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K社試用期間中解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- K社試用期間中解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成20年(ワ)第4242号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2008年09月26日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告は、インターネットによる通信販売等を業とする会社であり、平成19年2月、原告との間で、入社後3ヶ月間を試用期間とし、使用期間中の賃金を月額23万円、試用期間経過後の賃金を月額37万5000円、年間賞与150万円とする雇用契約を締結した。
雇用契約が発効した同年4月2日、被告は原告に対し、新たに設立する投資顧問会社の代表者に就任するよう申し入れ、原告は上記雇用契約と同一の労働条件が保障されることを条件にこれを承諾し、被告のインターネットによる通信販売業務に従事する一方で、投資顧問業登録等の開業準備を行っていた。
被告は、同年6月25日、原告に対し、業績低下を理由に、同年7月以降の賃金を月額23万円に据え置くとともに、賞与を原告の成績と被告の業績に応じて支給する内容に労働条件を変更する旨通告した上、原告がこれを受け容れなければ退職させると述べた。そして、原告が態度を明らかにしなかったところ、翌26日付けをもって解雇の意思表示をした。
原告は、上記解雇は合理的な理由のない違法な解雇であり、不法行為に該当するとして、主位的に逸失利益として6ヶ月分の給与相当額225万円、慰謝料50万円、予備的に解雇予告手当の残金5万1800円を請求した。 - 主文
- 1 被告は、原告に対し、75万円及びこれに対する平成19年8月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 事実関係を総合すると、原告と被告との間には、平成19年4月2日に本件雇用契約書に記載された内容と同一の労働条件で雇用契約(本件雇用契約)が成立したと認められる。
被告は、原告が他の従業員と頻繁にトラブルを起こし、勤務時間中もほとんど離席し、パチンコなどに興じていたと主張するが、原告が他の従業員との間で解雇せざるを得ないほどのトラブルを起こしていたことや、勤務時間中に正当な理由なく離席していたことを認めるに足りる証拠はない。また被告は、本件解雇が整理解雇として有効であると主張するが、被告は本件解雇時、原告に対して整理解雇を行うことすら明示していなかったことが認められるから、原告に対し整理解雇の必要性、規模、基準等について十分な説明を行っていないことが明らかであるから、本件解雇は整理解雇として有効でないといえる。よって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、解雇権の濫用である。
被告は、本件解雇後の同年6月29日、原告に対し、雇用契約を主張するなら保証人に何らかの責任追及する可能性があり、雇用契約を主張しないならその可能性はないこと、雇用契約を主張するなら速やかな出勤を命ずることを内容とするメールを送信した。そして原告は、このようなメールを送信する被告の不誠実な対応から、被告への復職を断念し、同年9月2日に別会社に就職し、現在に至っている。
上記メールの内容は、本件解雇の撤回を意味するとは到底解し得ない上、原告に対し復職を断念させる意図を十分に感じさせるものであり、原告は本件解雇及び被告のその後の不誠実な対応によって、やむなく本件雇用契約を終了させられたというべきであり、原告自らが退職したという被告の主張は到底採用できるものではない。したがって、本件解雇は原告の雇用契約上の利益を侵害する不法行為に該当し、原告は本件解雇から約2ヶ月後に転職していることが認められるから、原告が被告の不法行為によって喪失した利益は、試用期間経過後の賃金の2ヶ月分に相当する75万円と認める。
原告が、やむなく本件雇用契約を終了させられたことにより被った精神的苦痛は、上記逸失利益の支払によって慰謝されたというべきであり、これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実は認められない。 - 適用法規・条文
- 民法44条1項、709条
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2025号26頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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