判例データベース

地公災基金奈良県支部長(O病院看護婦)突然死事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
地公災基金奈良県支部長(O病院看護婦)突然死事件【過労死・疾病】
事件番号
奈良地裁 − 平成11年(行ウ)第3号
当事者
原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金奈良県支部長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年04月17日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
 M(昭和34年生)は、昭和59年5月に看護婦資格を取得し、昭和60年4月から奈良県下のO病院に看護婦として勤務していた女性である。

 Mは6歳の頃、ネフローゼ症候群で入院し、完全寛解したが、昭和61年9月頃これが再燃して入院し、ステロイド療法を受けて完全寛解した。また、Mは24歳の時にバセドウ病を発症し、メルカゾールの投与により改善したが、O病院に転院して甲状腺機能亢進症の治療を受けていた。

 O病院におけるMの勤務は、帰宅時間が勤務終了より相当遅いことがしばしばあり、平成7年1月1日から事件までの年次有給休暇の取得はなかった。大淀病院では、個々の職員の疾病を前提にした健康診断等は実施されていなかったし、健康診断に当たっては、半日や1日も勤務できない状態になることから、結果的に診断を控えざるを得なかった。Mは、大淀病院においては、初診時に甲状腺腫大、発汗著明の甲状腺ホルモン異常症状を認めたが、不整脈やネフローゼによる浮腫は認められなかった。Mの死亡前3ヶ月の勤務状態は、日勤(8時間)35回、夜勤(16時間)14回、休日28日であった。
 Mは、平成7年9月23日午前3時頃、夜勤の仮眠中に死亡したところ、Mの夫である原告は被告に対し、同年12月1日付けで地公災法に基づく公務災害認定請求をしたところ、被告は平成8年10月15日付けで本件疾病を公務外の災害と認定した(本件処分)。原告は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却されたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
主文
1 被告が原告に対して平成8年10月15日付けでした公務外認定処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
判決要旨
 公務起因性の考え方に関しては、地方公務員本人の先天的素因や基礎疾患、基礎疾患等と公務とが競合原因となって発症した場合は、公務が疾病に対し相対的に有力な原因であればこれを認め、公務がその疾病の単なる条件(機会)になった場合にはこれを否定するのが相当である。

 一般に看護婦は、常に患者の動静に注意し、精神的な負担が大きいという性質があり、夜勤と日勤が頻繁に変わり、一定の生体のリズムを維持するのが難しいという職業上の特質がある。加えてMの地位と職責は、チームリーダーとして部下をまとめていく重要な立場にあって、かつ正規職員が休暇等にある中で、臨時職員では賄いきれない負担部分を引き受けていた。ことに本件災害直前の9月14日以降、その臨時職員の配置もなくなったことで、Mに係る負担は相当大きなものとなったと推察される。また、本件においては、特にファーストレベル研修会のために代休日に講義を受けたり、レポート作成のために休日の一定時間を費やすなどしていたものであり、その結果9月始めから本件災害までの間、実質的に完全な休暇は2日しかなかったから、Mは本件災害前には相当の疲労が蓄積され、過重な状態となっていたとみるのが相当である。

 Mの病態に関していえば、その病状は必ずしも良好に推移していたとはいえないまでも、月1回程度は定期的に医師の診察を受け、比較的安定した状態を保っていたと認められるのであって、上記公務の過重性を除外した場合に、Mの基礎疾患のみによって致死性不整脈が発生した蓋然性は低いと考えられる。したがって、本件災害は公務の過重な状態が継続し疲労が蓄積し致死性不整脈が誘発された可能性が高く、基礎疾患とともに上記過重な公務が相対的に有力な原因となったものとして、公務起因性があるというべきである。
 確かに、過重な労働の原因は、単独でこれをみたときには直ちに公務の過重性を基礎づけるとまではいえないものもあるけれども、これらの要因が複数競合し、しかも一定期間継続するような場合には、十分に公務の過重性を基礎づけるものというべきである。Mの服薬は不規則であり、その結果血液検査等からする適切な服用量等の算出も困難であったことが認められる。しかし他方、Mの服薬が不規則であったことは必ずしも本件災害の直前に限ったことではないし、本件災害以前にMの症状が悪化した事情の認められないことからすると、服薬の不規則が本件災害の一因との推認はできたとしても、だからといって、Mの過重な勤務実態をさしおいて、これが主たる原因であると推認するに足る証拠もないというべきである。更に投薬が不規則であったことも、O病院における医師への受診状況は必ずしも職員にとって受診しやすいものではなかったことに照らすと、これを専らMのみの責に帰することもできない。
適用法規・条文
地方公務員災害補償法31条
収録文献(出典)
労働判例827号155頁
その他特記事項
本件は控訴された。