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地公災基金岡山県支部長(K市職員)心筋梗塞死事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金岡山県支部長(K市職員)心筋梗塞死事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 岡山地裁
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金岡山県支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1988年12月21日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- M(昭和24年生)は、昭和43年4月K市職員として採用され、昭和54年5月、市民局福祉部K社会福祉事務所福祉課勤務となり、生活保護ケースワーカーとして勤務していたが、担当地区には処遇困難なケースが多かった。Mの勤務時間は午前8時30分から午後5時までで、死亡前3ヶ月間における時間外労働の実績はなく、右期間における被保護世帯の実態調査等のための出張時間数は、昭和59年3月は29時間40分(日数11日)、同年4月は25時間(8日)、同年5月は41時間10分(14日)であった。
Mは、同年6月6日、午後5時まで庁内で通常勤務した後、一旦帰宅した後、ソフトボール大会に参加するために自宅を出た。午後6時10分に本件ソフトボール競技が開始され、Mは6番打者・捕手として出場し、第4打席で初めて一塁に出塁し、次打者の二塁ゴロで二塁に進み、次々打者の三塁ゴロ悪送球の間に二塁から一気に生還した。本件ソフトボール競技は午後7時5分頃終了したが、その後ベンチで腹部を押さえ顔面蒼白となり、同僚に気分が悪い旨訴えたので、同僚はMをベンチに寝かせたが、Mが再び唸りだしたことから、自家用車で病院に搬送した。Mは病院に着く頃には意識を回復し、一人で自動車から降りたが、医師が診察を開始した頃に前身痙攣を起こしたことから、同医師が心肺蘇生術、酸素吸入等を実施したところ、一時意識を回復したものの、午後8時40分に急性心筋梗塞で死亡した。
Mの妻である原告は、Mが精神的負担の大きい生活保護受給等の業務についており、その中でも特に困難な地域を担当したことから精神的負担の蓄積があったことに加え、日頃運動をしたことがなかったにもかかわらず、公務として行われた本件ソフトボール競技において突然過度に運動量を増大させたことが原因となって死亡したものであるから、公務災害に当たるとして、被告に対し地方公務員災害補償法45条による認定請求をしたところ、被告はMの死亡を公務外災害と認定する処分(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- Mについては、男性であること、高血圧(152mmhg〜94mmhg)、喫煙(1日15ないし20本程度)、ストレス(日常の業務による精神的負担)などが心筋梗塞の発生促進要素となり得るが、これらが素因となるほどのものといえるか不明である。
Mが本件ソフトボール競技の7回の守備に付き、同僚から「おめでとう」といわれたにもかかわらず返事をしなかった時点で心筋梗塞の発作又は前駆症状が開始していた可能性があり、同人が競技終了後ベンチで苦しみ始め、手をひきつり始めた時点で第1回目の発作によりショック状態に陥ったと考えられる。Mの2枚の心電図を見ると、心筋虚血又は心筋傷害が疑われるが、詳細な診断を下すことは困難であり、また発症から死亡に至るまでの時間が短かったため、有効な検査は実施されておらず、死後の病理解剖も実施されていないので、心筋梗塞部位、その原因等を確定診断することは極めて困難である。
右認定判断によれば、本件ソフトボール競技に出場したことによる負荷が、単独で又は日常の業務による精神的負担と協働してMにその死因である心筋梗塞を生じさせた可能性がないとはいえないものの、右負荷がなければMは死亡しなかったということすらできないのであって、右負荷が単独で又は日常の業務による精神的負担と協働して右心筋梗塞を生じさせたと認めるには至らないというべきである。
そうすると、Mの死亡と公務との間に相当因果関係があるということはできないので、Mの死亡が公務に起因するものということはできない。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法31条、45条
- 収録文献(出典)
- 労働判例574号58頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
岡山地裁− | 棄却 | 1988年12月21日 |
広島高裁 − 平成元年(行コ)第1号 | 原判決取消(控訴認容) | 1990年10月16日 |
最高裁 − 平成3年(行ツ)第31号 | 上告棄却 | 1994年05月16日 |