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地公災基金三重支部長(I総合病院看護婦)くも膜下出血控訴事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
地公災基金三重支部長(I総合病院看護婦)くも膜下出血控訴事件【過労死・疾病】
事件番号
名古屋高裁 − 平成12年(行コ)第41号
当事者
控訴人 地方公務員災害補償基金三重支部長
被控訴人 個人1名
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年04月25日
判決決定区分
控訴棄却(確定)
事件の概要
 被控訴人(第1審原告)は、昭和40年4月に准看護婦免許を取得し、昭和54年4月、I市に准看護婦として採用され、同日以降本件病院に勤務していた女性である。

 被控訴人は、本件病院において、昭和59年4月から平成2年3月までは、ICU病棟で勤務し、同年4月から救急病棟勤務となったところ、同年7月6日から救急病棟の看護婦が1名減となったことなどから、救急病棟の看護婦の業務は余計増加した。

 同月19日、被控訴人は本来2人で行うべき患者の洗髪を、人手の都合がつかないため1人で行ったところ、突然気分が悪くなって倒れ、くも膜下出血と診断された。

 被控訴人は、本件発症は公務に起因するものであるとして、平成3年3月8日、控訴人(第1審被告)に対し、地方公務員災害補償法により公務災害の認定を請求したところ、控訴人は平成4年2月13日付けで本件発症を公務外とする認定(本件処分)をした。被控訴人は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
 第1審では、公務と本件発症との間の相当因果関係を認めて、本件処分を取り消したことから、控訴人はこれを不服として控訴した。
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
 当裁判所も、被控訴人の本訴請求は理由があるからこれを認容すべきであると判断するが、その理由は、原判決の説示を引用するほか、控訴人の当審における補足的主張に対する判断のとおりである。

 控訴人は、被控訴人が従事していた看護業務の勤務実態が、同種の看護婦の勤務実態と比較して過重であったとはいえない旨主張する。確かに、被控訴人が従事していた看護業務は、本件病院のICU及び救急病棟に勤務していた他の看護婦と比較して過重であったとは認められないし、他の総合病院におけるICU及び救急病棟に勤務する看護婦と比較して過重であったかどうかも明らかでない。勤務が過重であったか否かの判断に際しては、同種の職種との比較が重要であるが、ICU及び救急病棟に勤務する看護婦が特別の資格を必要とするものではないから、外来患者を担当する日勤のみの看護婦を含めた看護婦全体と比較すべきである。

 ところで、ICU及び救急病棟での看護婦勤務は、常時容態に注意を払う必要のある重症患者を相手としたり、迅速な対応を必要とする患者を相手とし、病状も多様であるので、他の病棟における看護婦業務に比べて精神的な緊張感が強く、かつ頻繁に巡回する必要があるため、体力的にも負担である。また、日勤を終えた後に翌日未明から引き続いて深夜勤をすることは身体に相当な負荷をかける業務であり、被控訴人は、平成元年において、このような形態の深夜勤務を月平均4.6回行い、平成2年ではこれらの回数はやや少なくなったが、本件発症前の1ヶ月間においても、このような形態の深夜勤務を5回行っていたものであり、平成2年7月6日以降は、救急病棟における看護婦数の減少や夏期休暇により、看護婦1人当たりの患者受け持ち人数が大幅に増加したものである。そうすると、これらの業務内容や勤務の実情を考慮すると、休日の日数は確保されていても、被控訴人の従事した看護業務は、一般的な看護業務と比較しても負担の重いものであったといえるし、発症前2週間からは明らかに過重な看護業務であったといえる。
 原判決の判断のとおり、夜勤そのものが脳動脈瘤の発達及び破裂に相当な影響を及ぼすとまでは認定できないが、過重労働になりやすいという点を考慮する必要があり、そもそも、被控訴人が従事していた業務が過重であり又は精神的負担の多いものであったと判断する理由は、単に夜勤が多かったことではなく、夜勤の形態や業務の内容によるものであるから、本件発症と公務との間で相当因果関係があるとの判断を左右するものではない。
適用法規・条文
地方公務員災害補償法25条2項、31条
収録文献(出典)
労働判例829号30頁
その他特記事項