、上告人の不法行為責任を認め、被上告人らの請求を認容したが、過失相殺については何ら言及しなかった。
上告人は、控訴理由を記載した準備書面において、Kが家族性高コレステロール血症に罹患していたことを指摘し、また予備的主張として、Kが陳旧性心筋梗塞の合併症を有する家族性高コレステロール血症に罹患していたことなどから、過失相殺に関する規定を類推適用して上告人が賠償すべき金額を減額すべきである旨主張した。
原審は、(1)上告人は第1審において過失相殺を主張しない旨釈明しているところ、控訴審において過失相殺に関する規定の類推適用を主張することは、訴訟上の信義に反するものとして許されない、(2)経緯に照らすと、本件において、上告人の主張がないのに過失相殺に関する規定を類推適用することは相当でないと判断し、上告人の不法行為を理由とする被上告人らに対する損害賠償の額を定めるに当たり過失相殺に関する規定の類推適用をしなかった。しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
(1)被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度等に照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができる。このことは、労災事故による損害賠償請求の場合においても、基本的に同様であると解される。また、同項の規定による過失相殺については、賠償義務者から過失相殺の主張がなくとも、裁判所は訴訟に現れた資料に基づき被害者に過失があると認めるべき場合には、損害賠償の額を定めるに当たり、職権をもってこれを斟酌することができる。このことは、同項の規定を類推適用する場合においても、別異に解すべき理由はない。
(2)Kが急性心筋虚血により死亡するに至ったことについては、業務上の過重負荷とKが有していた基礎疾患とが共に原因となったものということができるところ、家族性高コレステロール血症に罹患し、冠状動脈の2枝に障害があり、陳旧性心筋梗塞の合併症を有していたというKの基礎疾患の態様、程度、本件における不法行為の態様等に照らせば、上告人にKの死亡による損害の全部を賠償させることは、公平を失するものといわざるを得ない。
原審は、上告人が原審において過失相殺に関する規定の類推適用を主張することは訴訟上の信義則に反し許されないというのであるが、そもそも裁判所が過失相殺の規定を類推提供するには賠償義務者の主張を要しないことは前述のとおりであり、この点を措くとしても、本件訴訟の経過を鑑みれば、第1審の段階では上告人においてKが家族性高コレステロール血症に罹患していた事実を認識していなかったことが窺われるのであって、上告人の上記主張が訴訟上の信義則に反するものということもできない。
そうすると、上告人の不法行為を理由とする被上告人らに対する損害賠償の額を定めるに当たり過失相殺に関する規定(民法722条2項)の類推適用をしなかった原審の判断には、過失相殺に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。
以上のとおり、原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れない。 - 適用法規・条文
- 民法709条、722条2項
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
- 本件は札幌高裁へ差し戻された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
札幌地裁 - 平成15年(ワ)第282号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2005年03月09日 |
札幌高裁 − 平成17年(ネ)第135号 | 控訴棄却(上告) | 2006年07月20日 |
未入力 | 原判決破棄(控訴認容)差戻し | 2008年03月27日 |
平成20年(ネ)第113号 | 原判決変更(一部認容・一部棄却) | 2009年01月30日 |
札幌地裁 - 平成20年(行ウ)第18号 | 認容(控訴) | 2009年11月12日 |
札幌高裁 − 平成21年(行コ)第20号 | 控訴棄却(確定) | -0001年11月30日 |