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関東地方建設局K工事事務所人夫雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
関東地方建設局K工事事務所人夫雇止事件
事件番号
東京地裁 − 昭和45年(行ウ)第58号
当事者
原告個人9名

被告国
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1972年06月14日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 K工事事務所は、河川及び道路の改築、改良、補修等の業務を所管し、原告らは昭和30年代から40年代初めにかけて日々雇用の形態で同事務所に任用され、直営方式で施工する河川の堤防の草刈り、堤防天端の補修、道路の路面・側溝の補修、清掃等の肉体作業に従事していた非常勤職員である。同事務所長は、原告らに対し、昭和44年2月下旬に、同年3月31日限り任用更新を拒絶する旨通知し、同日以降の任用をしなかった。
 これに対し原告らは、国公法は国家公務員の身分保障を図っており、任期の定めのない任用を原則としていること、日々雇用の形態による任用を認めることは身分保障の趣旨を没却することになること、原告らの就労実態が常勤職員のそれと著しく異なってはいないこと、原告らが従事した業務は恒常的業務であり、10年近くにわたって継続的に勤務してきており、少なくとも昭和44年3月31日当時には期限の定めのない任用に転化していたことなどを主張し、一般職に属する国家公務員の地位を有することの確認を請求した。
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
1 期限付き任用の諾否

 国公法59条の条件付き任用の規定は、職員の職務遂行能力の有無を判定するために6ヶ月間の条件付採用を認めたものであって、この規定があるからといって、国公法が期限付任用をこの場合にのみ特に限定的に許したものとは解されない。また、同法60条の臨時的任用の規定も期限付任用を例外的に認めた趣旨のものと解することはできない。むしろ同条は、同法33条1項が職員の任用に関する根本基準として成績主義の原則を規定していることに対する特則を定めたものと解されるのである。常勤官職に欠員を生じ、これを緊急に補充しなければならない必要があって職員を臨時的に任用する場合などには、任用について同項の成績主義の原則による余裕のない場合もあるが、だからといって成績主義の原則によらないで採用した職員を無期限に国家公務員たる地位に置いておくことは、成績主義を採用した趣旨にもとり、任用制度も正常な運用を阻害する虞れを生ずる。同法60条の規定は、右のような相反する要請の調和を図り、一方で緊急の必要がある等一定の場合には成績主義の原則によらない任用を許容するとともに、他方でその任用から生ずる虞のある弊を避けるため特に臨時的任用の期間を厳格に定めたものと解されるのである。

 原告らは、日々雇用は国公法の定める身分保障を奪うものと主張するが、この主張は当たらない。同法は、職員の分限及び懲戒の事由を限定的に規定し、職員の身分保障を図っている。国家公務員の期限付任用が適法かどうかは暫く置くとしても、期限付任用が成立するためには、使用者としての政府と相手方との間において、任命行為の内容である期限についても合意が成立しなければならない。したがって、国家公務員の任用に期限を付することは、その意に反する不利益処分ではないから、同法の定める身分保障を奪うことになるものではない。

 しかしながら、一般職職員の期限付任用は全く無制約に許されるものでもなく、職員を任期を定めて任用することが公務の能率的運営を阻害するような場合には、期限付任用は許されないといわなければならない。要は、任期を定めた任用が許されるか否かは、当該職員の職務の性質、内容、任期の必要性等からして、国公法の制定目的に反しないかどうかによって判断しなければならない。

 甲府工事事務所の直営工事には、原告ら人夫のほか、行(二)の常勤職員も従事していたこと、行(二)職員は原告らと同じ作業に従事していただけでなく、そのかたわら、人夫に対する作業の指示、監督、資材の管理等のほか、請負方式による工事の監督等も担当していたこと等が認められ、これによれば原告らが従事していた仕事の内容は、行(二)の常勤職員のそれと必ずしも同じではなかったことが明らかである。

 昭和35年頃までは原告の大部分はいわゆる渇水期にだけ就労していたに過ぎないこと、原告らの月々の就労日数は、各人・各月によって必ずしも一定していないだけでなく、年度末に更新拒絶を受けることがなくなった昭和37年4月以降においてすら、月によっては20日に満たない者が多数あり、10日に満たない者や全く就労していない者すらいること、原告らのうちかなりの者は副業として農業を営んでおり、農繁期の6月には他の月に比して著しく就労日数が少ない者もいること、雨天や荒天の日には原告ら人夫は休日とされていたこと、これに対し定員化された準職員、補助員は定員化前から雨天等の場合にも就労していたことが認められる。このように、原告らの就労実態も常勤職員の場合とでは著しく異なるところがあった。甲府工事事務所が所管する河川及び道路の改築、改良、維持、補修等の業務それ自体は恒常的な業務であるが、原告らが従事していた具体的業務は、本来各年度の工事予算、工事実施計画によって増減変動し、天候にも左右され、必要とされる工事人夫の数も必ずしも一定しない性質のものである。

 以上のとおり、原告らは、国公法の定める成績主義の原則によらずに採用され、その従事していた業務はその時々によって増減変動し、必要とされる工事人夫の数も必ずしも一定しない性質のものであり、常に直営方式によって施工されなければならないものでもない。また作業内容も常勤職員と必ずしも同じではないし、一般的にみれば極めて単純な肉体的労務であり、その遂行に専門の知識及び経験を必要とせず、したがって代替性の強い性質のものであるから、同一人をして継続してその職務を担当させる必要性もない。更に、就労の実態からみても、常勤職員の場合に比して著しく異なった面があるから、このような業務に従事する原告らを日々雇用の形態で任用したからといって、公務の能率的運営を阻害する等国公法の目的に反するものとも認められない。したがって、原告らの任用に付された任期の定めは有効なものといわなければならない。

2 任期満了による退職

 原告らのように日々雇用の形態で任用された職員が1ヶ月を超えて引き続き使用されるに至った場合には、被告が当該職員の任用の更新を拒否しようとするときは少なくとも30日前にその予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。

 原告らの主張が、期限付任用が長期間更新して継続されるとその任用は当然に任期の定めのないものになるというのであれば、この主張は全く理由がない。期限付任用は、いかに長期間更新して継続されても、期限付任用としての性質を変ずるものではない。期限付任用と任期の定めのない任用とは、性質を異にする別個の任用行為であり、しかも少なくとも常勤職員の期限の定めのない任用行為は厳格な要式行為であるから、任命権者による任期の定めのない職員への任命行為がなければ、任期の定めのない職員への任命が有効に成立し得る余地がないからである。

 日々雇用の形態で任用された職員については、1日の経過をもって任用は終了するのであり、将来に向かって任用を拒否することは、従前の任用を終了せしめる事由となるものではなく、その日以降の新たな任用を拒否するだけである。原告らは任期の満了をもって当然に職員たる地位を失ったのであって、本件更新拒絶によりその地位を失ったものではない。そうすると、本件任用更新拒絶をもって国公法89条1項にいわゆる免職ないし著しく不利益な処分ということはできない。
 原告らが組合を結成し、活動をしてきたことは当事者間に争いがないが、甲府工事事務所長が、組合ないし組合員である原告らを敵視し、本件更新拒絶に及んだことを認めるに足りる証拠はない。かえって、建設省では、行政経済の観点と民間土木業者の工事施工能力の整備状況から、業務遂行の合理化を図るため、昭和30年前後頃からそれまで直営工事として行われてきた業務を漸次請負方式で施工するようになったこと、甲府工事事務所においては、特に河川及び管理業務が増大し、他方では定員内職員の削減問題が生じていたので、所管業務の能率的遂行と職員の合理的配置を図る必要があったこと、そのため工事施工方式を直営方式から請負方式に転換することにし、それまで直営工事に従事していた原告らの任用を昭和44年3月31日限り更新しない旨決定したことが認められる。したがって、原告らの主張は認められない。
適用法規・条文
国家公務員法33条1項、59条、60条、89条1項、
労働基準法20条1項、21条
収録文献(出典)
その他特記事項
本件は控訴された。