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Hマネキン紹介所解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- Hマネキン紹介所解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成20年(ワ)第5795号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 有限会社Hマネキン紹介所 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2008年09月09日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告は、厚生労働大臣の許可を受けてマネキン紹介、派遣を業とする有限会社であり、原告と被告は、平成18年10月1日から12月31日までの間、C社で働く旨の派遣労働契約を締結した。
原告は、同年10月30日、派遣先店舗(本件店舗)において、本件店舗の女性従業員との間で、伝票処理をめぐってトラブルを起こし、翌31日に被告は11月2日から出勤しないように告げた(本件告知)。これに対し原告は、被告から納得のできる説明を受けられなかったとして、同月2日以降も本件店舗に出向いて就業したが、被告は、同月10日、原告に対し、本件雇用契約に基づく本件店舗での就業について、同月12日で終了するよう告げ、原告は同月13日以降本件店舗で就業しなくなった。
原告は、主位的には本件告知は解雇の予告に当たるところ、平均賃金の28日分に当たる40万3000円を請求し、予備的には本件告知が就労の一時停止にすぎないとすれば、本件雇用契約に基づき賃金請求権を失わないとして就労停止となった平成18年11月13日から他社に就職した同年12月5日までの賃金23万0400円の支払いを請求した。これに加え原告は、社会保険に加入したい旨希望していた原告に対し、被告が社会保険に加入する資格がないかの如く侮辱したこと、原告に理由を告げることなく就労を拒んだこと、退職証明書の交付を催促した原告に対し、被告事務所に来るよう強制した上、原告を罵倒し、労働基準監督署において、担当監督官に対し悪口を言うなどして精神的苦痛を与えたこととして、慰謝料16万9600円を請求した。 - 主文
- 1 被告は、原告に対し、28万0400円及びこれに対する平成18年12月6日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 解雇予告手当請求権の存否
本件雇用契約を確認した書面では原告の派遣先を本件店舗と予定したものであったこと、被告は本件告知後の平成18年11月13日以降、原告の新たな派遣就労先を探していたこと、原告も被告によって新たな派遣就労先が提供されることを期待していたこと、最終的には被告が同業他社の派遣就労先で働くことを原告に勧め、原告もこれに応じたこと、本件告知が3ヶ月の契約期間途中にされたことが認められる。
これらの事情からすれば、本件雇用契約は、何らかの事情で原告が本件店舗で働くことができなくなった場合には、他の派遣先では一切働かせないというものではなく、被告に他の新たな派遣就労先の提供を義務付けるものであったといえるから、派遣就労先を本件店舗に限定したものではないというべきである。そうすると、本件告知は、これによって原告が本件店舗で就労しなくなったとしても、被告に新たな派遣就労先を探す債務が生じるに過ぎず、本件雇用契約が終了したものではないし、このときから同業他社による新たな派遣就労先の提供を予定していたということもできないから、これを解雇の予告ということはできない。したがって、原告は被告に対し、解雇予告手当の支払いを請求できないといわざるを得ない。
2 賃金請求権の存否
原告は本件告知当時、本件店舗で就労する意思と能力があったこと、本件告知は原告の派遣就労先であった本件店舗の女性従業員とのトラブルが前提になったこと、被告は原告と本件店舗の女性従業員とのトラブルを特段調査することなく、本件派遣先の指示に従い本件告知をしたこと、被告担当者が本件告知時に原告に対しすぐにでも他の派遣就労先が提供できる旨告げていたこと、被告は原告に本件店舗での就労と同様の水準の派遣就労先を提供できなかったことが認められる。これらの事情を総合考慮すると、原告が本件告知後に労務の提供をできなかったのは、使用者である被告の責めに帰すべき事由によるものであるということができるから、労務提供の反対給付である賃金請求権を失わないといえる(民法536条2項)。したがって、原告は被告に対し、就労停止となった日である平成18年11月13日から他社へ就職して本件雇用契約が終了した同年12月5日までの間の所定就労日である16日分の賃金である23万0400円の支払いを求めることができるとするのが相当である。
3 慰謝料請求権の存否及び額
被告が原告に国民健康保険の加入(継続)を伝えた事実が認められるけれども、そのことが「社会保険に加入する資格がないかのごとく侮辱した」ということにはならない。被告は原告に対し、出勤停止の理由を「本件店舗の女性従業員から本件派遣先苦情が入ったため」と告げているのであって、理由もなく出勤停止を告げたわけではない。また、被告は原告を解雇したのではないから、退職証明書の交付についての被告の対応が不当であるということはできないし、その他の事実経緯に照らしても、被告の対応、言動に、原告に対する不法行為と評すべきものがあるとはいえない。 - 適用法規・条文
- 民法536条2項
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2025号21頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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