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地公災基金鹿児島県支部長(U町教委職員)心筋梗塞死控訴事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
地公災基金鹿児島県支部長(U町教委職員)心筋梗塞死控訴事件【過労死・疾病】
事件番号
福岡高裁宮崎支部 − 平成12年(行コ)第8号
当事者
控訴人地方公務員災害補償基金鹿児島県支部長

被控訴人個人1名
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年01月25日
判決決定区分
原判決取消(控訴認容)(上告)
事件の概要
U町教委職員であるK(昭和20年生)は、陳旧性心筋梗塞の基礎疾患を有していたところ、平成2年5月12日の親睦バレーボール大会の試合に参加し、急性心筋梗塞により死亡した。

 Kの長男である被控訴人(第1審原告)は、Kの死亡は公務に起因するものであるとして、控訴人(第1審被告)に対し、公務上災害の認定を求めたが、控訴人はこれを公務外と認定した(本件処分)。そこで、被控訴人は、本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて提訴した。
 第1審では、Kは重篤な陳旧性心筋梗塞の基礎疾患を有してはいたものの、直ちに死亡に至るまでの可能性があったとはいえず、Kの死亡と本件バレーボール試合への参加との間には相当因果関係が認められるとして、本件処分の取消しを命じたことから、控訴人はこれを不服として控訴した。
主文
1 原判決を取り消す。

2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
判決要旨
地公災法31条、42条に定める職員が「公務上死亡」した場合とは、職員が公務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいい、当該負傷又は疾病と公務との間には相当因果関係のあることが必要であり、かつこれをもって足りるというべきであるが、上記相当因果関係は、災害発生時点から過去に遡り客観的災害を発生させる原因となり得た無数の条件関係を有する原因の内、その原因の一つである公務のみに危険責任を負わせて全損害を填補をさせるのが相当かどうかの客観的判断基準であるから、業務が唯一の原因である必要はないとしても、その他の原因との関係で相対的に有力な原因であることが必要であると解すべきである。したがって、単に業務が当該疾病発症の誘因ないしきっかけに過ぎないと認められる場合は、業務起因性は認められないと解すべきである。

 そして、本件のように、基礎疾患を有する公務員がこれを増悪させて死亡した場合には、公務の遂行に伴う高度の精神的・肉体的負荷により、病変である基礎疾患を医学的経験則上の自然的経過を超えて急激に増悪させ死亡の時期を早めたと認められる場合には、公務の遂行を相対的に有力な原因と見て、当該死亡は「公務上の死亡」に当たると解するのが相当である。

 Kは、本件バレーボールに従事した当時は、冠動脈の三枝に病変(ただしバイパス手術により一枝開存しているので、二枝病変相当)が存在し、左心室収縮が著しく低下している上、多源性心室性期外収縮の発症の可能性が高いと見られることから、昭和59年6月当時と比較して心臓機能が非常に悪化していた。その上、総コレステロール値が急激に上昇しており、プラーク破裂による心筋梗塞の発症の可能性が高い状態であったことから、心筋梗塞の発症による死亡の可能性が高い状態であった。各医師とも、Kが通常の日常生活を送る過程においても、心筋梗塞が起こるなどして突然死することはあり得たとするところであり、Kの心疾患が重症であったと見ている。

 そして、Kが本件バレーボールに従事することによる運動負荷として血圧が急激に上昇したことが認められるものの、血圧の上昇は心筋梗塞の発症の主たる引き金因子とは認められないもので、むしろ左心室収縮機能の著しい低下及び総コレステロール値の急激な上昇こそが主たる要因であると認めるべきである。そうすると、Kの本件バレーボールへの参加は心筋梗塞の発症との関係では、過重な負荷、すなわち、死亡との関係での相対的に有力な原因であるということはできないというべきである。本件心筋梗塞の発症は、Kの心臓機能の著しい低下と総コレステロール値の急激な上昇といった自然的経過の中で、たまたま本件バレーボール参加が契機となって生じたものということができる。
 よって、Kの本件死亡と本件バレーボールへの参加との間には相当因果関係すなわち公務起因性を認めることはできない。
適用法規・条文
地方公務員災害補償法31条、42条
収録文献(出典)
労働判例919号10頁
その他特記事項
本件は上告された。