判例データベース
W社(S社重機横須賀工場)雇止等事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- W社(S社重機横須賀工場)雇止等事件
- 事件番号
- 横浜地裁 − 平成16年(ワ)第1517号(甲事件)、横浜地裁 − 平成17年(ワ)第333号(乙事件)、横浜地裁 − 平成19年(ワ)第2439号(丙事件)
- 当事者
- 原告甲事件原告・丙事件被告 個人1名A(原告A)
原告甲乙事件原告・丙事件被告 個人1名B(原告B)
被告甲乙事件被告・丙事件原告 W工業株式会社(被告W)
被告乙事件被告 S重機工業株式会社(被告S) - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2007年12月20日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告Sは、船舶、艦艇の設計、改造、修理等を業とする会社であり、被告Wは、電気溶接工事等を業とする会社であって被告Sの子会社である。一方、原告Aは平成13年8月、原告Bは同年12月、それぞれ被告Wと雇用契約(本件雇用契約)を締結し、3ヶ月の期間雇用を更新して溶接工として就労していた。なお、原告らはいずれもブラジル国籍を有し、原告Aは原告Bの父親である。
原告Bは、平成14年12月2日、ゴミの入ったバケツを提げて歩行していた際に転倒し、右腕を負傷したと被告Wに申告し、診察の結果右肩関節脱臼と診断された。その結果、原告Bは、同月6日から平成16年9月30日まで、休業補償給付の支給を受け、同日、後遺障害等級12級6号に認定され、障害補償一時金等の支給を受けた。
被告Wは、平成14年12月27日、時給2150円の賃金を受けていた原告Aに対し賃金減額の要請をした際、原告Aから社会保険への加入と有給休暇の付与を求められ、それであれば時給は1000円となる旨(原告らの採用時、被告Wは社会保険を適用し、有給休暇を付与することを前提に、時給を1000円にしようとしたところ、原告らの強い要請により、これらを適用しない代わりに時給を高く設定した経緯がある)説明し、同意を得られないまま、平成15年1月分以降の賃金につき、時給1000円を前提とする計算に基づき支払った。これに対し原告Aは、この頃全労協全国一般東京労組LUC分会に加入し、同分会は被告Wに対し、団交を要求する旨の書面を送付した。被告Wは、LUC分会に対し、原告Aを同年3月31日限りで雇用期間が満了し、原告Aとの本件雇用契約が終了する旨を通知した。また、被告Wは、平成15年9月の団交の席で、休業中である原告Bとの間の雇用契約も同年3月31日限りで終了している旨表明した。
原告らは、本件各雇用契約は期間の定めのない契約であるから、原告らは平成15年3月31日限りで解雇されたというべきところ、この解雇は原告らが社会保険への加入を強力に主張し、原告Aが労組に加入したことに対する報復として行われたものであって解雇権の濫用に当たること、原告Bについては、業務上の負傷に基づき療養のため休業している間に行われたもので、労働基準法19条に違反することから、無効であることを主張して、被告Wに対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた。また、原告Aは、平成15年1月から3月までの賃金につき、時給2150円を支払うべきところ、時給1000円に減額されたとして、その未払賃金の支払いを請求した(甲事件)。更に原告Bは、被告W及び被告Sの安全配慮義務違反によって業務上災害を被ったとして、労災保険の休業補償給付が支給されない3日分の補償及び後遺障害による逸失利益831万円余、通院慰謝料176万円、後遺障害慰謝料290万円を被告らに対して請求した(乙事件)。
一方、被告Wは、原告らを採用時に遡って社会保険に加入させ、その際社会保険料本人負担分を立て替えて納付したとして、保険料相当額(原告Aにつき約101万円、原告Bにつき約69万円)を求償した(丙事件)。 - 主文
- 1 被告Wは、原告Aに対し、金32万4318円及びこれに対する平成16年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告Aは、被告Wに対し、金100万9752円及びこれに対する平成16年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告Bは、被告Wに対し、金69万2780円及びこれに対する平成15年12月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告Bの請求、原告A及び被告Wのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用については、原告Aに生じた費用及び被告Wに生じた費用の3分の1を原告Aの負担とし、その余の費用を原告Bの負担とする。
6 この判決は、第1項から第3項までに限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件各雇用契約における期間の定めの有無
被告Wと原告らとの間の本件各雇用契約は、3ヶ月の期間の定めのある契約であり、それぞれ数度にわたって更新された後、平成14年11月27日、雇用期間を若干長くした上、平成15年3月31日限りで新たな更新は行わないとする合意のもとで最後の更新が行われたもの、即ち本件雇止めの合意があったものというべきである。したがって、被告Wと原告らとの間の本件各雇用契約は、いずれも平成15年3月31日の経過により、雇用期間が満了して終了しているものといわざるを得ない。よって、原告らの被告Wに対する雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と解雇後の賃金の支払いを求める請求は理由がない。
2 原告Aについての賃金減額合意の有無
原告Aは、平成14年12月27日には、被告Wによる賃金減額の要請にも、社会保険への加入等の条件の下で時給を1000円にすることにも同意していなかったのであるから、平成15年1月以降に出勤した場合には時給を1000円とする旨通告されたことをもってしても、原告Aが時給を1000円に減額することに合意したと評価することはできず、原告Aは、従前通り社会保険への加入等がないままで時給を2150円とする条件で就労する意思であったと認めるのが相当である。
原告Aは、平成15年1月には100時間の所定時間内労働と9時間の時間外労働に従事し、同年2月には40時間の所定時間内労働と5時間の時間外労働に従事し、更に同年3月には16日の有給休暇を取得したものであるから、時給2150円を前提として、原告Aに支払われるべき賃金の合計額は61万3824円となる。他方、原告Aがこの間に支給された賃金の合計額は28万9500円であるから、結局原告Aは32万4324円の賃金の支払いを受けていないことになる。よって、原告Aの被告Wに対する上記未払賃金の請求には理由がある。
3 原告Bの労働災害の有無
本件事故に関する原告らの供述は、不自然さ、事故態様についての変遷、曖昧さなどが見られることからいずれも採用できず、そうすると、原告Bが平成14年12月2日の就労時間中に右肩関節脱臼の症状を呈していたことは確かであるとしても、原告Bが同年10月1日に同関節の亜脱臼を起こしていることなどをも併せて考慮すれば、これが業務に起因するものであるとまで認めるには足りないというほかなく、むしろ、原告らが上記のような不自然な供述を重ねていることに照らすと、原告Bは業務とは関係のない原因で右肩関節脱臼の症状を呈するに至った可能性を否定し得ないところである。
なお、仮に本件事故が労災保険法に基づく休業補償給付の支給申請に係る事実の限度で認められるとしても、本件事故現場は、溶接作業を行っていた本件ブロックの甲板上であり、溶接作業に必要なエアホース、ケーブル等が引き込まれて床を這う状況となっていたものであり、原告Bにおいても当然そのような場所であることを熟知していたと推認されるところである。そして、原告Bがそのような場所をゴミを持って歩行していたのであれば、上記事故が発生したとしても、それは専ら原告Bの不注意によるものというべきである。この点につき原告Bは、本件事故現場が労働安全衛生規則所定の「作業場」に該当するとし、被告らには安全な通路の保持、作業場床面の安全の保持などの安全配慮義務があるところ、被告らはこれを怠ったと主張するが、本件ブロックは作業の対象物ないし製品の一部であって、労働安全衛生規則にいう「作業場」であるということはできない。他方、溶接作業を行う際には、引き込んだエアホースやケーブル等が床面を這う状況になることは避けられないところ、被告Wにおいては、毎朝ミーティングを開催して、作業員に対し作業指示を行い、安全衛生上の連絡事項を通達するほか、危険予知ミーティングを行って、当日に予定されている作業に伴う危険の内容、その危険に基づく災害を防止するための注意事項を従業員全員で唱和するなどしていたものであり、被告Sにおいても、本件工場内の安全パトロールを実施していたほか、協力会社の従業員であっても新規入構者に対しては安全に関する項目を含む入門時教育を行い、更に協力会社の従業員をも対象として安全衛生に関する朝礼を実施して安全訓話を行っていたものであって、その際被告らは、いずれも移動時には足下に注意すること、エアホース等をまとめておくこと、整理整頓を励行すること等を日常的に指導、教育していたものである。
これらの事実関係に照らすと、仮に本件事故が労災保険法に基づく休業補償給付の支給申請に係る事実の限度で認められるとしても、被告らに安全配慮義務違反があったということはできない。よって、原告Bの被告らに対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求には理由がない。
4 丙事件について (略) - 適用法規・条文
- 労働基準法19条、24条
- 収録文献(出典)
- 労働判例966号21頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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横浜地裁 − 平成16年(ワ)第1517号(甲事件)、横浜地裁 − 平成17年(ワ)第333号(乙事件)、横浜地裁 − 平成19年(ワ)第2439号(丙事件) | 一部認容・一部棄却 | 2007年12月20日 |
東京高裁 - 平成20年(ネ)第615号 | 控訴棄却(確定) | 2008年08月07日 |