判例データベース
A社派遣賃金請求事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- A社派遣賃金請求事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成11年(ワ)第2377号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年10月29日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(確定)
- 事件の概要
- 被告は、コンピューターソフトウェアの開発、一般労働者派遣業などを業とする株式会社であり、原告と被告は、平成10年10月5日、「会計システム開発支援」を同日から同年12月31日の間、作業時間は9時30分〜18時30分(休憩1時間)、月額52万円として契約を締結した。
原告は大学卒業後の13年間、システムエンジニアの仕事に従事し、本件契約に至るまでに、被告との間で、開発委託契約、派遣労働契約、作業委託契約等を締結してきており、派遣労働契約を締結する場合、派遣労働者は報酬が給与の名目で支給され、所得税の源泉徴収がされ、給料から保険料が控除された。
本件システムの開発は、システム設計、プログラム設計、プログラミング、単体テスト、システムテスト、最終調整の工程から構成され、原告は仕様書に基づいてプログラムを作成する業務に従事し、当面は「請求書」と「納品書」という帳票印刷の2本のプログラムを1ヶ月を目標に作成するものであった。ところが、仕様書に問題があったことなどから納期までにプログラムを完成することが困難となったため、納期は同年11月5日から1ヶ月延期された。原告は同年11月9日にプログラミング作業を終え、翌10日から18日の間単体テストが行われ、同月20日からはシステムテストが行われたが、「納品書」のプログラムには不具合が発生し、結局、同年12月5日の時点で、2本のプログラムのうち1本は完成し、他の1本は完成しなかった。
被告は、同年11月30日、原告に対し、原告の能力では納期までに本件システムが完成しないこと及び開発関係者との間における人間関係の悪化を理由に、本件契約を解除する旨の意思表示をし、報酬として合計49万6500円を原告に支払った。
これに対し原告は、被告に対し、主位的には原被告間の契約は雇用契約であるとして、これに基づく賃金請求を、予備的には請負契約に基づく報酬の支払い及び不法行為に基づく損害賠償の支払いを請求した。 - 主文
- 判決要旨
- 1 雇用契約の成否
本件契約においては、作業場所、終業時刻、始業時刻、休憩時間が具体的に定められ、業務内容は、契約書上は本件システム開発とあるのみで、その文言によって原告の業務内容を具体的に特定することはできない。原告は、元請人の指示を受けて同社の作成した仕様書に基づきプログラミングの業務に従事しており、原告は被告に対し、1日毎の作業時間、作業内容などを記載した各種報告書を提出していた。
しかし、他方で、本件契約書には「被告が…情報処理システム又は製品の開発業務を原告に委託し、原告がこれを請け負うことに関し…」と記載されている。原告は過去に被告との間で派遣労働契約を締結したことがあり、その際には就業規則や業務処理指示書の交付を受け、同意書を提出したが、本件においてはこれらの書面の交付はなされていないこと、原告が過去に被告との間で数回にわたり本件と同様の業務委託契約を締結したことを考慮すると、本件契約は形式上は明らかに請負契約であり、原告もこれが雇用契約ではないことを認識していたといえる。
原告が実際に行うべき業務の内容と範囲は具体的に特定されており、その労務は高度の専門的知識や技術を必要とするものであるところ、本件契約には検収や保証期間の定めがあり、仕事の対価として報酬が支払われることが予定されていた。このように、原告が仕事を完成しない場合の危険を負う一方で、派遣労働やシステムエンジニアの仕事の場合と比べて高額の報酬が定められ、報酬は1ヶ月当たり定額とされ、残業代の支払いは予定されていなかったものであり、報酬の支払方法、公租公課の負担を見ても、原告が雇用契約上の労働者と解するのを相当とする事情は認められない。以上によれば、本件契約は雇用契約であると認めることはできないから、原告の主位的請求は理由がない。
2 報酬請求権及び損害賠償請求権の有無
2本のプログラムのうち1本は平成10年11月30日までに完成し、その他の1本は完成したと認めることはできないから、原告は未完成の1本のプログラムについては、被告に報酬を請求できないこととなる。しかし、原告のプログラミング作業は完成間近の状態にあり、本件システムの開発においては、プログラミングの基となる仕様書に問題があったこと、仕様書が何度も変更されたこと、被告が原告から作業環境に問題があると報告を受けていたのに特段の対応をとった形跡がないことからすると、作業の遅れの原因が原告の能力不足のみに起因するものとは認められない。このような事情の下では、プログラムが完成しない責任を原告に負わせることは相当とはいえないし、被告は出来高により原告の報酬を算定していること、H社が原告の仕事を引き継いでプログラミングを完成したことを考慮すると、原告は被告に対し、仕事の出来高に応じた報酬を請求することができると解するのが相当である。
本件システムの開発は、複数の開発担当者が共同して行うものであり、原告の仕事は、そのうちプログラミングの業務であることからすると、本件2本のプログラムの作成における原告の仕事が完成したか否かは、プログラム全体が完成したか否かではなく、仕様書に従ったプログラミングが完成したか否かによって判断されるべきである。本件2本のプログラムのうち未完成の1本は、単体テストを終え、プログラムが仕様書どおりに作動することが確認された段階にあり、完成間近にあったことからすると、その出来高は80%と認めるのが相当である。
原告の被告に対する損害賠償請求は理由がない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例818号90頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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