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H社臨時員解雇事件

事件の分類
雇止め
事件名
H社臨時員解雇事件
事件番号
水戸地裁 − 昭和36年(ワ)第96号
当事者
原告 個人3名 A、B、C
被告 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1971年03月11日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 被告は、電気機械器具の製造・販売等を業とする会社であり、原告Aは昭和32年10年に臨時員として被告H工場に雇用され、以後1年ごとの更新をされていた者、原告Bは昭和32年11月に臨時員として被告H研究所に雇用され、以後2ヶ月ごとに2回、3ヶ月ごとに13回の更新されていた者、原告Cは、昭和34年9月に被告K工場に臨時員として雇用され、以後3ヶ月ごとに更新されていた者である。

 被告は、景気変動に備えて労働力の需給調整を目的として臨時員制度を採用したところ、臨時員の作業の性格も臨時的、付随的なものではなく、季節によって繁閑を生じるようなものではないばかりでなく、むしろ本工とともに基幹生産工程に組み入れられ、引き続き1年従事した者には勤務実績により本工登用の機会が与えられ、事実3年前後を経て本工に登用される者が少なくなかった。原告らはいずれも人事担当者から、真面目に働けば本工になる途も拓かれる旨説明され、その後被告は原告らとの雇用期間が満了しても、必ずしもその都度改めて労働契約を作成するなどの更新手続きを取ることなく、数日経過後にその手続きを取ることもあったほか、原告らの作業はいずれも本工と何ら異なることなく、両者が一体として基幹作業活動の一環を成していた。

 被告は、原告Aに対しては欠勤が多く責任感が乏しい等の理由から昭和36年1月上旬に、原告Bに対しては研究員として進歩がなく積極性に欠けている等の理由から同年3月17日に、原告Cに対しては虚偽の発言やビラ配り等により職場秩序を乱した等の理由から同年7月14日に、それぞれ雇止めの意思表示を行った。
 これに対し原告らは、採用当時「真面目に働いていれば引き続き働いてもらう」と言われた経緯から見ても、形式上の雇用期間が満了しても引き続いて雇用されると期待して雇用契約を締結したのであるから本件更新拒絶は権利濫用に当たること、仮に雇用契約の期間について当事者双方の合意が成立していたとしても、その期間の定めは社会的妥当性を欠き無効であること、本件雇止めは原告らの思想信条を理由としたものであり不当労働行為にも該当することなどを主張し、雇用契約上の権利を有することの確認を求めた。
主文
原告A、同Bが被告に対し雇用契約上の権利を有することを確認する。
原告Cの請求を棄却する。
訴訟費用は、原告A、同Bと被告との間においては被告の負担とし、原告Cと被告との間においては同原告の負担とする。
判決要旨
 原告らの雇用契約の更新、作業内容等の事実関係に照らすと、各雇用契約成立当時、当事者双方ともに、期間の満了により契約が終了するものとは考えておらず、被告としては労働力の過剰状態が生じない限り労働の提供を期待しており、原告らとしても将来連続して雇用されることを希求していたものであって、労働契約書の上では期間の定めはあるが、実質的には当事者のいずれかから契約を終了させる意思表示がない限り、期間の満了とともに当然に更新されることを前提として雇用契約を結んだものと認めるのが相当である。したがって各雇用契約は、期間の満了とともに当然更新され、この更新が反覆されるに従って漸次その有期的性格を失い、原告らにする各雇止めがされた当時には既に実質上存続期間の定めのない雇用契約として存続していたものと解すべきである。したがって、原告らに対する本件雇止めの意思表示は、解雇の意思表示に該当するものと解さざるを得ない。

 被告は、原告Aは欠勤、年休行使が極めて多く、作業計画の遂行に支障を来し、仕事に対する責任感を欠いているから雇止めした旨主張するところ、原告は昭和35年1年間に頭痛等の理由により13日間欠勤し、しかもその届出は殆ど当日の午前8時頃に行われたこと、原告が欠勤した日にその住居を留守にしたことがあったこと、原告が欠勤したため他の従業員の負担が増大し、時には作業量の消化に支障を来すことがあったこと、昭和35年10月7日、原告の反省を求めるため契約期間を3ヶ月とする労働契約書を徴したが原告の出勤状況は依然変わりがなかったこと、昭和33年か34年の夏原告は一時大型回転電機試験の作業を応援したが、この作業を担当している間も他の従業員に比べ欠勤が多かったことが首肯できる。しかしながら、臨時員就業規則上、欠勤及び有給休暇の届出は原則として当日の始業時刻までに行うべきことになっていること、大型回転電機試験期間中の欠勤は、偶々盛夏の時期で原告が胃を患った結果のやむを得ないものであったことが認められる。また原告の昭和35年における13日間の欠勤につき、欠勤当日本人が自宅を空けていたからといって健康を害していないと即断することは当たらない。以上の諸点を総合すると、原告は他の従業員に較べ勤務成績が劣っていると判断することはできても、臨時員就業規則所定の解雇事由に定める「勤務成績が著しく不良のとき」に該当するものとは認められないから、原告Aに対する本件雇止めの意思表示は、その効力を生ずる余地はないものといわざるを得ない。

 被告は、原告Bは研究補助者としての能力、研究心に欠け成業の見込みがないので雇止めした旨主張するところ、原告Bは研究心が旺盛でなく積極的に仕事に取り組む意欲に欠けており、そのの能力の点から考えて将来研究員として期待することができないものと判断し、雇止めすることを決意したことが認められる。しかしながら、原告Bの担当する実験研究に関する能力の開発は、上長の指導如何によるとことが少なくないものと考えられるところ、上長である主任研究員らの原告Bに対する指導監督が果たして適切なものであったかどうかはにわかに断定し難く、主任研究員の原告に対する前記評価は必ずしも首肯できない。以上を総合すると、原告Bは業務能力と勤務成績の双方につき他の従業員より劣っていることは否定できないが、臨時員就業規則に定める解雇事由「業務成績又は勤務成績が著しく不良のとき」に該当すると解することはできないから、原告Bに対する本件雇止めの意思表示は無効の解雇というほかない。

 被告は、原告Cに職場の秩序を乱し、被告及びその従業員の名誉・信用を毀損する懲戒解雇に値する行為があったので雇止めにした旨主張する。原告Cは被告国分工場の機械工としてボール盤作業に従事していたところ、技量や作業能率が劣り、協調性にも欠ける旨組長の意を受けた兄から注意された。兄は原告Cに対し下請工場に移るよう勧めたが原告Cの返事を得られなかったことから、組長とともに原告Cに対し退職を説得し、原告Cもこれに納得して退職を約束した。ところがその翌日の朝礼の際、原告Cは、被告が退職を強要しているが自分は辞めるつもりはないので支援して欲しい旨挨拶し、更に多数の従業員に対し、「被告は主任の兄を利用して退職を強要した」、「組長は、退職を強要したのは仕事上の理由ではなく思想上の理由である旨述べた」等を記載したビラを配布した。しかし、兄が原告Cに対し退職を勧めるについては、兄の上長は全然関係していないし、組長の行った原告Cに対する説得も、専ら兄の依頼に基づくものであり、かつ原告Cの思想を理由として退職を勧告したものでもない。原告Cはその翌日にも、出勤して来る従業員に対し「退職強要について、課長、部長、勤労の担当者等が関与している」旨の虚偽の事実を記載したビラを配布した。以上の諸事実に徴するとき、原告Cの朝礼の際の言動及び2度に及ぶビラの配布行為は、被告及びその従業員に対し、事実を歪曲してその名誉を毀損する背信行為であり、被告の経営秩序に違反するものであって、臨時員就業規則に定める懲戒基準に該当し、かつ行為の時期、場所、態様及び結果を総合検討するとき、その情状は重く懲戒解雇に値するものといわなければならない。
 ところで、原告Cは懲戒解雇処分を受けたものではなく、また右のような懲戒解雇事由は普通解雇事由のいずれにも該当しない。思うに、使用者が就業規則において解雇基準を定めた場合、解雇事由の限定列挙とみるか、例示列挙とみるかは、表現及び従前の慣行等を総合検討して判断すべきであるが、一般的にいって使用者が解雇事由を前記の解雇基準に自律限定するというようなことはむしろ例外であり、懲戒解雇事由にも比すべき事由があって普通解雇を受けてもやむを得ないと考えられる場合には、解雇事由の定めにかかわらず解雇できる趣旨と解するのが相当である。そうだとすると、原告Cに対する本件雇止めの意思表示は、普通解雇としての効力を生じたものということになる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
その他特記事項