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S社長崎雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
S社長崎雇止事件
事件番号
長崎地裁大村支部 - 平成4年(ヨ)第26号
当事者
その他(債権者)個人1名
その他(債務者)株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1993年08月20日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、半導体及びその関連機器の製造・販売等を業とする会社であり、債権者は、昭和63年7月27日から平成元年1月26日までの間債務者に雇用され、専ら夜勤の半導体業務に従事し、同年7月26日まで更新され、その後は各年7月27日から1年間ずつ再雇用されて、継続的に雇用されてきた。

 債務者は昭和62年の創業以来慢性的な人手不足が続き、有期社員についても退職を防ぐため慰留に努めたが、平成3年後半から急激に景気が悪化し、余剰人員が発生したことから、平成5年には、(1)正社員、有期社員の新規採用の停止、(2)超過勤務の縮小、(3)外注委託・派遣社員の削減、(4)新しい業法の拡大、(5)研修実施による余剰工数の吸収、(6)正社員の他社への出向の方針を立て、このような中で、従来は簡単な確認で再雇用させていた有期社員についても、厳格な評価に基づいて再雇用の可否を判断するように各職場に指示した。債権者が所属する製造一課では、A〜Dの4段階評価をしたところ、債権者は、(1)大変ミスが多い、(2)決められた作業手順によらず、リーダーの指示に従わず、ケアレスミスが多い、(3)職場離脱が多く、仕事に対する真摯な態度がみられない、(4)新入の有期社員など職場の士気を低下させる言動があるなどから評価は最低の「D」であり、債権者ともう1名の有期社員が再雇用不可とする申請書が人事課に提出された。債務者はこうした申請書を基に、平成4年6月24日、債権者に対し再雇用しない旨通告した。
 債権者は、本件雇用契約における期間の定めは形式的なものか、解雇制限法理を回避するためのものであり、債権者は定年まで雇用されるものと信頼していたこと、本件雇用契約は当初から期間の定めのない契約もしくは再雇用以降は期間の定めのない契約に転化したと解するべきであるところ、債務者は扱いにくい人物である債権者を解雇したものであって、その解雇は無効であるとして、雇用契約上の地位にあることの確認と賃金の支払いを請求して仮処分の申立を行った。
主文
1 債権者の本件仮処分命令の申立てはいずれも却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。
判決要旨
 本件雇用契約が5回にわたり反復更新されたこと、有期社員について雇用関係のある程度の継続が期待されていたことが認められるが、正社員と有期社員について明確に区別がなされていたことに照らすと、雇用関係継続の期待の下に期間の定めある労働契約が反復更新されたとしても、当事者双方期間の定めのない労働契約を締結する旨の明示又は黙示の合意がない限り、期間の定めのない契約に転化するというものではない。本件においては明示又は黙示の合意を認めるに足りる疎明はない。

 有期社員就業規則48条4項に「残存年次有給休暇は翌年に限り繰り越すことができる」とあり、給与規則では基本給を決めるに当たって、勤続年数が考慮要素の一つとされていることの疎明がある。しかし、債務者が好況時には、人手を確保するため、有期社員に再雇用継続した場合を与えようとしている態度が伺われるものの、不景気に突入した際の有期社員制度の景気調整弁の機能を放棄し、有期社員との館で期間の定めのない労働契約を締結しようとする明示又は黙示の合意について疎明ありとすることは困難である。

 本件雇用契約が5回にわたり反復更新されたこと、有期社員についてある程度の継続が期待されていたことから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかったならば、期間満了における使用者と労働者の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係になるものと解せられる。しかし、有期社員の雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正社員を解雇する場合とは自ずから合理的な差異があるべきである。

 

 債権者がスキップキーを試用したことで、職場上司の注意を受けたことは動かし難いし、債権者はその上司による「エラーが2回発生したにもかかわらず、工程リーダーへ連絡せず、リセットボタンを押し着工を継続し」との指摘があり、上司らは何らの資料も根拠もなしに債権者のミスについて判断している訳ではないと認められ、また引継ぎノートの記載を見落とした点は債権者自身肯定していることが認められ、債務者としては債権者の上司の一応の根拠に基づく判断を基礎として、債権者の再雇用の可否を判断していることについて疎明がある。よって、債権者の本件雇止めは事実無根のいいがかりを理由とする無効な解雇である旨の主張は採用できない。

 債務者が雇用調整に当たって、有期社員について、できる限り自然減に任せ、雇止めを2名に止めている状況については、有期社員の期間満了に当たって、何名の、あるいはどの社員を雇止めにするかは、企業の経営判断に基づく裁量的判断であることから、その裁量の限界を逸脱する、あるいは裁量を濫用するといった事情について疎明がない以上、右の状況をもって不当というのは当たらず、本件雇止めをもって整理解雇であると認めるに足りる疎明もない。
 債務者が債権者について再雇用を不可と判断するに至った過程に、解雇権の濫用、信義則違反又は不当労働行為に該当する事実は認められず、債務者がその有期雇用者就業規則にいう「事業の縮小または業務の都合によって剰員となったとき」に該当すると判断し、債権者上司の一応の資料に基づく判断に加え、債権者上司やや同僚社員からの聞き取り調査に基づいて再雇用を不可とした判断に、その裁量の限界を逸脱あるいは裁量を濫用したとの事情はなく、再雇用拒否は正当である。よって、債権者が、本件雇止めは無効であるとする主張は理由がないから、債権者と債務者との間の本件雇用契約は、平成4年7月26日をもって期間の満了により終了したというべきである。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例638号44頁
その他特記事項