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国立大学非常勤学生相談員雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
国立大学非常勤学生相談員雇止事件
事件番号
東京地裁 − 平成18年(ワ)第26945号(甲事件)、東京地裁 − 平成19年(ワ)第21103号(乙事件)
当事者
原告個人1名

被告国立大学法人X大学

被告X大学後援会
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2008年09月08日
判決決定区分
棄却
事件の概要
原告は、平成7年4月1日、被告大学又は被告後援会から、期間1年で週2日勤務の非常勤学生相談員として採用され、被告大学保健管理センター学生相談室に所属することとなった者である。被告大学は、平成16年4月1日に成立した国立大学法人であり、被告後援会は、被告大学の学生及び教職員の各種活動の支援等を目的とする権利能力なき社団で、平成16年12月1日、X大学後援会と改称した。

 原告は、被告大学又は被告後援会との間の期間1年、週2日勤務の本件労働契約を毎年更新していたところ、被告大学の学生部長C及び学生課長Dは、原告に対し、平成18年1月31日、同年4月以降の労働契約の更新をしない(雇止め)を通告し、その後同年4月以降の本件労働契約を更新しなかった。

 原告は、被告大学が本件労働契約における使用者であり、被告後援会は給与支払義務者であるにすぎないとした上で、本件労働契約は11年間にわたりほぼ自動更新という状態にあったから、原告には雇用継続の期待があったことから、本件雇止めは解雇権の濫用法理を適用すべきところ、原告を解雇すべき理由がないとして、本件雇止めの無効確認と賃金の支払いを求めて提訴した。

 これに対し被告らは、本件労働契約の主体は被告後援会であること、本件労働契約は1年更新であり、被告後援会は更新の期待を抱かせるような言動は一切していないこと、原告には学生相談員としての守秘義務に違反する非違行為があったことなどから、本件雇止めは有効であると主張した。
 被告らは、原告に対し、原告との訴訟前の交渉において、原告の相談業務に対して学生から苦情の申立があったと述べた。また、原告は訴訟の過程において、原告が守秘義務違反を起こしたという虚偽事実を陳述して原告を誹謗中傷したとして、その精神的苦痛に対する慰謝料として被告らに対し、それぞれ500万円、弁護士費用102万円を請求した。更に、原告は、被告大学はFからの人権委員会に対する申立において、原告が守秘義務違反を起こしたからトラブルになったと虚偽の事実を記載するなど原告の名誉を毀損したとして、被告大学に対し慰謝料500万円を請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 原告と労働契約を締結した主体

 平成7年4月1日付けの原告についての被告後援会人事異動通知書では、任命権者が被告後援会とされており、平成8、10、11、15、16、17年度についても、任命権者が被告後援会とされているほか、原告の被告後援会理事長に対する、平成12、13年度分についてのX大学学生相談室学生相談補助員就任の承諾書が存在する。一方、被告大学保健管理センター所長作成による平成7年8月23日付け、原告が同センターに在籍することを証明する在籍証明書、職歴・職務内容証明書が存在する。

 原告は、労働契約を締結するに際し、被告大学から、使用者は被告大学であるが、給与は被告後援会から支給される旨説明を受けていた旨主張するが、人事異動通知書は被告後援会によって作成され、原告も被告後援会に対し承諾書を出しているのであるから、本件労働契約は、原告と被告後援会との間で締結されたと認められる。以上によれば、被告大学との間で本件労働契約を締結したとの原告の主張は理由がないから、被告大学に対し労働契約上の権利を有する地位にあるとの確認を求める原告の請求は理由がない。

2 本件雇止めの有効性

 原告の採用に当たり面接があったとしても、原告は面接当日に採用が事実上決定されているから、その採用手続きもさほど厳格とはいえず、原告が常勤の学生相談員として採用される可能性があったとはいえないことにも鑑みると、原告の職務内容は、その採用手続、勤務時間、給与体系等からして、臨時的なものと評価される。

 原告は、原則的に毎年、期間を1年とする人事異動通知書を受けていたのであり、承諾書を作成することもあったのである。そして、人事異動通知書は、契約書とは異なり、任命権者である被告後援会において作成する書面であることに鑑みると、人事異動通知書が年度が始まった後に交付されていたとしても、原告において、同通知書により本件労働契約は期間1年の有期契約であることを当然に認識していたと考えられる。

 以上のとおり、本件労働契約における原告の職務内容は臨時的なものと評価され、その更新手続きについても、両当事者において、期間を定めたものとして更新されているのであるから、本件労働契約が11年間にわたり更新されていたとの事実を考慮しても、本件労働契約は更新後の期間の満了により、平成18年3月31日に終了したこととなる。

 被告後援会は、学生相談室業務について、受け身の相談室から予防的な機能を備え持つように転換を図っていくこととし、個別相談を縮小し、グループワークに移行していくとの方針を有していたのであり、限られた予算の範囲内で効率的な運用をしていく必要があったために原告を雇止めしたと認められるのであるから、仮に原告において継続雇用について何らかの期待があったとしても、本件雇止めには理由があったと評価できる。

3 本件訴訟行為についての名誉毀損による不法行為の成否

 民事訴訟においては弁論主義が採られていて、当事者に自由な主張の展開、攻撃防御方法の提出を保障する必要があるから、訴訟行為による名誉毀損における違法性を判断するに当たっては、要証事実に関連性があり、主張の必要性があり、主張方法も相当であった場合には、真実性を欠いていても違法性がないと解すべきである。本件においては、結果的には原告が守秘義務違反を犯したか否かを判断するまでもなく、本件労働契約が平成18年3月31日に終了したと認められたけれども、被告らにおいて、裁判所が本件労働契約について原告に継続雇用について合理的期待があると判断し、雇止めについても解雇の場合と同様、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合か否かについても判断する場合に備えて、原告が守秘義務違反を犯したと主張したことには、その必要性が認められるし、具体的陳述内容等についても、要証事実に関連性があると評価できる。そして、その具体的陳述内容等についても、殊更に原告の名誉を毀損するために、相当とはいえない表現により主張しているとはいえないから、主張方法についても相当であるといえる。

4 被告大学は、原告に対し、人権委員会の最終報告等について、不法行為責任を負うか

 原告が守秘義務違反を起こしたとの事実は、被告大学人権委員会において認定した事実ではないことが明らかであり、そうすると、委員長において、原告が守秘義務違反を起こしたか否かについて確認せずに「原告が守秘義務違反を起こしたからトラブルになった」旨記載をしたことにより原告が精神的苦痛を被ったのであれば申し訳ないことをしたと考えていることが認められるが、そのことをもって被告大学人権委員会が、原告の社会的評価を低下させる名誉毀損をしたとは認定できない。

 原告は、被告大学人権委員会において、原告に守秘義務違反があったと公表されたり、Fに対して同趣旨のことが伝えられたことも名誉毀損であると主張するが、被告大学人権員会において、その旨の認定をしたのではないことが明らかであり、それを前提に人権委員会で調査報告がされたり、Fに対し調査結果が伝えられたのであるから、これらが名誉毀損に該当するということはできない。
 以上によれば、原告が守秘義務違反を犯したとの事実が真実であるかについて判断するまでもなく、原告の主張は理由がない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報2018号23頁
その他特記事項