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地公災基金鹿児島県支部長(U教委職員)心筋梗塞死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金鹿児島県支部長(U教委職員)心筋梗塞死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 福岡高裁 - 平成18年(行コ)第10号
- 当事者
- 控訴人 地方公務員災害補償基金鹿児島県支部長
被控訴人 個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2007年12月26日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(確定)
- 事件の概要
- U町教委の職員であるKは、陳旧性心筋梗塞の基礎疾患を有しているところ、平成2年5月12日に行われたバレーボール大会の試合に出場し、急性心筋梗塞により死亡した。
Kの長男である被控訴人(第1審原告)は、Kの死亡は公務に起因するものであるとして、控訴人(第1審被告)に対し、公務災害の認定を求めたが、控訴人は、これを公務外と認定する処分(本件処分)を行った。被控訴人は、本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたことから、本件処分の取消しを求めて提訴した。
第1審では、Kの死亡と公務との間に相当因果関係を認め、本件処分の取消しを命じたが、第2審ではKの死亡と本件バレーボールへの参加との間の相当因果関係を否定し、本件処分を適法と認めたことから、上告人はこれを不服として上告した。上告審では、Kの心臓疾患が自然の経過により心筋梗塞を発症する寸前までには増悪していなかったかどうかについて、十分な審理が尽くされていないとして、原審である福岡高裁に差し戻された。 - 主文
- 本件控訴を棄却する。
控訴費用(差戻前控訴審及び上告審の費用を含む。)は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- Kの心臓病変は、昭和61年8月21日時点で、冠動脈の3枝のうち右冠動脈と左回旋枝が閉塞し、左室駆出率が25%と低下していたため、突然死の危険性が高いものではあったが、冠動脈のうち灌流域の最も大きい左前下行枝は閉塞することなく血流が保たれていた上、右冠動脈1番〜3番、右冠動脈末梢〜右回旋枝及び左前下行枝〜左回旋枝抹消の側副血行が形成されていたため、左前下行枝の灌流域の心筋虚血や心筋の壊死が抑制されていたこと、そのためKは、昭和59年9月に職場復帰して以降、狭心症、心不全あるいは心筋梗塞の再発を起こすこともないまま、順調に公務を遂行し、昭和62年6月のマスターダブル運動負荷テストの結果も陰性で、平成元年11月のソフトボール大会にも参加走塁するなどしており、日常生活上何ら支障も心筋梗塞等の徴候も見られなかったものであって、平成2年5月12日の時点において、Kの心臓疾患が確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋梗塞を発症させる寸前までには増悪していなかったことが認められ、本件バレーボール試合への参加により、Kの心臓に過重な負荷がかかり、これが直接的契機となって、心筋梗塞若しくは不整脈を起こし、突然死するに至ったものと認められる。
控訴人は、(1)Kの心臓病変は、昭和61年8月21日時点で破綻間近の状態であり、その後本件災害時までの間に徐々に左室機能は低下し続けていたことから、本件災害時においては、心機能が破綻を生じる寸前の状態であったこと、(2)この間にKが心不全等の症状を発症していないからといって、心機能の低下が生じていないと認めることはできないこと、Kの冠動脈硬化病変が進行していたことは、LDIコレステロール値が高いまま推移していることからも裏付けられること等を指摘する。
しかし、(1)(2)については、昭和61年8月21日時点でも、冠動脈のうち灌流域の最も大きい左前下行枝は閉塞することなく血流が保たれていた上、側副血行による血流も存在しており、同日から本件災害時までKに心不全の徴候が見られず、公務や日常生活に支障を来すことがなかったことに照らすと、この間に心機能が低下していた可能性は否定できないにしても、本件災害当時、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋梗塞を発症させる寸前にまで増悪していたとは認められない。また、(3)についても、高脂血症は心筋梗塞の危険因子ではあるが、心筋梗塞発症の可能性という見地からすれば、治療目標値である100の場合に約10%で、180の場合に約20%に上昇するというに留まるものであり(冠動脈疾患を有する者の場合)、本件災害時の1年前の平均値が約150であったことを併せ考えると、本件災害当時、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋梗塞を発症させる寸前にまで増悪していたことの根拠とはなし難い。
更に、P医師及びQ医師の所見は、Kの心臓病変の重大性を強調し、本件バレーボール試合への参加がなくても、同人が心筋梗塞を発症した可能性があると述べる一方で、本件バレーボール試合が心筋梗塞発症の誘因ないし引き金になったことは認め、Q医師の所見は、本件バレーボール試合に参加することがなければKの長期生存もあり得たことを否定していない。
以上によれば、P医師及びQ医師の所見は、本件災害の原因として、Kの心臓病変が本件バレーボールへの参加に比して相対的に有力な原因であることの根拠とはなり得ても、上告審判示を左右する証拠とは認められないから、本件災害当時、Kの心臓疾患は確たる発症因子がなくてもその自然の経過により新規梗塞を発症させる寸前にまでは増悪していなかったとの立証がなされたものと判断するのが相当である。そうすると、Kの死亡と本件バレーボール試合に出場したこととの間には相当因果関係あると認められるから、Kの死亡は、地公災法31条、42条に定める「公務上の死亡」した場合に当たるものであり、これを公務外と認定した本件処分は違法である。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法31条、42条
- 収録文献(出典)
- 労働判例966号78頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
鹿児島地裁 − 平成9年(行ウ)第12号 | 認容(控訴) | 2000年04月21日 |
福岡高裁宮崎支部 − 平成12年(行コ)第8号 | 原判決取消(控訴認容)(上告) | 2002年01月25日 |
最高裁 - 平成14年(行ヒ)第96号 | 破棄・差戻し | 2006年03月03日 |
福岡高裁 - 平成18年(行コ)第10号 | 控訴棄却(確定) | 2007年12月26日 |