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国鉄大阪工事局臨時雇用員雇止控訴事件

事件の分類
雇止め
事件名
国鉄大阪工事局臨時雇用員雇止控訴事件
事件番号
大阪高裁 - 平成元年(ネ)第2318号
当事者
控訴人個人1名

被控訴人日本国有鉄道清算事業団
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1991年10月11日
判決決定区分
控訴棄却(上告)
事件の概要
 被控訴人(第1審被告)は、昭和62年4月1日、国鉄の分割民営化に伴い設立され、国鉄の一部債務等を承継した法人であり、控訴人(第1審原告)は昭和47年3月9日、期間を2ヶ月として国鉄大阪工事局に雇用され、その後2ヶ月ごとに契約更新を繰り返し、昭和58年9月30日まで継続勤務した女性である。

 被告の前身である国鉄は、経営破綻に陥ったことから、昭和58年に臨時雇用員制度の廃止をすることとし、再就職斡旋の結果59人中43人が再就職したが、原告は希望聴取の段階から一貫して大阪工事局での継続勤務を希望し、斡旋された再就職先をすべて拒否したところ、国鉄は同年9月30日付けで原告を含む臨時雇用員59名全員を雇止めした。

 原告は、本件労働契約は期間の定めのないものであるから、本件雇止めには整理解雇の法理が適用されるところ、臨時雇用員を一律に第1順位として解雇するのは人選基準に合理性がないこと、国鉄は解雇回避努力義務を尽くさなかったこと、臨時雇用員の一律解雇は女性差別に当たること、労使協議義務を履行していないことなどを主張し、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。

 第1審では、本件雇止めには解雇の法理が類推されるとしつつ、当時の国鉄の状況から考えて、臨時雇用員制度とそれに伴う原告の解雇はやむを得ないものであったとして、請求を棄却したことから、原告はこれを不服として控訴した。
主文
本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
 本件契約は、あくまでも2ヶ月の期間の定めがある雇用契約と認めることができる。もっとも控訴人の職務は大阪工事局における恒常的な業務であって、必ずしも「季節や時間帯によって発生する臨時的業務」には当たらないが、右事実をもって本件契約が期間の定めのない雇用契約であるとすることはできない。また国鉄当局が控訴人に交付した国家公務員等退職票に退職事由として「業務量減少による解雇」と記載し、控訴人に解雇予告書を交付し、解雇予告手当金を供託した事実、また臨時雇用員就業規則に臨時雇用員に対する解雇の定めがあるが、これらは期間満了による雇止めであっても契約期間中の解雇と同じ慎重な手続きを採ったものと解せられるので、右各事実をもって本件契約が期間の定めのない雇用契約であるとすることはできない。また右認定の契約の更新を繰り返すことにより期間の定めのないものに転化したと認めることもできない。しかしながら、本件契約は反復更新されて11年余にわたり継続されてきたことにより、実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたこと、事務補助職の職務内容は正規職員に比して同程度に高度のものとはいえないが、課内の事務処理に当たり必要不可欠なものであったことに徴し、本件雇止めの意思表示は実質においいて解雇の意思表示に当たると解されるから、本件雇止めの効力の判断に当たっては解雇に関する法理を類推すべきである。したがって、大阪工事局において従来の取扱いを変更してもやむを得ないと認められる特段の事情の存しない場合には、期間満了を理由として雇止めをすることは許されないと解するのが相当である。

 国鉄の財政は、昭和57年度において8兆9000億円を超える累積欠損を抱え更に累積傾向にあり、民間企業であれば倒産必至の状況にあるといえる極めて深刻な経営危機に直面したこと、このような赤字を解消し国鉄経営の健全化を図ることは国民経済にとって緊急の課題であったこと、国鉄はその経営を改善するため、業務運営の合理化、設備投資の抑制、要員の削減に努め、更に昭和58年度に入り、新規採用、設備投資の原則停止の方策を実行に移し、大幅な設備投資の抑制が行われたこと、大阪工事局においても余剰人員・人件費の削減を強く要請され、これを避けることができないと考えられる事態に置かれていたこと、以上のような本件雇止め当時に存した客観的事情に照らせば、国鉄が人件費削減のために臨時雇用員制度の廃止を前提とした予算を組んだこと及び大阪工事局が設備投資費の圧縮に対応して原告を含む臨時雇用員59人の雇止めを決定したことには企業経営上の観点から合理性がある。

 控訴人は、臨時雇用員を一律に第1順位として解雇するのは人選基準に合理性がないと主張する。しかしながら、職員と一般事務補助職たる臨時雇用員とは採用形態・条件、職務内容、労働条件等を異にしており、臨時雇用員もその差違を熟知して長年にわたり職員化を要求していたこと、臨時雇用員の職務は職員よりも代替可能であることに徴すれば、簡易な手続きで期間を2ヶ月と定めて採用された臨時雇用員を雇止めする場合と、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない雇用契約を締結した職員を解雇する場合とでは、自ずから合理的な差異があり、臨時雇用員を一律に第1順位として雇止めするのも不合理とはいえない。

 控訴人は、国鉄が解雇回避努力義務を尽くさなかったから、本件雇止めは無効であると主張するが、一般事務補助職を一律に第1順位として解雇することも不合理とはいえないから、本件雇止めに先立ち職員の希望退職者を募集しなくても解雇回避努力義務違反とはならない。また本件雇止め当時、臨時雇用員全員が余剰であり、国鉄の他の部局に配置転換する余地もなく、臨時雇用員制度の廃止が不可欠であったのであるから、控訴人の配転可能性を探求し又は他の臨時雇用員に対して希望退職者を募集しなかったことも、国鉄が控訴人に対し再就職の斡旋をした事実を考慮すれば、解雇回避努力義務違反とはならない。

 控訴人は、臨時雇用員全員の一律解雇は女性を対象とするもので、性別による差別に当たり無効であると主張する。国鉄は昭和24年に女子職員を大量に採用して以来女子職員の新規採用を停止し、昭和52、55年を除き、男女雇用機会均等法が施行されるまで女性を職員として採用しなかったこと、その間事務補助業務は臨時雇用員として採用した女性に担当させていたこと、国鉄労働組合は国鉄当局に対し長年にわたり臨時雇用員の職員化の要求を続け、昭和41年12月17日には組合と当局との間に(1)臨時雇用員が職員採用試験の受験を希望するときは受験の機会を与えるようにする、(2)臨時雇用員は一定の必要ある場合以外は段階的に解消する旨の了解事項が成立したが、女性事務補助職の職員化は遂に実現しなかったこと、国鉄は男女雇用機会均等法施行後女性を職員として採用し始めたことが認められる。これらの事実によれば、国鉄が男女雇用機会均等法施行前に女性を職員として採用しなかったことの当否はともかく、これを違法と断ずることはできないし、雇止めを通告された59人の一般事務補助職中53人が女性であったとしても、それは事務補助職をたまたま女性が担当していた結果であって、臨時雇用員の一律解雇が性別による差別に該当するということはできない。

 更に控訴人は、大阪工事局が国労分会との間で労使協議義務を履行していない旨主張する。一般に、労働協約に整理解雇についての労使間の協議ないし同意条項がない場合でも、使用者は人員整理を進めるに当たって労働組合に実情を説明しその了解を得るよう努力すべき信義則上の義務があると解されるが、認定事実によれば、大阪工事局は臨時雇用員削減問題について国労分会の了解を得るべく十分尽くすべき措置を講じたにもかかわらず、なおその了解を得られなかったことが認められ、労使協議を履行していないとはいえないと解するのが相当である。

 以上によれば、国鉄及び大阪工事局において臨時雇用員に対し従来の取扱いを変更して雇止めをする事もやむを得ない特段の事情が存在しなかったものとは認められず、他方、本件雇止めを無効とすべき事由はない。したがって、本件労働契約は、昭和58年9月30日の経過をもって期間満了により終了したというべきである。

 控訴人の解雇権の濫用の主張の1つは、控訴人ら女性は、国鉄が労働基準法、旧国鉄法等を潜脱する目的で女性を臨時雇用員としてしか採用せず正規職員になる途を閉ざされていたため、やむを得ず臨時雇用員として採用され、正規職員よりも劣悪な労働条件のもとで正規職員と同等の仕事をしていたにもかかわらず、臨時雇用員である女性事務補助職を職員に先立ち期間満了として雇止めすることは解雇の濫用であると主張するものと解されるが、本件雇止め当時の事情に照らし、臨時雇用員である女性事務補助職を職員に先立ち雇止めすることが合理性に欠けるものといえないことは、前記認定の通りであり、控訴人の解雇権の濫用の主張も採用することができない。
適用法規・条文
男女雇用機会均等法
収録文献(出典)
労働判例600号53頁
その他特記事項
本件は上告されたが、原判決に違法はないとして棄却された(最高裁-平成4年(オ)79号 1992年10月20日判決)