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U社解雇・年休取得控訴事件

事件の分類
解雇
事件名
U社解雇・年休取得控訴事件
事件番号
東京高裁 − 平成10年(ネ)第3067号
当事者
控訴人 個人2名 A、B
被控訴人 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1999年08月17日
判決決定区分
一部認容・一部棄却・一部変更(上告)
事件の概要
 被控訴人(第1審原告・反訴被告)は、一般労働者派遣業務等を業とする会社であり、控訴人(第1審被告・反訴原告)Aは平成6年1月17日から被控訴人に雇用され営業に従事した男性、控訴人Bは被控訴人から派遣労働者として派遣され、平成6年9月16日から平成7年6月16日まで労務を遂行した女性である。

 被控訴人の就業規則には、営業職に営業手当と時間外割増賃金(会議とスタッフフォロー業務のみを対象とする)を支給すると規定されていたが、割増賃金の支払いは会議への出席のみに限られ、営業手当の算定にも残業時間が考慮されることはなかった。こうした扱いに不満を持つ控訴人Aは、就業規則に定められた残業手当の支払いを求めて労働基準監督署に申告していたところ、被控訴人はその一部を支払った。しかし、控訴人Aは被控訴人が未払い営業手当は支払ったが、未払い時間外労働時間については払おうとせず、営業部長が理由も示さずに4月30日付けで解雇する旨通告したが、これは控訴人Aが労働基準監督署に申告したことに対する報復であるから、労基法104条2項に違反して無効であるとして、地位確認と未払いの残業手当及び5月1日以降の賃金549万8932円の支給を請求した。

 一方、控訴人Bは、平成7年3月から5月にかけて9日間年次有給休暇を請求したが、被控訴人はそれを認めずその日分を欠勤扱いとしたことから、控訴人Aはその日分の賃金相当額9万7875円を請求した。
 第1審では、被告Aは平成7年4月30日で雇用関係が終了したから同年5月1日以降の賃金請求は理由がないこと、就業規則上営業手当には残業手当は含まれていないから、スタッフフォロー業務に対する残業手当8万円余の支払義務があるとして、原告に対しその支払いを命じた。また被告Bについては、年次有給休暇を請求しなかったとして、9日分の賃金の支払いを認めなかったことから、被告らはこの判決を不服として控訴した。
主文
1 原判決中、反訴に関する部分を次のとおり変更する。

2 被控訴人は、控訴人Aに対し、金76万6428円及びうち金38万3214円に対する平成8年9月10日から支払済みまで年6分の割合による金員を、うち38万3214円に対する本判決の確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被控訴人は、控訴人Bに対し、金9万7875円及びこれに対する平成8年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 控訴人Aの被控訴人に対するその余の反訴請求及び控訴人Bの被控訴人に対するその余の損害賠償反訴請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、第1、2審を通じて、控訴人Aと被控訴人との間では、控訴人Aに生じた費用の20分の17と被控訴人に生じた費用の20分の17を控訴人Aの負担とし、その余の費用を被控訴人の負担とし、控訴人Bと被控訴人との間では、全部被控訴人の負担とする。
判決要旨
1 控訴人Aの地位確認請求について

 控訴人Aが積極的に退職を希望したり、明確に退職を承諾したとはにわかに認め難いが、営業部長が控訴人Aに対し担当する顧客を他の営業担当に引き継ぐよう指示し、控訴人Aもこれを承諾したこと、その後控訴人Aは引継ぎ、残務整理を行い、歓送迎会に出席して退職を前提の挨拶をし、4月30日を最後に出勤しなくなり、直ちに求職活動を行って5月中旬には他の会社に就職していること、その後5月30日付けで被控訴人に提出された要求書にも現職復帰は明示されていないことなどの事情に照らすと、本件雇用契約は、平成7年4月3日に控訴人Aと被控訴人との間で同月30日をもって同契約を解約する旨の合意がされたことにより、同日をもって合意解約されたものというべきである。

2 控訴人Aの割増賃金等の請求について

 平成4年11月における残業手当及び営業手当に関する取扱変更については、就業規則の関係規定を改めなかったため、賃金規程の関係規定に反するものであったというべきである。就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効であり、無効となった部分は就業規則で定める基準による(労基法93条)から、仮にその取扱変更について控訴人Aと被控訴人との間で合意がされたとしても、その合意は無効であるというべきである。

 平成4年11月の取扱変更以前の営業手当は、営業職の技能に対する手当であったと解するのが相当であるところ、取扱変更後の営業手当は、変更の経緯、変更後の営業手当の決定の基準等に照らすと、従来からの技能に対する手当という性格に、営業実績に対する手当という性格を加えたものとして支給されるに至ったと認めるのが相当である。被控訴人は、時間外のスタッフフォロー業務に対する対価は、取扱変更後の営業手当に含まれると主張するが、その後の運用においては、営業手当の額を決定する際の前提事情としては、その7、8割の比重で実際の売上高、新規顧客開拓数等の営業成績が考慮されていたのであり、時間外労働の時間は考慮されていなかったのであるから、一般的には、変更後の営業手当は、主として営業職の技能に対する手当及び営業実績に対する手当としての性格を有するものであり、時間外労働に対する対価部分が右営業手当に含まれていたということはできない。以上によれば、本件計算期間中の営業手当(1ヶ月3万円)は、時間外労働単価及び深夜労働単価算定の基礎となる賃金に含めるべきであり、またこの営業手当の支給によって、時間外労働手当及び深夜労働手当の一部が支払われたと認めることもできない。

 なお、被控訴人の就業規則(賃金規程)は、「営業は、会議及びスタッフフォロー業務のみを時間外労働割増賃金の対象とする」と定めており、それ以外の時間外労働には割増賃金を支払わない趣旨にも読めるが、そうであるとすれば、その限りで同規定は労働基準法37条1項に違反して無効であり、同条項の定める基準が労働契約の内容となるから(労基法13条)、同法37条1項の定める時間外労働に該当するものであれば、控訴人Aは時間外労働手当及び深夜労働手当を請求することができるというべきである。

3 控訴人Bの請求について

 労働基準法39条1項は、「雇入れの日から起算して6箇月継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対し」10労働日以上の有給休暇を与えなければならない旨規定しているところ、控訴人Bは平成7年3月15日の経過により被控訴人に「6箇月継続勤務し」たということができる。「全労働日の8割以上の出勤」という要件について検討するに、当時被控訴人は、控訴人Bのような派遣労働者について、被控訴人における就業日を基準として、半年間で800時間就業しなければ年休権を取得しないとの扱いをしていたものである。しかし、労働基準法39条1項の規定が「全労働日の8割以上の出勤」を年休権取得の要件としたのは、労働者の勤怠状況を勘案して、特に出勤率の低い者を除外する趣旨であると解されるから、控訴人Bのような派遣労働者の場合には、使用者から派遣先において就業すべきであると指示された全労働日、すなわち派遣先において就業すべき日とされている全労働日をもって右の「全労働日」とするのが相当である。したがって、被控訴人の右取扱いは、労働基準法39条1項に規定するものであったというべきである。

 控訴人Bは右6箇月間に全労働日の8割以上に出勤したものと認めることができるから、勤務開始から6ヶ月を経過した平成7年3月16日の時点において10日の年休権を取得したものというべきである。被控訴人は、労働基準法39条1項に違反する取扱いにより、控訴人Bに対しあらかじめ年休用のチケットを交付せず、かつ、控訴人Bの年休取得の要請を拒否したものであるから、被控訴人は控訴人Bの年休権を違法に侵害したものというべきであり、この点について被控訴人に過失があったことも明らかである。したがって、被控訴人の右行為は不法行為を構成するから、被控訴人はこれにより控訴人Bに生じた損害を賠償する義務がある。控訴人Bの時給は1500円であり、1日の労働時間は7.25時間であったと認められるから、9日分の通常の賃金額は9万7875円であり、この額が右不法行為による損害ということができる。
適用法規・条文
民法709条、
労働基準法13条、37条1項、39条1項、93条、104条2項
収録文献(出典)
労働判例772号35頁
その他特記事項
本件は上告された。