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吹田市教委(H小学校)女子職員暴行事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 吹田市教委(H小学校)女子職員暴行事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成元年(行ウ)第9号
- 当事者
- 原告個人1名
被告吹田市教育委員会 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1992年08月31日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 原告は昭和47年5月、被告により学校給食員に任用され、昭和61年4月から市立H小学校に勤務していた。原告は常日頃同僚調理員から離れて行動することが多く、特に昭和63年4月に赴任してきた女性職員Nと反りが合わなかった。原告は糖尿病等を理由に、同僚に告げずに欠勤することがたびたびあり、ミーティングにも積極的に参加しないため、同僚調理員から不満が出ていた。
原告は昭和63年8月1日の午前中出勤せず、同月8日も出勤しなかったので、Nは原告の出勤簿にそれぞれ「無断欠勤」と記入した。原告は同月15日出勤した際、出勤簿の「無断欠勤」の記載を発見し、事前に欠勤の承認を得ているとして校長にその記載を消すよう求め、校長はこれを認めた。同日原告は、同僚に翌16日の年休の届出を依頼し出勤しなかったところ、Nは同日の出勤簿にまた「無断欠勤」と記入した。翌17日に出勤した原告は、「無断欠勤」の記載が抹消されていないばかりか、新たな記載がされていることを知って立腹し、談話室で他の調理員と談話中のNに対し強い口調で「何が無断欠勤やねん」と言い、持っていた匕首を畳の上に刺した。これに対しNが反論したので原告は更に激高し、Nの襟元を掴み、匕首を首の辺りに突きつけ、刃先がNに触れる状態でNを壁際に押し付けた(本件行為)。この様子を見て、他の調理員が原告の手から匕首を取り上げ、Nから引き離した。
被告は、本件行為が地方公務員法29条1項3号の「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」に当たるとして、同年10月31日、原告を懲戒免職処分とした。
これに対し原告は、本件行為の原因はNが原告の出勤簿に勝手に「無断欠勤」と記載し、校長がその抹消を約束しながら職務怠慢のためにNが更に同じ行為に及ぶのを阻止しなかったことにあること、本件行為は偶発的なものであり、原告はカッとなって無意識に短刀を持ったままNに歩み寄ったにすぎず自発的に短刀を他の調理員に渡したこと、原告が本件行為につき深く反省していること、既に相当程度の制裁を受けていることを主張し、懲戒免職処分は不当に重すぎると主張したほか、N及び校長に対する懲戒処分がなされない中原告だけを処分するのは平等原則に反するとして、同処分の取消しを求めた。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 本件行為はNが原告の出勤簿の押印欄に勝手に「無断欠勤」と記入したことが原因となっているものの、勤務場所において同僚の首の辺りに匕首を突きつけて威嚇するという行為態様の悪質性に照らすと、本件行為は地公法29条1項3号の定める「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」に該当すると認めることができ、原告に対する懲戒事由になるというべきである。
地方公務員に法定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されている。この裁量は恣意にわたることができないことは当然であるが、懲戒権者がこの裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。
本件行為の態様の悪質性に照らせば、本件行為に至った経緯、原告の主張する本件行為後の事情、及び免職処分が最も程度の重い懲戒処分であって慎重な配慮を要するものであることを考慮しても、本件免職処分が不当に重すぎ懲戒権者に任された裁量の範囲を超えるものであるとはいえない。Nに対し、原告の出勤簿の押印欄に権限なく「無断欠勤」と記入したことを理由とする懲戒処分がなされておらず、校長に対し、「無断欠勤」の記載を消すことを約束しながら直ちにそれを行わなかったことを理由とする懲戒処分がなされていないが、本件との関連でN及び校長の行為に意味があるのは、それが本件行為を誘発した一因となっていることのみであり、N及び校長が懲戒処分を受けず原告のみが懲戒免職処分を受けたとの事実は、裁量権の濫用の判断に影響しない。 - 適用法規・条文
- 地方公務員法29条1項
- 収録文献(出典)
- 労働判例618号24頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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