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日本郵便逓送臨時社員雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 日本郵便逓送臨時社員雇止事件
- 事件番号
- 京都地裁 - 平成11年(ワ)第1582号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年08月07日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、郵便物並びに逓信事業に関連する物品の運送事業を主たる目的とする株式会社であり、原告は、被告との間で、平成5年6月3日、契約期間を同日から同年7月10日まで、職種を大型運転手とする労働契約を締結し、平成7年11月30日までは2ヶ月毎に、同年12月1日からは3ヶ月毎に雇用契約を更新してきた者である。
原告は、平成10年2月7日、自家用車で通勤途中、自動車との衝突事故(本件事故)に遭って、左膝半月板損傷の傷害を負い、同日から欠勤した。
被告の期間臨時社員就業規則には、労働の期間は3ヶ月、延長できる期間限度は3年間とする旨の規定の外、「私事のため欠勤中の者は契約を更新しない」、「契約満了時現在、私傷病の療養のため1ヶ月以上欠勤中の者については、契約を更新しない」と定め、労働契約解除事由として、私傷病期間が引き続き2ヶ月に達したとき、技量が著しく低下し業務遂行上支障があるとき、採用等にあたり虚偽の申告をしたとき、職場規律を乱したとき、会社の承諾を得ないで兼職したときを定めている。
被告は、原告が、(1)本件事故の後遺症のため、業務遂行に支障を来したこと、(2)会社に無届けで兼職・兼業をしたこと、(3)通勤経路について虚偽の申告をしたことを挙げ、また3ヶ月の期間満了、私事のための欠勤、私傷によって休業したとして、原告を雇止めにした。
これに対し原告は、本件雇止めは無効であるとして、被告に対し、雇用契約上の地位を有することの確認と、平成10年2月から平成11年4月分までの未払賃金の一部及び同年6月からの毎月の賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 判決要旨
- 原告と同じ運転業務に従事する期間臨時社員のうち、3ヶ月又は3年の期間満了を理由に、定年の65歳に達するまでに本人の意思に反して雇止めになった例はなく、被告京都支店における期間臨時社員の勤続期間は、最長クラスで約10年である。運転業務に従事していた期間臨時社員15名のうち原告を除く14名は、就業規則施行後の最初の契約日である平成7年9月11日から3年を経過した平成10年9月11日以降も、引き続き従前通り再契約されている。運転業務に従事する期間臨時社員についても有給休暇があり、初年度は10日で、以後毎年2日増加し、3年の契約期間が経過した後も、契約が更新される限り、日数が10日に戻ることはない。賞与については、期間1年まで、同3年及び同5年までの3段階に分けて支給されている。雇用保険・健康保険については、3年経過後の契約更新についても一旦資格を喪失することなく継続加入扱いされている。
以上の事実からすると、被告において、原告を含め運転業務に従事する期間臨時社員は、2ヶ月又は3ヶ月の期間経過後も契約の更新を長期間にわたって繰り返していたことに加え、有給休暇や賞与、雇用保険等福利面についても契約の更新を前提とした仕組みになっていたことが認められるのであり、このような事情のもとでは、期間臨時社員において、期間満了後も雇用が継続されることに期待を持つことには合理性が認められるといえる。
原告の本件負傷は、通勤災害と認めることができるから、本件原告の負傷は、「私事」にも「私傷病」にも当たらないと考えるのが相当である。原告は、労働基準監督署長により原告の後遺障害等級が14級9号に該当するとした決定を受けて、労災保険審査官に対し審査請求をし、また自賠責後遺障害14級10号に該当するとの認定を受け、2回にわたって異議申立てをしたほか、本件事故の加害者に対し、損害賠償請求訴訟を提起したところ、以上の事実からすれば、原告の本件事故による後遺障害は、被告における原告の業務に支障を来す程度のものであったとみる余地がないではない。
しかしながら、他方において、原告は、医師から軽度の膝半月板損傷と診断され、理学療法と装具を着けた上で重い物を持つよう指示されたが、平成10年6月30日頃には症状が軽快し、重労働等への復帰は可能と診断され、同年7月25日には治癒と診断された。原告は、被告において、大型トラックの運転と郵便局間の集配作業やカタログの搬送等に従事しており、重い労働の場合には他の従業員と助け合って作業するので特に困難は生じなかった事実によれば、原告に後遺障害が認められるとしても、それが被告の業務に支障を来す程度のものであると認めることはできない。
原告は、昭和49年頃から平成4年頃までハウスクリーニングの仕事に従事していたが、被告との雇用契約期間中も、平成7年7月に4日、同年8月に1日、平成9年12月頃に2日、被告の承諾を得ず、有給休暇を取ってその仕事を行い、本件事故の当日、保険代理店を営むFに対し、職業はハウスクリーニングであると述べ、被告に勤務していることには触れなかった。以上によれば、原告は形式的には就業規則に違反する行為をしたと認められるが、原告の前記行為が被告の業務に支障を来したとはいえず、就業規則違反の程度は低いといわなければならない。
原告は、被告に対し、通勤方法として公共の交通機関を申告しながら、自家用車で通勤していたこと、原告以外にも同様な者が複数いたこと、被告は原告を含め、これらの申告義務違反の事実を知っていたが、特にそのことについて注意しなかったことが認められる。
以上の事実によれば、原告が通勤方法について虚偽の届出をしたことは否定できず、形式的には就業規則違反に当たるが、被告がこれを黙認していることに鑑みると、これをもって本件雇止めの理由とすることは許されないというべきである。
以上を総合すると、本件雇止めは、合理的な理由がなく、信義則上許されないといわなければならない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例814号143頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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