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S社販売社員契約更新拒絶事件

事件の分類
雇止め
事件名
S社販売社員契約更新拒絶事件
事件番号
大阪地裁 - 平成14年(ヨ)第10014号
当事者
その他 個人1名
被上告人 株式会社
業種
卸売・小売業・飲食店
判決・決定
決定
判決決定年月日
2002年12月13日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、各種衣料、繊維製品及び服飾雑貨類の製造・販売等を業とする会社であり、従業員には、雇用期間の定めのない正社員のほかに、6ヶ月ないし1年の期間雇用者である販売社員、一般販売員、アルバイト等がいる。

 債権者は販売社員であるが、販売社員とは各売場のリーダー又は中核として販売業務に従事することが期待される者であり、比較的高度の職務を行い、俸給は年俸制で、雇用期間は毎年7月1日から翌年6月30日までとされていた。

 債権者は債務者との間で、昭和61年9月に、契約期間1年のアルバイト雇用契約を締結しこれを3回更新した後、平成元年7月に大阪支店販売社員として雇用契約を締結し、以後11回の契約更新をした。この間債権者は、上着を着用せずに接客して注意を受けたり、在庫管理帳を作成していなかったり、休憩時間に飲酒して百貨店の担当者から注意を受けたりした。こうしたことから、債務者は平成12年の契約更新に際し、債権者に退職を勧奨したが、債権者がこれを拒否したため、年間賞与を減額するなどして契約を更新し、店舗を高槻S店から異動させた。ところが高槻S店の平成12年8月の棚卸に当たり、在庫不足が指摘されたことから、債権者はこれを隠蔽したほか、ずさんな対応から顧客からのクレームを受けたり、伝票を紛失したりした。

 こうしたことから、債務者は債権者に対し、平成13年3月より自宅待機を命じ、同年5月29日に、上記非違行為や職務怠慢行為などを理由に、同年6月30日の期間満了をもって雇用契約を更新しない旨の通知をした。

 これに対し債権者は、本件雇用契約は実質的に期間の定めのない契約と変わらない状態になっていたから本件雇止めは解雇に当たるところ、解雇権の濫用として無効であるとして、債務者の従業員としての地位の保全と賃金の支払いの仮処分命令を申し立てた。
主文
1 本件申立てを却下する。

2 申立費用は債権者の負担とする。
判決要旨
 販売社員は、給与は賞与を含んだ年俸制とされ、契約更新に当たっては、個別面接を実施した上で行われ、契約更新することとなった者との間では、給与等の条件を当事者間で合意した上で契約書を作成しており、成績不振、適格性欠如等の認められる者については、契約期間満了をもって雇用契約関係を終了させたり、一般販売員として新たに雇用契約を締結することとしていたのであり、平成11年の契約更新の際には販売実績不振や職務遂行態度を理由に一般販売員への契約形態変更を勧奨されて俸給が減額され、平成12年の契約更新においても、同様の理由により、俸給を減額して契約更新をしていることが認められる。以上によれば、本件雇用契約が、当然に更新が予定され、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態で存続していたとまでいえないことは明らかである。

 債務者においても、債権者との間で、昭和61年9月1日から1年契約のアルバイトとしての雇用契約を3回更新した後、平成元年以来平成13年に本件更新拒絶するまで、販売社員としての雇用契約を11回更新していることを合わせて考慮すれば、債権者の雇用契約の更新に対する期待には合理性があり、本件雇用契約を契約期間満了によって雇止めをするに当たっては、やはり解雇に関する法理を類推して適用するのが妥当であり、具体的な事情のもとにおいて、債務者において、債権者との雇用契約の更新を拒絶することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができない場合には、期間満了後においても、当事者間の従前の雇用契約が更新されたのと同様に存続するものというべきである。

 販売社員は、各売場のリーダー又は中核として販売業務に従事することが期待される者であるため、給与についても一般販売員よりも高給であり、本人の勤務成績や期待される職責・成果等をもとに1年毎に給与額を債務者との間で合意をする年俸制が採用され、1年毎に契約を見直すことを前提とされていることからすれば、当該販売社員をそれに見合う労働能力又は勤務成績が伴わないとの理由で雇用契約の更新を拒絶する場合においては、終身雇用の期待の下に期間の定めのない雇用契約を締結している正社員を解雇する場合と比較して、その合理性は緩やかに判断されるべきである。

 債権者は、平成11年の契約更新の際には販売実績の不振や職務遂行態度を理由に俸給を減額する内容で契約更新し、翌12年の契約更新についても、同様な理由で減額の内容で契約更新している上に、本件更新拒絶の直前の平成12年7月から平成13年6月までの契約期間においても、(1)平成12年8月と平成13年2月には各棚卸処理において在庫不足を隠蔽し、(2)平成12年10月から平成13年2月にかけてクレームを3件発生させ、伝票を紛失させているのである。

 (1)については、そもそも債権者が本件棚卸処理を行う動機になった高槻S店内の在庫不足が拡大したのは、店長として債権者が在庫管理を十分に行って来なかったことが大きな要因となっているにもかかわらず、債権者はその発覚を隠蔽するため本件棚卸処理を行ったというもので、その動機に酌量する点はなく、その行為の結果も、在庫不足の損失を債務者の重要な取引先である高槻S店側に転嫁するというもので、債務者の信用を著しく毀損する行為というべきである。また、(2)についても、本件各クレームはいずれも、一般販売員ならともかく、一般販売員を指導すべき立場にある販売社員として基本的な適格性に疑念を抱かせる行為というべきであるし、本件伝票紛失についても債権者の重過失に基づくものである。したがって、債権者が販売社員であることに照らせば、債務者において以上の点を理由として本件更新を拒絶したとしても、まことにやむを得ないというべきである。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例844号18頁
その他特記事項