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地公災愛知県支部長(Z小学校教員)脳内出血死上告事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災愛知県支部長(Z小学校教員)脳内出血死上告事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 最高裁 − 平成4年(行ツ)第70号
- 当事者
- 上告人 個人1名
被上告人 地方公務員災害補償基金愛知県支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1996年03月05日
- 判決決定区分
- 破棄・差戻し
- 事件の概要
- 小学校の教諭であるK(昭和19年生)は、ポートボールの指導中、特発生脳内出血を発症し、病院で手術を受けたが死亡した。
Kの妻である上告人(第1審原告、第2審被控訴人)は、Kの死亡は過重な公務に起因するものであるとして、被上告人(第1審被告、第2審控訴人)に対し、遺族補償等の請求をしたが、被上告人は公務外の認定をして不支給決定(本件処分)とした。上告人はこれを不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて提訴した。
第1審では、Kの死亡は公務に起因するものであるとして、本件処分を取り消したが、第2審では、Kの死亡の公務起因性を否定して第1審判決を取り消したことから、上告人がこれを不服として上告した。 - 主文
- 原判決を破棄する。
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。 - 判決要旨
- 特発性脳内出血は、破裂した微細な血管部分から微量の血液が徐々に浸出するもので、出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かるというのである。そして、血圧の変動が出血の態様、程度に影響を及ぼすことがあると窺われ、また肉体的又は精神的負荷が血圧変動や血管収縮に関係し得ることは経験則上明らかであるから、出血の態様、程度が血管破裂後に当人が安静にしているか、肉体的又は精神的負荷が掛かった状態にあるのかによっても影響を受け得るものであることを否定することはできない。そうすると、出血開始時期がポートボールの試合の審判をする以前であったとしても、右審判による負担やこれによる血圧の一過性の上昇等が出血の態様、程度に影響を及ぼす可能性も十分に考えられるところである。また、午前中の段階でKは身体的不調を訴えていたのであるから、出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かるという特発性脳内出血の性質からして、直ちに診察、手術を受ければ死亡するに至らなかった可能性ももとより否定し難い。結局、出血開始後の公務の遂行がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となったことにより、又はその間の治療の機会が奪われたことにより死亡の原因となった重篤な血腫が形成されたという可能性を否定し去ることは許されず、したがって、原審がこれらの可能性の有無について審理判断を尽くさないまま、死亡と公務との間の因果関係の判断に当たっておよそ出血開始後の公務は無関係であるとしたのは、早計に失するものといわなければならない。
そして、Kは、当日朝、体調の異変に気づきながら、ポートボールの練習指導や授業等を行っており、しかも審判の交代を2度にわたって申し出ながら、それが聞き入れられず、やむなくポートボールの試合の審判を担当したというのである。右事実関係からすれば、Kはポートボール練習指導の中心的存在であり、他に適当な交代要員がいないため、やむを得ずポートボールの審判に当たったことが窺われる。そうすると、仮に前記の可能性が肯定されるならば、Kの特発性脳内出血が後の死亡の原因となる重篤な症状に至ったのは、午前中に脳内出血が開始し、体調不良を自覚したにもかかわらず、直ちに安静を保ち診察治療を受けることが困難であって、引き続き公務に従事せざるを得なかったという、公務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができる。
以上によれば、出血開始後の公務の遂行が特発性脳内出血の態様、程度に影響を与えた可能性、死亡に至るほどの血腫の形成を避けられた可能性等の点について審理判断を尽くすことなく、前記のような説示をしただけで出血開始後の公務は無関係であるとして公務起因性を否定した原審の判断には審理不尽又は理由不備の違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法31条
- 収録文献(出典)
- 労働判例689号16頁
- その他特記事項
- 本件は名古屋高裁へ差し戻された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
名古屋地裁 − 昭和58年(行ウ)第6号 | 認容(控訴) | 1989年12月22日 |
名古屋高裁 − 平成2年(行コ)第1号 | 原判決取消(控訴認容) | 1991年10月30日 |
最高裁 − 平成4年(行ツ)第70号 | 破棄・差戻し | 1996年03月05日 |
名古屋高裁 − 平成8年(行コ)第5号 | 原判決取消(控訴認容) | 1998年03月31日 |