判例データベース
関東地方建設局K工事事務所人夫雇止控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 関東地方建設局K工事事務所人夫雇止控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 昭和47年(行コ)第46号
- 当事者
- 控訴人個人9名
被控訴人国 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1974年02月19日
- 判決決定区分
- 控訴棄却
- 事件の概要
- K工事事務所は、河川及び道路の改築、改良、補修等の業務を所管し、控訴人らは昭和30年代から40年代初めにかけて日々雇用の形態で同事務所に任用され、直営方式で施工する工事の肉体作業に従事していた非常勤職員である。同事務所長は、控訴人らに対し、昭和44年2月下旬に、同年3月31日限り任用更新を拒絶する旨通知し、同日以降の任用をしなかった。
これに対し控訴人らは、国公法は国家公務員の身分保障を図っており、任期の定めのない任用を原則としていること、日々雇用の形態による任用を認めることは身分保障の趣旨を没却することになること、控訴人らの就労実態が常勤職員のそれと著しく異なってはいないこと、控訴人らが従事した業務は恒常的業務であり、10年近くにわたって継続的に勤務してきており、少なくとも昭和44年3月31日当時には期限の定めのない任用に転化していたことなどを主張し、一般職に属する国家公務員の地位を有することの確認を請求した。
第1審では、国公法上期限を定めた任用は認められていること、期限を定めた任用がいくら長期間にわたっても期限の定めのない任用に転化することはないこと、控訴人らの就業実態は常勤職員のそれとは異なっていること等から、本件雇止めを認め控訴人らの請求を棄却したことから、控訴人らはこれを不服として控訴した。 - 主文
- 本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 期限付任用の諾否
控訴人らは国公法が原則として期限付任用を許さないとして最高裁判例を引用するが、同判例では期限付任用が法の明文なしに許される場合のあることを明言しているのであって、同判例を根拠として本件の期限付任用が許されないとする緒論は採用できない。次に控訴人らは、仮に期限付任用が許されるとしても、国公法の特例として人事院規則に定められて初めて認められる旨主張するが、国公法においても、期限付任用は特に法律にこれを認める旨の明文がなくても許されるものと解する。また控訴人らは、期限付任用は国公法の精神に違反するものであるとも主張するが、本件の控訴人らが従事するような業務について期限付任用を認めたからといって、同法の精神に違反することはない。原判決も認定するように、控訴人らのうちのかなりの数の者が定職として農業を営み、そうした都合もあって、人夫としての就労は1年のうち秋頃から翌年の早春までの季節にだけ行われてきたという沿革があり、それらの月々就労日数も各人によりまた各月によって必ずしも一定せず、月により20日に満たない者が多数あり、10日に満たない者や全く就労していない者さえあること、また仕事の内容は極めて単純な労務であって、このことはまさに期限付任用を必要とする特段の事由に該当し、かつ反面において、任用期間中における身分保障を定めた国公法の諸規定の適用は、いずれも排除されることはないのである。したがって、期限付任用を認めることは、国公法の精神に違反するものとはいえない。
2 本件更新拒絶の法的性質
本件更新拒絶がなされた当時、一般職の職員である控訴人らについては、「国家公務員法の精神に抵触せず、かつ同法に基づく法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において」、労基法の規定が準用されることになっていた。ところで、労基法21条但書1号、20条1項の規定の趣旨は、日々雇い入れられる労働者が1箇月を超えて引き続き試用されるに至った場合には、使用者はその労働者の雇用を中止するためには、少なくとも30日前にその旨を予告しなければならないというものであるが、これらの規定は国公法の精神に抵触するということはできず、また同法に基づく法律又は人規によって定められた事項に矛盾するとも考えられないから、控訴人らの任用の更新を拒絶する場合には全面的に準用されるものと解すべきである。
人規の規定は、日々雇用の黙示的な更新を認めており、その限りにおいて日々雇用者は継続して任用を受けることに対する期待を有しており、「別段の措置」がなされない限りこの期待は充たされる関係にある。しかし、一方において任用の更新がいかに長期間にわたって反覆されたからといって、任用の形態そのものが変化するわけのものではないから、任期は相変わらず1日ごとに終了しているのであって、このために日々雇用が期間の定めのない雇用に転化することにならないのは勿論のころ、日々雇用者の側に任用更新を請求する権利が発生することにもならない。してみれば、再任用拒否によって、日々雇用者側は法律上何ら具体的利益の侵害を受けたことにはならないから、人規にいう「別段の措置」は「免職」に当たらないのはもちろんのこと、「著しく不利益な処分」に当たるともいうこともできない。しかしながら、本件の日々雇用者のように10年余も継続して再雇用の更新を受けてきた日々雇用者にあっては、再雇用への期待はいわば強度の定着性を持っているともいうべきであり、これを無視することは国公法の目的に反するものとして相当でない。そうだとすれば、右の再雇用への期待的地位については、法益に準じたものとしての保護を与えるべきであって、本件の「別段の措置」は、国公法89条1項にいう「著しく不利益な処分」には当たらないけれども、控訴人らの側において「著しく不利益な処分を受けたと思料する場合」として同条2項の規定に基づき、処分権者に対し、処分理由説明書の交付を求めることは許されると解すべきである。そしてこのような場合に、処分権者は処分理由書の交付を拒否することはできないと解すべきである。
3 本件更新拒絶の意思表示の無効原因
本件任用更新拒絶の意思表示は、国公法89条1項にいう「いちじるしく不利益な処分」には当たらないから、処分権者である甲府工事事務所長が処分理由説明書を控訴人らに対して交付しなかったからといって、違法はない。本件任用更新拒絶の意思表示は「免職」処分には当たらないから、控訴人らの国公法78条違反に関する主張は理由がない。
元来日々雇用者の任用拒絶は雇用主側の自由に属するものである。したがって、例えば更新拒絶が何らその必要もないのに殊更の差別的に特定人だけに不利益を与えるような意図の下になされた場合のごとく、明らかに濫用と見られる場合とか、不当労働行為と見られる場合等でない限り、すべて雇用主側の裁量に委ねられたものと解すべきである。しかるに本件において控訴人らの指摘する事情は、いずれも右の違法を招くような事実ではないから、本件任用更新拒絶の意思表示には、その内容において何らの違法もなく、その方法においても権利濫用、信義則違反は認められない。 - 適用法規・条文
- 国家公務員法74条、78条、89条1項、
労働基準法20条1項、21条 - 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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東京地裁 − 昭和45年(行ウ)第58号 | 棄却(控訴) | 1972年06月14日 |
東京高裁 − 昭和47年(行コ)第46号 | 控訴棄却 | 1974年02月19日 |