判例データベース
H学園専任講師雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- H学園専任講師雇止事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和62年(ワ)第4842号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 学校法人H学園 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1992年03月31日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 原告は、昭和55年4月から非常勤講師として被告に勤務し、昭和56年4月には非常勤講師契約を更新し、昭和57年4月に男子部の専任講師となり、昭和58年4月に女子部の専任講師となって以降昭和61年3月まで専任講師として勤務してきた。
被告は、原告に対して昭和61年3月31日付けの人事発令通知書を送付し、委嘱期間満了により職を解く旨通知したところ、原告は、本件労働契約に1年間の期間の定めがあったとしても、憲法14条、労働基準法3条、教育基本法6条2項の精神に照らし、民法90条に違反する公序良俗違反であること、本件労働契約は期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたもので、その場合の雇止めの効力の判断に当たっては解雇に関する法理を類推すべきであるところ、合理的な理由はないこと、被告では本件雇止め以前に雇止めされた専任講師は存在しないこと等を挙げて、解雇の無効による地位確認と昭和61年度の賃金及び賞与の支払いを請求した。
一方被告は、本件労働契約は1年契約であり、期間満了によって終了したこと、仮に専任講師を更新しないことに何らかの理由が必要であるとしても、原告は生徒、父母からの信任が著しく低く、学園に対し頻繁に苦情が寄せられていたこと、欠勤や遅刻が多いこと、同僚との間で著しく協調性を欠いていたこと、女子部の生徒に男子部の生徒を同道するよう取り計らったことが男女交際を禁ずる被告の教育方針に反することから注意したのに対し、ふて腐れた態度をとったこと、女子部において1クラス減少することから女子部国語科教員を1名削減する必要があったことなどから、本件雇止めには合理的理由があると主張して争った。 - 主文
- 1 原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、金284万1000円及び昭和62年4月1日以降、毎月25日限り、金23万6750円を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 原告は、本件労働契約は期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたと主張するが、更新の手続きは厳格に行われていたものであるから、本件労働契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものということはできない。しかし、専任講師の職務内容及び労働条件は同一であること、専任講師制度の主たる目的は被告の教員の資質向上にあったこと、被告の事務長が、雇止めを行うのは教師として重大な欠陥があるか身体の状況からみて勤務ができない場合のみであるという趣旨の継続雇用を期待させるような説明をしたこと、本件雇止め以前に雇止めされた専任講師は存在しないこと等を総合して考慮すると、専任講師契約はある程度の継続が期待されていたものであり、原告との間にも3回にわたり専任講師契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間の満了によって雇止めするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、雇止めが社会通念上妥当なものとして是認できないときには、その雇止めは信義則上許されないといわなければならず、その場合には期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたと同様の法律関係となるものと解すべきである。
被告は、原告が生徒、父母からの信任が著しく低く、学園に対し頻繁に苦情が寄せられていたというが、野球部の選手2人が留年となったことを契機として生徒の父母から被告に対し非難が寄せられるようになり、昭和60年頃には被告の教職員に対する内容が真実であるか否か不明の苦情、批判が数多く寄せられていたから、原告について苦情が寄せられていたとしても、原告に対する苦情が特に頻繁であるということはできず、原告が生徒、父母からの信任が著しく低いということはできない。
原告の昭和60年度における遅刻10回、欠勤13日という回数はやや多いものの、その原因は病気であったこと、欠勤13日はいずれも有給休暇に振り替えられていること、原告の遅刻、欠勤によって授業に大きな影響が出ていないことを考慮すると、昭和60年度における遅刻10回、欠勤13日という事実を原告の雇止めに当たって重視することは妥当ではないといわなければならない。
原告が担任をしていたクラスの女子生徒が通学車内で常時痴漢に遭い、これを通報したところ警察の事情聴取を受けてショックを受け欠席するようになったことから、原告は近所に住む男子生徒に同道してもらうことにしたところ、被告は男女交際を禁止している教育方針に反するとして原告に注意したが、その際原告が「では、どうしたらいいんですか」と尋ねたことは自然であり、上司に対する反抗的態度とはいえず、原告が協調性を欠いていたということはできない。
被告は、昭和61年度に女子部において1クラス減少になることから、女子部の国語科の専任講師を1名減員する必要があった旨主張するが、教員の週間持時間数18時間の目安を下回るのが1時間の者が4名、2時間の者が1名にすぎないこと、女子部の教員は校務分掌を2つ兼務しなければならなかったことからすれば、直ちに専任講師を1名減員する必要があったと認めることはできない。
原告は、教材研究や教科の指導方法の研究に熱心であり、創意工夫をしてわかりやすい授業を行うように努力していた。昭和58年度から60年度まで、原告は短大の進学指導を行い、入学試験に関する情報を収集整理して生徒の進学指導を丁寧に行っており、学級運営、校務分掌としての進路指導部及び生徒会指導部の仕事、バスケットボール部の顧問としての仕事を熱心に行い、同僚教諭たちからも、教育に対する情熱、教員としての資質を評価されていた。したがって、原告は教員としての能力に劣るということはできず、少なくとも平均を下回らない能力を有していたものというべきである。
以上を総合して考慮すると、本件雇止めは社会通念上妥当なものとして是認することはできず、信義則上許されないものというべきであり、原告と被告との間の法律関係は、従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係になるものと解すべきである。
原告は、昭和60年度において毎月23万6750円の賃金を受けていたから、昭和61年度の賃金額は284万1000円となる。原告は昭和60年度の夏期賞与として41万9706円を、冬期賞与として70万3104円を支給されたことが認められるが、被告においてどのような基準で賞与が支給されたのかは証拠上明らかでなく、昭和61年度以降の賞与については原告の主張する額の支払いが原告に対してなされなければならないことについての証明はないものといわざるを得ない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例605号27頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|