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地公災基金大阪府支部長(M警察署警察官)急性心疾患死亡事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金大阪府支部長(M警察署警察官)急性心疾患死亡事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成10年(行ウ)第40号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金大阪府支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年06月26日
- 判決決定区分
- 認容(控訴)
- 事件の概要
- 被災者(昭和43年生)は、平成3年4月に大阪府警察本部に警察官として採用され、平成3年11月からM警察署地域課員として派出所に勤務していた。当時の被災者の勤務内容は、警邏、巡回連絡、立番、見張り、在所、盗難等の被害届の受理、盗難検索、駐車苦情に対する措置等であり、発症前1ヶ月に勤務は、平成5年6月26日、27日に行われた東京サミットの警備のため機動隊員として派遣され、26日午前7時30分にM警察署を出発し、翌27日午後11時に退庁するまで、拘束時間は28時間、時間外勤務は8時間30分であった。東京サミットによる人員の東京への人員の流出により、大阪府下の外勤体制は、同年6月28日から7月12日まで従前の三部制勤務から二部制勤務に変更され、被災者が配置された二部制勤務体制は、三部制勤務に比べると、4ないし5名の減員となっていた。同年6月26日から7月12日までに被災者が行った勤務は、当務が6日、非番が5日、週休が6日であった。
平成5年7月24日午前0時8分頃、被災者は盗難の件でカラオケボックスで同僚と事情聴取中、暴走族車と思われるオートバイのけたたましいエンジン音が聞こえたため、被災者が基地局に無線連絡をしたが、その直後椅子から落ちるように前のめりに倒れ、反応しなくなった。被災者はすぐに病院に搬送されたが、「急性虚血性心疾患の疑」による死亡が確認された。被災者には既往歴はなく、平成5年6月の健康診断では全く異常がなかったものであり、医師は被災者には冠動脈疾患や致死的不整脈につながるような基礎疾患は見当たらないとする。
被災者の父である原告は、被災者は同僚と比べて長時間労働を強いられるなど、その死亡は公務上の災害であるとして、平成5年9月10日付けで被告に対し公務災害の認定請求を行ったところ、被告は平成7年12月5日付けで公務外の災害と認定(本件処分)した。原告は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 1 被告が、原告に対し、地方公務員災害補償法の規定に基づき、平成7年12月5日付けでなした公務外認定処分はこれを取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 - 判決要旨
- 職員が公務上死亡した場合、災害補償が実施されるが、ここに「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいい、これが肯定されるためには、負傷又は疾病と公務との間に相当因果関係があることが必要である。そして、使用者等にその過失の有無を問うことなく危険を負担させ、損失の補填の責任を負わせるものであるという災害補償制度の制度趣旨及び地方公務員災害補償法の沿革、特質等に照らすならば、相当因果関係の有無は、当該災害が当該公務に内在又は随伴する危険性が現実化したものであるか否かをもって決するのが相当である。
被災者の業務はもともと深夜勤務を含む不規則なものであり、かつ拘束時間も23時間ないし25時間という長いものであった。そして警察官という仕事柄、時間外勤務が恒常的に発生しており、また平成5年1月以降は年休も取らず、5月の大型連休も出勤し、6月には2回サミット警備のための特別勤務に従事し、そのうち1回はジュラルミン製のチョッキ等重装備を装着しての28時間の断続勤務であった。被災者は7月14、15日に夏期休暇を取得したが、その後他の所員の夏期休暇のためB当務が連続することになり、仮眠もほとんど取れなかった。また警察官の勤務は、精神的・肉体的にかなりの重労働であることが窺われるが、被災者は特に真面目な性格で派出所における立番勤務も手抜きをせず真面目に行っていた。更に被災者は発症当時採用2年目の新米警察官であり、派出所での1人勤務は精神的な負担となっていたことも窺われる。そして被災者は、本件発症前は疲労が蓄積し、休日は終日家で寝ている状態であり、発症前日も忙しい勤務が続いており、その中で被災者が特にその検挙に熱心であった暴走族の走り去る音を確認し、その旨基地局に通報した直後に倒れている。
以上の事実を総合考慮すれば、本件発症は公務に内在する危険性が現実化したものとして、相当因果関係を肯定し得る。被告は、被災者が行っている勤務は通常の勤務状態であり、また特にその勤務中に本件災害発生の原因となり得る特別な事象が起こったわけではないから、公務と相当因果関係はないと主張する。しかし、警察官という被災者の勤務内容は、一つ一つ真面目に行おうとすればかなり厳しいものである上、現実の被災者の勤務はマニュアル通り行われておらず、時間外勤務も恒常化していたこと、他方で必ずしも規定通り勤務に従事していない巡査もいることなどに照らせば、仮に他の交番勤務の巡査が発症しなかったとしても、これをもって相当因果関係が否定されるとまではいえない。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法31条、42条
- 収録文献(出典)
- 労働判例795号62頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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