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平塚労基署長(H社)事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 平塚労基署長(H社)事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成12年(行コ)第274号
- 当事者
- 控訴人 平塚労働基準監督署長
被控訴人 個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年12月20日
- 判決決定区分
- 控訴棄却
- 事件の概要
- 被控訴人は新聞・雑誌の委託販売などを業とするH社に勤務し、平成元年1月当時、H社相模原営業所で勤務していたところ、出勤日数が24日なのに対し、早出及び残業時間数が計24時間、朝刊業務回数が13回(65時間)、2月は出勤回数が20日、早出・残業時間数が計29時間、朝刊業務回数は10日(50時間)、3月は出勤回数25日、早出残業時間数が44.5時間、朝刊業務回数は12日(60時間)であった。
被控訴人は、相模原営業所在勤中、営業所からやく0分の距離に居住していたが、平塚営業所に異動してからは電車・バスの乗継ぎで1時間30分、自動車でも約1時間を要したため、翌日朝刊業務を控えた場合には仮眠室で宿泊することとし、同年4月17日から6日間連続で朝刊業務に従事していた間はほとんど帰宅しなかった。また、被控訴人は、平塚営業所では、集金業務を指示され、所長らとともに新聞店・販売店を訪ねて回った。
被控訴人は、昭和62年2月の定期健診の結果、不整脈の疑いが指摘されたが、再検査を受けなかった。
同月28日、被控訴人は朝から勤務した後、夕方体調の悪さを我慢して集金に回り、午後8時頃帰宅したが、食事中に突然意識を失い、搬送先の病院において、「WPW症候群に伴う発作性上室性頻脈症から心室細動・心停止への移行、無酸素症」と診断されて入院、治療を受けた。
被控訴人は、この疾病が業務に起因するものであるとして、控訴人(第1審被告)に対し休業補償給付等の支給を請求したが、控訴人は平成6年4月30日付けで不支給決定した。被控訴人はこの決定の取消しを求めて提訴したところ、第1審では被控訴人の疾病を業務に起因するものと認め、控訴人の処分を取り消したことから、控訴人がこれを不服として控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- H社では夜間(朝刊)勤務と昼間勤務との交替制をとらず、昼間勤務を前提として1週間に2回程度夜間勤務を行うという勤務体制を採っていたのであり、しかも朝刊業務は、自ら自動車を運転して目的地に到達した上、60kg程度を運搬して階段を昇降するなどの内容であり、被控訴人は、平成元年4月8日以降の21日間については、19日間勤務し、同年1月から3月までの間の勤務日数69日に比べ、格段に密になっていたということができる。また被控訴人は、同月8日から13日まで相模原営業所での昼間の通常業務をこなしながら平塚営業所開設準備のため両営業所を往復するという変則業務に従事し、しかもこの間超過業務に4回従事し、通常の運搬物に加えて雑誌約600kgを配送した。更に被控訴人は、同月14日に平塚営業所に異動後、アルバイトを雇用出来ない等のため相模原営業所時代に比して急増した仕事量を負担した。このような状況から、被控訴人は、上記集中的な朝刊業務への従事を終えた頃には、過度に疲労が蓄積した状況にあったと推認することができる。
被控訴人は、同月21日から所長とともに挨拶回り及び集金業務を開始したが、これらの業務は、それまで被控訴人が従事してきた仕分け、運搬を中心とする肉体的作業とは異質であり、被控訴人にとっては精神的疲労を伴う内容ということができる。
被控訴人は、WPW症候群という基礎疾患を有していたものの、顕性WPW症候群ではなかったため、自然的経過によっては生命に影響する程度の発作を発生する可能性はほとんどなかったところ、平成元年4月22日までの集中的な深夜労働を伴う過重な業務が継続したことによる極度の肉体的疲労及び新設営業所への異動等精神的疲労による強いストレスを受けたことにより、それまで重篤な発作を発症したことはなかったにもかかわらず、同日以降においては、上室性頻拍又は発作性心房細動を少なくとも2回にわたり発症し、この影響も加わって、本件疾病の契機となる発作性心房細動を発症するとともに、上記ストレスのため、心房細動発症後直ちに本件心室細動を発症することとなり、その後、心停止、無酸素脳症に至ったと認めるのが相当である。
このような本件疾病発症の経緯によれば、本件疾病は、被控訴人の基礎疾患であるWPW症候群が関与しているものの、上記過重業務等によるストレスによって、被控訴人の上記基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、発症に至ったとみるのが相当であって、本件疾病と被控訴人の業務との間に相当因果関係の存在を肯定することができるというべきである。
以上によれば、本件疾病は、労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号にいう「業務に起因することの明らかな疾病」に該当すると認められるから、業務起因性が認められないとした本件処分は取消しを免れない。 - 適用法規・条文
- 労働基準法75条、労災保険法12条
- 収録文献(出典)
- 労働判例838号77頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
横浜地裁 − 平成9年(行ウ)第26号 | 認容(控訴) | 2000年08月31日 |
東京高裁 − 平成12年(行コ)第274号 | 控訴棄却 | 2001年12月20日 |