判例データベース
O大学非常勤職員雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- O大学非常勤職員雇止事件
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成19年(ワ)第3059号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 国立大学O大学 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2008年07月11日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告(昭和20年生)は、昭和54年11月19日、国立大学当時のO大学に事務補佐員として採用されて大学附属図書館勤務となった女性である。原告は、昭和55年3月30日、任期満了により退職となったが、同年4月1日から、昭和56年3月30日まで勤務し、その後も任用の更新により任期が毎年4月1日から翌年3月30日までの勤務を平成16年3月30日まで続けた。
平成16年4月1日、大阪大学は国立大学法人化され、原告は事務補佐員として平成17年3月31日までの雇用契約を締結し、更に同年4月1日、雇用期間を平成18年3月31日までとする雇用契約書に署名押印した。
被告は、国立大学法人化されるに当たって、就業規則を整備し、非常勤職員については1年更新とすること、60歳に達した日以降最初の3月31日以降は更新しないことを定め、この規定に基づき、平成18年4月1日以降の原告の契約更新をしなかった。
これに対し原告は、既に23回も契約更新を繰り返していることから、平成16年4月1日付け雇用契約は期限の定めのない雇用契約であり、平成17年4月1日付け雇用契約書は新たな契約ではないこと、同契約書に原告が署名押印したのは強迫による意思表示であり取り消すこと、非常勤職員を年齢で更新を拒絶する条項は、平等原則(憲法14条、労働基準法3条、4条、男女雇用機会均等法1条等)に反し、公序良俗(民法90条)に反して無効であることを主張して、被告職員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告は、昭和54年11月19日から平成16年3月30日まで、国立大学であった大阪大学の附属図書館において、途中変更はあったものの、カウンター閲覧業務、相互貸借業務等に従事し続けており、この間毎年任用され続けるものと「期待」を有することは十分あり得るところであるし、原告が自費で図書館司書の資格を取得していることからしても、そのような期待を有していたことは窺われる。しかしながら、原告は毎年3月30日に退職辞令の交付を受け、翌31日に任用が中断されるという取扱いを受けていたものである。このような取扱いは、常勤化防止閣議決定を遵守するためのものであること、原告から明示的な抗議があったにもかかわらず継続されていたこと、国家公務員の非常勤職員を常勤職員と同様に扱うことは理論上困難な問題が少なくないことなどからすると、原告の「期待」は、合理的なものとは必ずしもいえないから、平成15年4月1日以降の任用関係についての任用期間は、平成16年3月30日までであったものと認められる。
原告と国立大学である大阪大学を運営していた国との間の任用関係は、平成16年3月30日、原告の退職により終了したものであり、同年4月1日付け雇用契約は、原告と国立大学法人化した被告との間の新たな雇用契約というべきである。原告と被告との間の平成16年4月1日付けの雇用契約は、平成17年3月31日をもって期間満了により終了しており、平成17年4月1日付けの雇用契約書の作成により、原告と被告の間には、新たな雇用契約が締結したものと認められる。
被告における非常勤職員就業規則の制定は、国立大学法人化に伴う新たな就業規則の制定であり、原告を含む個別労働者の合意や労働協約がなくとも、合理的な内容であれば有効である。非常勤職員就業規則2条4項は、(2)雇用を一定年齢までとすること自体は定年制が普及している我が国において合理性が認められること、(2)雇用を60歳までとする点も、我が国の社会通念に照らし合理性が認められることからすると、合理的な内容であると認められる。
また、常勤職員にあっても、国立大学法人大阪大学教職員就業規則において60歳定年が定められていたこと、常勤職員について再雇用の制度や、65歳を超えて雇用契約が更新される可能性があること等の差異は、常勤職員と非常勤職員の差異に基づく合理的区別と解する余地もあることからすると、非常勤職員就業規則2条4項に平等原則違反は認められず、同条項が公序良俗違反であるとも認められない。
更に原告は、(2)原告の従事してきた業務が被告の附属図書館の基幹業務で恒常的に人手不足であること、(3)原告が従事していた相互貸借業務は非代替業務であること等を前提事実として、被告には既存の非常勤職員の期待権を侵害しない義務がある旨主張する。確かに、国立大学法人は、前身である国立大学当時の国の権利義務を承継することが定められ、被告の就業規則においても大阪大学における任用期間が考慮される等、大阪大学との一定程度の連続性が想定されていることが窺われることから、国立大学法人化前の大阪大学の任用の繰り返し等の経緯も含めて原告の期待の有無を判断すること自体は、あながち理由がないとはいえない。しかしながら、大阪大学において、常勤職員の定年を超えて非常勤職員を任用していたと考えるのは困難であるところ、原告が国立大学法人化後の被告において、前記国家公務員たる常勤職員の定年を超えて雇用されることへの合理的期待を有していたと考えるのは困難といわざるを得ない。
以上の検討によれば、非常勤職員就業規則は、職員の年齢が60歳に達した日以後に到来する最初の3月31日を超えて雇用契約を締結又は更新することはない旨の規程を含め有効であり、原告・被告間の平成17年4月1日付け雇用契約書による雇用契約は、平成18年3月31日の経過をもって期間満了により終了したものと認められる。 - 適用法規・条文
- 労働基準法90条1項、国家公務員法81条の2第2項)
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2028号7頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 - 平成19年(ワ)第3059号 | 棄却(控訴) | 2008年07月11日 |
大阪高裁 − 平成20年(ネ)第2121号 | 控訴棄却 | 2008年11月27日 |