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O大学非常勤職員雇止控訴事件

事件の分類
雇止め
事件名
O大学非常勤職員雇止控訴事件
事件番号
大阪高裁 − 平成20年(ネ)第2121号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 国立大学法人O大学
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2008年11月27日
判決決定区分
控訴棄却
事件の概要
控訴人(昭和20年生・第1審原告)は、昭和54年11月19日、国立大学当時のO大学に事務補佐員として採用されて大学附属図書館勤務となった女性である。原告は、昭和55年4月1日から、毎年翌年3月30日までの雇用契約の更新を平成16年3月30日まで続けた。

 平成16年4月1日、O大学は国立大学法人化され、控訴人は事務補佐員として被控訴人(第2審被告)との間で平成17年3月31日までの雇用契約を締結し、更に同年4月1日、雇用期間を平成18年3月31日までとする雇用契約書に署名押印した。

 被控訴人は、国立大学法人化されるに当たって、就業規則を整備し、非常勤職員については1年更新とすること、60歳に達した日以降最初の3月31日以降は更新しないことを定め、この規定に基づき、平成18年4月1日以降の控訴人の契約更新をしなかった。

 これに対し控訴人は、法人化以前に既に23回も契約更新を繰り返していることから、平成16年4月1日付け雇用契約は期限の定めのない雇用契約であり、平成17年4月1日付け雇用契約書は新たな契約ではないこと、同契約書に控訴人が署名押印したのは強迫による意思表示であり取り消すこと、非常勤職員を年齢で更新を拒絶する非常勤就業規則の条項は、平等原則(憲法14条、労働基準法3条、4条、男女雇用機会均等法1条等)に反し、公序良俗(民法90条)に反して無効であることを主張して、被控訴人職員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。

 第1審では、継続雇用についての控訴人の期待には合理性がないこと、非常勤職員の契約更新の上限を60歳と定めた非常勤職員就業規則は適法であることなどとして、控訴人の請求を棄却したことから、控訴人はこれを不服として控訴した。
主文
1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
1 被控訴人法人化前の控訴人の地位

 控訴人は、昭和54年の任用以来平成15年4月の任用まで23回更新を繰り返してきたこと等を考慮すると、遅くとも平成15年4月1日時点では期間の定めのない任用関係に転化した旨主張するが、控訴人は昭和54年11月19日以来平成16年3月30日まで期限付任用に係る非常勤の国家公務員として、毎年4月1日に翌年の3月30日までを任期として、任期満了ごとに退職と任用を繰り返してきたものであるところ、国家公務員法上、任用行為もないのに期限付任用の非常勤国家公務員が期間の定めのない任用関係に転化するとの規定はないから、控訴人の上記主張は失当である。

2 被控訴人法人化に伴う控訴人との雇用契約について

 控訴人は、法人化に伴い締結された平成16年4月1日付け雇用契約の雇用期間の定めは、継続的な勤務関係における労働条件の不利益変更と同視でき、控訴人がこれに同意していない以上無効である旨主張するが、上記雇用契約における雇用期間の定めは、そもそも継続的な勤務関係における労働条件の不利益変更に該当しないから、控訴人の主張は選定を欠き失当である。

 控訴人は、仮に継続的な勤務関係の労働条件の変更と評価できない場合であっても、法人化を契機に雇用期間を1年と区切ることは公序良俗に反し無効である旨主張するが、非常勤職員は法人化前においても雇用期間を定められた雇用関係にあり、法人化を契機に1年と区切ったものではなく、また法人化によって国家公務員法の適用を受けなくなったとしても、そのことから直ちに期間の定めのない雇用契約に転化するものではないから、控訴人の同主張も採用できない。

 控訴人は、被控訴人の行為は、法人化に伴い新規に契約を締結することを奇貨として、あえて有期の雇用契約締結を求めるものであり、労働者に比して圧倒的優位にある地位を濫用するものとして公序良俗に反する旨主張するが、法人化の前後において期限付任用の地位に変更はないから、控訴人の同主張も理由がない。

3 被控訴人法人化により制定された就業規則の効力

 控訴人は、被控訴人が法人化した時点において、60歳を超えて雇用継続されることが当然に期待されることが社会通念であったことからすれば、非常勤職員就業規則2条が雇用期限を60歳に設定することに合理性はなく、また法人化前は、控訴人は60歳を超えても働き続ける期待を有していたから、控訴人に対し同条を適用して雇止めすることは公序良俗に反して無効である旨主張するが、控訴人において、任用期間の満了後に再び任用されることを期待する法的利益を有するものではない。

 次に控訴人は、常勤職員は65歳まで再雇用が可能であり、大学が特に認めたときは65歳を超えて勤務することが可能であるのに、非常勤職員は原則として60歳を超えて労働契約が更新されることはないから、平等原則に反し無効である旨主張するが、常勤職員と非常勤職員とは雇用形態・職務内容が異なり、その差異は代替職員の確保にも影響を及ぼすから、上記の区別は合理的区別ということができ、平等原則に反し無効であるということはできない。なお、控訴人は、非常勤職員は退職金もなく賃金も低いから、非常勤職員の方が満65歳まで勤務できる制度をより必要としている旨主張するが、これは社会政策・立法の問題であって、就業規則の合理性とは別問題である。

 最後に控訴人は、60歳に達した後もなお雇用が継続されると期待したことは十分合理的であり、被控訴人が非常勤職員就業規則2条を控訴人に適用すれば、控訴人のかかる期待権を侵害することになり違法であるから、同条項は控訴人に適用されない旨主張するが、控訴人主張の期待が法的利益を有するものでないことは前記のとおりである。
適用法規・条文
労働基準法90条1項、民法90条
収録文献(出典)
労働経済判例速報2028号3頁
その他特記事項