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地公災基金鹿児島県支部長(U教委職員)心筋梗塞死上告事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
地公災基金鹿児島県支部長(U教委職員)心筋梗塞死上告事件【過労死・疾病】
事件番号
最高裁 - 平成14年(行ヒ)第96号
当事者
原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金鹿児島県支部長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2006年03月03日
判決決定区分
破棄・差戻し
事件の概要
U町教委職員であるK(昭和20年生)は、陳旧性心筋梗塞の基礎疾患を有しているところ、平成2年5月12日の親睦バレーボール大会の試合に出場し、急性心筋梗塞により死亡した。

 Kの長男である上告人(第1審原告・第2審被控訴人)は、Kの死亡は公務に起因するものであるとして、被上告人(第1審被告・第2審控訴人)に対し、公務災害の認定を求めたが、被上告人は、これを公務外と認定する処分(本件処分)を行った。上告人は、本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたことから、本件処分の取消しを求めて提訴した。
 第1審では、Kの死亡と公務との間に相当因果関係を認め、本件処分の取消しを命じたが、第2審ではKの死亡と本件バレーボール試合への参加との間の相当因果関係を否定し、本件処分を適法と認めたことから、上告人はこれを不服として上告した。
主文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
判決要旨
原審の認定判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

 (1)Kは、昭和59年9月に復職した後、力仕事に従事することは極力避けるようにしていたものの、その余の職務には通常どおり従事しており、その勤務状況は良好であって、病気により休暇を取得することはなかった、(2)昭和62年6月に行われたマスターダブル運動負荷テストの結果、Kには狭心症状等は認められず、日常生活、事務労働、車の運転等の中程度の労働まで許容できるとされた、(3)Kは、平成元年11月に行われたソフトボール大会に参加した際、代打として出場し、ホームランを打って走塁した後1塁の守備についたことがあった、昭和59年6月に退院した後にKが狭心症状等を起こした旨の記録は存在しない、これらの事実に照らすと、本件においては、Kの心臓疾患は、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋梗塞を発症させる寸前にまでは増悪していなかったと認める余地があるというべきである。原審は、平成2年5月当時のKの心臓機能が昭和59年6月と比較して非常に悪化していた上、Kの血清1dl当たりの総コレステロール値が平成元年11月には255mgまで急激に上昇していたことから、Kはプラーク破裂により心筋梗塞を発症する可能性が高い状態にあったとするが、Kの総コレステロール値は同2年3月には203mgであったことが窺われるところであるし、Kの死亡前の勤務状況等に照らせば、上記各事実のみから直ちにKが上記状態にあったと認定することはできないといわなければならない。

そして、9人制バレーボールの全試合時間を通じた平均的な運動強度は通常歩行と同程度のものであるが、スパイク等の運動強度はその数倍に達するのであって、その一時的な運動強度は相当高いものであるというのであるから、他に心筋梗塞の確たる発症因子のあったことが窺われない本件においては、バレーボールの試合に出場したことによる身体的負荷は、Kの心臓疾患をその自然の経過を超えて増悪させる要因となり得たものというべきである。そうすると、Kの心臓疾患が、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋梗塞を発症させる寸前までは増悪していなかったと認められる場合には、Kはバレーボールの試合に出場したことにより心臓疾患をその自然の経過を超えて増悪させ心筋梗塞を発症させて死亡したものとみるのが相当であって、Kの死亡の原因となった心筋梗塞の発症とバレーボールの試合に出場したこととの間に相当因果関係の存在を肯定することができることになるのである。
 以上によれば、Kの心臓疾患が、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋梗塞を発症させる寸前までには増悪していなかったかどうかについて十分に審理することなく、Kの死亡とバレーボールの試合に出場したこととの間に相当因果関係があるということはできないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れない。そこで、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
適用法規・条文
地方公務員災害補償法31条、42条
収録文献(出典)
労働判例919号5頁
その他特記事項
本件は高裁に差し戻された。