判例データベース
C会S病院配転拒否解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- C会S病院配転拒否解雇事件
- 事件番号
- 横浜地裁 - 平成7年(ワ)第1624号 地位確認等請求、横浜地裁 - 平成8年(ワ)第204号 一時金支払請求
- 当事者
- 原告 個人6名 A、B(男性)、C、D、E、F
被告 医療法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1998年01月27日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告は、S病院を経営する医療法人であり、原告らはいずれも期間の定めなく被告に雇用されて同病院に勤務していた者である。また、原告らは、いずれも神奈川県医労連傘下の相模原南病院労働組合(組合)の組合員である。原告Aは平成2年10月8日に雇用されて相談室でケースワーカーとして勤務し、原告Bは、平成5年7月1日に雇用されて相談室で事務職として勤務し、原告Cは昭和57年6月30日に被告に雇用されて歯科で事務職として勤務し、原告Dは平成2年7月23日に雇用されて事務部医事課で事務職として勤務し、原告Eは平成4年4月13日に雇用されて平成6年11月30日までは事務部医事課で事務職として勤務し、原告Fは平成2年5月28日に雇用された平成6年11月30日までは事務室医事課で事務職として勤務していた。
被告は、原告Aに対し平成6年9月1日付けでナースヘルパーへの配転を命じたところ、原告Aはケースワーカーとナースヘルパーとは職種が違うとして、配転の説明を求めたが、業務命令と回答するのみであったことから、ケースワーカーの職務を続けた。そこで被告は、相談室の電話を取り外したり、関係書類を運び出すなどして原告Aがケースワーカー業務ができないようにした。また、原告Aは本件配転問題を契機に原告B~Fらと共に同年9月2日、県医労連に個人加入し、同月21日組合を結成して県医労連に加盟した。
組合及び医労連と被告は地労委のあっせん員を立会人として、(1)相談室業務を従来の体制に戻す、(2)原告Aの配転については今後労使双方で解決する、(3)県医労連と被告は、誠実な交渉を行い、良好な労使関係の構築に努めるとの合意がなされた。その後、被告は原告Aに対し、同年9月1日の配転命令を拒否したことは服務命令違反に当たる等として同年10月21日に解雇を通告した。被告は、原告Bに対し、週1回の業務日報、渉外日報の提出を指示されていたにもかかわらず、何の報告もなかったこと、重要な情報交換手段である渉外日報が途絶えたことのよる業務上の支障は大きいこと、業務上の命令に違反したことを理由に同年11月8日付けで解雇を通告した。
原告らは、同年11月26日、小田急相模大野駅付近で、被告に対する抗議のビラまきを行ったところ、被告は原告Cに対し、同年11月29日付け書面により、ビラをまいて事実に反する内容を宣伝流布し、病院の信用と名誉を著しく傷つけたとして、同月30日付けで懲戒解雇をする旨通告した。被告は、同月30日の朝礼において人事異動を発表し、原告D、同E及び同Fをナースヘルパーとして配転する旨発表し辞令を交付した。これに対し原告Dらが配転を拒否したことから、被告は就業規則違反として懲戒解雇した。
原告らは、本件解雇について、(1)解雇すべき事由がない、(2)解雇権の濫用である、原告らの組合活動を理由とする不当労働行為であるなどと主張し、解雇の無効と賃金及び一時金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告らが被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告らに対し、別紙債権目録1の金員をそれぞれ支払え。
3 被告は、原告A及び原告Bに対し、平成6年12月から毎月25日限り、別紙債権目録2の金員をそれぞれ支払え。
4 被告は、原告C、原告D、原告E及び原告Fに対し、平成7年1月から毎月25日限り、別紙債権目録2の金員をそれぞれ支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 この判決は、金員の支払を命ずる部分に限り、仮に執行することができる。
7 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告らの、その余を被告の負担とする。 - 判決要旨
- 県医労連と被告との間の協定は、原告Aの処遇については、相談室での業務に戻すことについて労使間で合意した上で、従前原告Aが行っていたケースワーカーの職務を1ヶ月ぶりに再開させることに関し、受持の思想者の動向、生活保護の患者の預かり金の処理等業務の引継ぎ手順等、ケースワーカーの職務を再開するに当たっての具体的な業務について、労使間で誠実に協議を重ねていくことが暫定的に合意する趣旨であったと認められる。被告は、原告Aや組合、医労連との間で原告Aがケースワーカー業務に就かないとの合意が存在していたと主張するが、その事実は認められない。被告は、原告Aがケースワーカーの職務を行ったと主張するが、原告Aが行ったという職務は、入院患者の家族と連絡を取るようにとの指示に対し消極的な意見を述べたこと等であり、相談室の業務を再開するまでの過渡的な行為として不適切ともいえず、被告の業務が阻害されたとも認められないから、原告Aが協定に反しない限りの最低限必要な範囲で業務を行うことについてはやむを得ない面もあると考えられる。そうだとすると、原告Aに就業規則の解雇事由があるとの被告の主張は理由がない。
被告は、渉外日報を原告Bが取りまとめて提出する必要性や業務日報を作成・提出する必要性を明らかにしていないし、これらが提出されないことによる業務阻害の有無及び内容を明らかにしていないことに加え、これらの提出の督促もないまま解雇通知に至っていることからしても、渉外日報及び業務日報の提出を原告Bに指示する必要性、合理性についての疑問を払拭することはできない。したがって、原告Bにつき就業規則の解雇事由があるということはできない。
労働組合が組合員に対してのみならず、その支援者や一般人に対してビラを配布する等の方法により、宣伝活動を行い又は支援を訴えることはもとより正当な組合活動であり、使用者に対する抗議や要請行動を呼びかけることも、それが組合活動に籍口して使用者に害を加える目的から出たものでない限りは、正当な組合活動といって妨げない。そして、使用者に対する抗議や要請行動の呼びかけが正当な組合活動と認められる限りは、使用者の電話番号やファクシミリ番号を開示しても許されるというべきである。
これを本件についてみるに、本件ビラの記載が被告に対する加害目的からなされたことを認めるに足りる証拠はなく、原告らが抗議や要請行動の相手先として、相模原南病院の電話番号及びファクシミリ番号を表示したことを不当ということはできず、そのことが正当性を逸脱した組合活動であるとまではいうことができない。以上のとおり、原告Cが本件ビラに右のような記載をしたことをもって就業規則の解雇事由に該当するということはできない。
原告D及び原告Eは医療事務職員として、原告Fは薬局助手として採用されたが、求人情報誌に記載する募集の職種の表示は、あくまでも採用時における担当業務の内容を示すものに過ぎず、したがって、右原告らの採用の際の事情を考慮してもなお、右原告らと被告との間の労働契約が右原告らの職種がその主張のように医療事務職員ないし薬局助手と限定されていたとは、たやすく認め難い。しかしながら、身体に不自由がある患者を直接の相手方とする労務的作業を職務内容とするナースヘルパーの仕事は、医療事務ないし薬局助手の職務とは、根本的に異なるというべきである。被告においては、平成6年12月1日以前にも異職種間で配転がなされておらず、同日付けの人事異動でも80人を対象としながら、原告D、同E及び同C以外に異職種間配転に従業員はいなかった。
右に述べた事情を総合すると、被告は、原告D、同E及び同Cに対し、労務指揮権に基づいて、現に従事している業務の担当から異なる職種間の配転を命ずることができ、右原告らもこれに応ずべき義務があるというべきであるが、少なくとも事務的作業の職種から労務的作業の職種への配転を命ずるには、客観的にみてそのような職種の範囲を超えて配置換えを命ずる必要性と合理性が存し、かつその点についての十分な説明をするのでなければ、一方的に労働契約の内容を変更するものというべきであって、就業規則の定めにもかかわらず、これをなし得ないというべきである。したがって、右原告らには就業規則所定の異動を拒むべき正当な理由があったということができ、右原告らが被告の配転命令を拒否したことをもって就業規則の解雇事由があるということはできない。したがって、本件各解雇はいずれも無効である。
被告の授業員に支給される一時金は、就業規則、給与規定等により支給条件が明確に定められ、労務を提供すればその対価として具体的な請求権が発生する賃金とは性格を異にするものであり、従業員と被告との間において金額及び算出基準等の支給について具体的な合意と被告の査定の意思表示がない限り、具体的な請求権として発生するものではないと解するのが相当である。これを本件についてみるに、6年度協定及び7年度協定締結時において解雇されていた原告らについてこれを支給対象者に含めるか否かについては、協定上明文の定めはない。そうすると、原告らがこれら協定において、各一時金の支給対象とされていたか否かは、原告らが協定において支給対象者とされた「賞与支給日在籍者」に該当するか否かの解釈にかかることになる。しかして、原告らに対する本件各解雇はいずれも無効であるから、法律上原告らと被告との間の各労働契約は有効に存続しているものというべく、協定にいう在籍者に当たると解するのが相当である。
しかしながら、被告の賞与規定において、賞与を支給する場合は全額人事考課査定とすると定められており、7年度協定及び6年度協定においても全額人事考課査定とすることが合意されているから、平成6年度年末及び平成7年度夏季の一時金については、被告の裁量による個別的な意思表示をもって初めてその請求権が発生するものというべきである。そして、本件においては、被告が原告らに係る各一時金について査定の意思表示をしたことを認めることはできない。したがって、原告の本訴請求に係る各一時金については、その請求権はない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例761号126頁
- その他特記事項
- 本件は原告、被告双方から控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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横浜地裁 - 平成7年(ワ)第1624号 地位確認等請求、横浜地裁 - 平成8年(ワ)第204号 一時金支払請求 | 一部認容・一部棄却 | 1998年01月27日 |
東京高裁 - 平成10年(ネ)第835号 | 一部認容・一部棄却(上告) | 1998年12月10日 |