判例データベース
保険会社メール名誉毀損控訴事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 保険会社メール名誉毀損控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成16年(ネ)第6245号
- 当事者
- 控訴人個人1名
被控訴人個人1名 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年04月20日
- 判決決定区分
- 原判決変更(一部認容・一部棄却)
- 事件の概要
- 控訴人(第1審原告)は、A社中央サービスセンター(SC)に勤務するエリア総合職の課長代理であり、被控訴人(第1審被告)は、同センターの所長である。
平成14年12月18日、被控訴人は、控訴人が所属するユニットリーダーであるDの控訴人を批判するメールを受けて、控訴人を含む職場の従業員十数名に対し、控訴人の実績が上がらないこと、控訴人の給料で業務職を何人も雇えること、業務職でも控訴人より実績を上げていることなどを記載したメール(本件メール)を送信した。これに対し控訴人は、本件メールは控訴人の名誉を毀損するパワーハラスメントとして不法行為に当たると主張し、被控訴人に対し慰謝料100万円を請求した。
第1審では、本件メールは控訴人に対する業務指導の範囲を逸脱していないとして請求を棄却したことから、控訴人はこれを不服として控訴した。 - 主文
- 1 原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人は、控訴人に対し、金5万円及びこれに対する平成15年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを20分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 本件メールの内容は、職場の上司である被控訴人がエリア総合職で課長代理の地位にある控訴人に対し、その地位に見合った処理件数に到達するよう叱咤督促する趣旨であることが窺えないわけではなく、その目的は是認できる。しかしながら、本件メールの中には、退職勧告とも、会社にとって不必要な人間であるとも受け取られるおそれのある表現が盛り込まれており、これが控訴人のみならず同じ職場の従業員十数名にも送信されている。この表現は、それ自体は正鵠を得ている面がないではないにしても、人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分とも相まって、控訴人の名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかであり、上記送信目的が正当であったとしても、その表現において許容限度を超え、著しく相当性を欠くものであって、控訴人に対する不法行為を構成するというべきである。
被控訴人は、「本件メールの内容は、課長代理職にふさわしい自覚、責任感を持たせるべく指導・叱咤激励したものであり、控訴人を無能で会社に必要のない人間であるかのように表現したものではない」旨主張するけれども、本件メールの文章部分は、前後の文脈等と合わせて閲読しても、退職勧告とも、会社にとって不必要な人間であるとも受け取られかねない表現形式であることは明らかであり、赤文字でポイントも大きく記載するということも併せ鑑みると、指導・叱咤激励の表現として許容される限度を逸脱したものと評せざるを得ない。
控訴人は、本件メールはいわゆるパワーハラスメントとして違法である旨主張するが、本件メールがその表現方法において不適切であり、控訴人の名誉を毀損するものであったとしても、その目的は、控訴人の地位に見合った処理件数に到達するよう控訴人を叱咤督促する趣旨であったことが窺え、その目的は是認できるのであって、被控訴人にパワーハラスメントの意図があったとまでは認められない。
本件メール送信の目的、表現方法、送信範囲等を総合すると、被控訴人の本件不法行為(名誉毀損行為)による控訴人の精神的苦痛を慰謝するための金額としては、5万円をもってすることが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例914号82頁
- その他特記事項
- 本件は上告されたが、不受理となった(2005年9月20日決定)
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成15年(ワ)第28020号 | 棄却(控訴) | 2004年12月01日 |
東京高裁−平成16年(ネ)第6245号 | 原判決変更(一部認容・一部棄却) | 2005年04月20日 |